第六話:出会い
僕が王都パリスィに来るのはこれで二回目だ。一回目は言わずもがな入学試験の時。そして今僕は二回目となる王都パリスィに来ているがやはり何度見ても圧倒的と言わざるを得ない。
二重の壁に囲まれ川が中央部を流れるこの王都はたくさんの建物もさることながら人の数もまた壮大だった。メインストリートは戦争中は王国軍が通るため広めにとられているはずだがそれでも人の多さで一杯であった。
僕は一昨日王立士官学校に到着したけど予想以上に早く着いたみたいで入学式まで二日ほどの余裕が出来ていた。昨日は荷物を僕が住む寮に入れたりして一日を使ったけど今日は一日中予定がないから王都に来てみた。でも今は後悔しているよ。まさかこんなに人が多いなんて思わなかったよ。うへぇ、人で酔いそう…。
取り合えず僕はこの人の波から逃れるために大通りの端に並ぶように建っている様々な商店を見る。野菜などを売っている店や武具を売っている店。中にはなにやら怪しげな店もある。
そこで僕は一つの建物に目が行く。周りの店よりも一回り大きく二階建ての店は看板に本の文字が書かれている。どうやら本屋のようだ。この時代ではとても珍しいね。
この時代紙はとっても貴重な物だ。ちょっと前までは羊皮紙が使われてたみたいだけど少し前にアイネアス半島で製紙工場が作られてから欧州全土に広まっていたみたい。だけどまだまだ貴重であることには変わらなくて僕がこの世界で紙を始めてみたのは入試前に配られたパンフレットもどきだからね。僕がいた村なんて紙どころか羊皮紙ですらとても高価な物だったな。
そんなわけで僕はふらふらと誘われるようにお店に入る。店は僕が予想した通り本屋だったみたいでずらりとたくさんの本が並んでいる。盗難防止の為なのかレジは二つあって入ってすぐの場所と奥に一つずつあった。確かにこれなら店中を見渡せることが出来るね。
僕は取り合えず面白い本がないか軽く見ていく。本は種類ごとに分けられていて見やすかった。中でも多かったのは恋愛系の本だね。大体店の半分くらいがこの系統の本だったよ。その他として料理本や冒険談、聖書の様な物もあったよ。後、数が少なかったけど魔術の本も置いてあった。最近は変わりつつあるけど未だに魔術に対する迫害がある中でこれだけの数の本を置くなんてこの店も勇気があるね。もし過激な人に見つかれば店ごと燃やされるんじゃないかな。
そう思いながら店の中を見ていくとひとりの少女が目に入った。僕よりも身長が低いけど多分同い年位かな?必死に手を伸ばして上にある本を取ろうとしている。なんか恋愛ゲーム?によく出てきそうなシチュエーションだな~。僕は何時までも見ている訳にはいかないから少女が取ろうとしている物を予想して取ってあげる。
「あっ…」
「欲しかった本ってこれであってる?」
思わずと言った感じで声を上げた少女に僕は本を見せながら確認する。うん、後ろから見た感じじゃよくわからなかったけどなんか暗い雰囲気の人だね。僕を一瞬だけみると俯きながら何度も頷いてくる。僕は少女に本を渡すと少女は何度も頭を下げて駆け足気味でレジに向かって行った。
多分話慣れていなかっただけだと思うんだけど少し傷つくな~。それに結局何も起こらなかったし。仕方ない。二回はお店じゃないみたいだし読みたい本は無かったから僕も店を出るか。でもあの人込みを通るのは億劫だな~。




