第七話:入学初日・前編
少し遅くなりました。
「諸君、入学おめでとう。私はこの二組の担任になったジャン・ド・バレーヌだ」
入学式を終え教室に戻ってきた後一人の男性が入って来てそのように告げた。二十代中盤位の男性は教室内を一回見回すと注意事項などを伝えていく。
現在僕は王立士官学校に入学し二組の教室にいる。この学園では一組から順に優秀な人物が配置されているため僕は上位に入る場所にいる事になる。
とは言え前も言った通りこの学園は浮き沈みがとても激しく一組二組に入ったからと言ってサボっていたらあっという間に退学まで転げ落ちてしまう。故に僕だけではなくこのクラスにいる生徒は皆真剣な表情で先生の話を聞いている。先生の話を聞き逃して大変な事になるわけにはいかないからな。
「…という訳だ。授業は明日から始まる。今日はもうこれでお終いだが決して許可なく決闘などを行わないように無許可で行っているのを発見した場合決闘を行っていた者を退学処分にするからな。以上、解散!」
ジャン先生はそう言うと教室をさっさと出ていく。二組の生徒も近くの人と離したり教室を出て行くものもいる。僕は席を立って図書室に向かう。王立士官学校の図書室なら何か面白い本でも置いてありそうだからな。
「あ、あの」
ふと、声をかけられた。声は後ろから聞こえて来たけど僕に向けられた言葉だと言うのは何となく理解できた。だって僕の服を後ろから掴んでいる人がいるんだもの。後ろを振り向くと昨日であった少女がいた。そう言えば二組にいたような気がするな。
「き、昨日は、ありが、とうございました」
「どういたしまして。あのくらい問題ないよ」
実際特に手間がかかった訳じゃないしお礼を言われるほどの事でもない、と僕は思っているんだけどどうやら目の前の子はそう思っていないみたいだ。
「わ、私、アンナ・ド・ギュイって言います…。子爵家、です」
「僕はシャルルって言うんだ。僕は農民出身だけど、えっと、敬語で喋った方がいいかな?」
因みに僕の村では敬語を使えるのはほとんどいない。何せ貴族どころか領主すら来ないから使う機会がなくて廃れちゃったんだよね。僕は一応前世の記憶があるから敬語は出来るけど。
「いい、敬語で喋られるほど、偉いわけじゃ、ないから」
途中とぎれとぎれになりながらもそう言う。アンナさんはあまり喋るのが得意じゃないのかな?なら、出来る限りリードしなきゃ。このままだと直ぐに話が途切れそうだからね。
「それじゃ普通に話すね。えっとアンナさん。僕の事はシャルルでいいよ」
「…うん、シャルル」
僕が差し出した手をアンナさんは笑みを浮かべて握ってくれる。村の女の子の手よりも暖かく、やわらかい手に僕は少し恥ずかしくなってしまう。でも、いつまでもこうしている訳にはいかないから手を放して話しかける。
「僕はこれから図書室に向かうんだけどアンナさんも一緒に来る?」
「…うん、私も、図書室に行く予定、だった」
「なら一緒に行こうか」
そう言って僕とアンナさんは二人並んで図書室に向けて歩き始めた。図書室まではそれなりに距離もあるしいろいろなお話が出来るといいな。それで友達にでもなってくれると嬉しいなぁ。




