第四話:入学試験
「入学希望の者はこの門を入って真っすぐ行ってください!保護者や付き添いの者は申し訳ないがここで待機してください!」
入学試験の担当者と思われる女性が一生懸命大きな声を上げて叫んでいる。しかし、悲しいかな。女性の声は周りの喧騒に飲み込まれて全然聞こえてこない。
ここは王立士官学校の中に通じる四つの門の内の一つ。主に入学試験が行われるときに開かれる門だ。それ以外の時は余程の事がない限り閉まったきりで門の前はがらんどうになっている。しかし、今門は開け離れており門の前には三百人近い入学希望者とそれよりも多いであろう保護者で埋め尽くされていた。軽く見ても六百はおりちょっとした軍勢に見えなくもない。
「お、おおぉ。凄い数だな」
一緒に付いて来てくれた父は物凄い人数に大分気圧されている。母も声には出していないがかなり表情が硬い。自分たちの農作業を村の友人たちに任せてまで付いて来てくれた父と母だが二人は村を出た事がないらしい。二人ともあの村の出身で王都に来る事なんてなかったそうだ。そんな両親に僕はナント声をかければいいのか分からなかった。基本的にこの時代の人間、特に地方の村人なんて戦争にでも徴収されない限りこんなものなのだろう。前世の記憶を持っている僕が異常なだけなのだ。
とは言え今の状況ならこの異常な状態はありがたい。下手に緊張して凡ミスなんて出来ないからな。
「父さん、母さん。頑張ってきます」
門の近くまで来た僕たち家族は今挨拶をしている。ただ入学試験を受けに行くだけなのだが両親はとても心配らしく母に至っては目じりに涙を貯めながら僕を抱きしめるほどだ。
「たとえ入学できなくてもいいから全力を尽くしなさい」
「はい、母さん」
間近から聞こえてくる母の声に僕は短く、されど決意を込めて返事をする。入学試験がどれほどの物か分からないけど気を引き締めてかからないと。今日の為に僕なりに出来る事はやってきたつもりだ。
「シャルル、父さんからは何も言う事は無い。だが、後悔しないようにな」
「はい、父さん」
いつも以上に険しい顔をしている父にも挨拶をする。暫く母に抱きしめられて恥ずかしかったがやがて時間が迫ってきて母は渋々ながら離した。僕は門をくぐり改めて両親の方を向く。
父さん、母さん。必ず受かって戻ってきます。
心の中で僕はそう呟いた。
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「全員席につけ」
入学試験の会場は現代的な教室の様な部屋であった。どうやらいくつもの部屋に別れて試験を行うらしい。僕は将来の同級生候補兼ライバル達を見る。
大体同い年位だが中には十歳と思われる人や成人(十五歳)していると思える人もいる。最低条件が十歳以上というだけで年齢の上限は決まっていない。その為今年はどうか知らないが昔には四十歳とこの時代では老人と言える年齢の人も入学試験を受けたらしい。ただ、肉体的な衰えがあったため体力試験で落ちたらしいけど。
「早速テストの問題を配る。私の声に合わせて始めるように時間は一時間だ」
三十代くらいの教師の説明を聞きながら僕は鼓動が早くなってきているのが分かる。流石に試験と言う事もあってとても緊張する。やがて全員に配られたようで教師は僕たちを見回した。
「…よし、では試験開始!」
教師の言葉に僕は答案用紙にかじりついた。




