第十一話:女傑
そんなこんなで無事に王立士官学校に入学した僕はこの二か月半の間に様々な事を行った。最初の授業以降僕は魔術の基礎訓練を毎日欠かすことなく行いそれと並行して武道の訓練も行っていく。この世界は弓や魔術があるとはいえ戦争の基本は剣や槍による白兵戦だ。ここを無事に卒業できれば下士官になれるとはいえそれで武道をおろそかにするわけにはいかない。
この二か月半の間に二組の生徒と大分仲良くなったよ。特に仲がいいのが入学前日からの仲であるアンナさんにクシー伯爵家の次男ベルナールだ。ベルナールとは最初の武道の授業で一緒のペアになった事がきっかけだった。それ以来ベルナールとはよく話すようになった。それどころか二組に置いて農民と言う事で若干浮いていた僕との仲を取り持ってくれたりもした。もしベルナールがいなければ僕の交友関係はもっと小さい者になっていたのは何となくだが予想が出来るよ。
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さて、これまでの回想を終えて僕は花畑を後にする。目指すは図書館だ。ミレイユさんが昨日新しい本が入ると言っていたからな。どんな本なのかとても楽しみだ。
そう思っていると大きな物音が聞こえてくる。僕が今いるのは花畑から図書館に向かううえで最短距離である寮の裏手である。あまりこの辺に人は来ないためその物音がとてもよく耳に響いた。
最初はネコか何かが迷い込み物を倒したのだろうと思ったけどその後に続くように人の悲鳴と数人の笑い声。これは、恐らくあれだろう。そう思った僕はゆっくりと、気づかれないように音のする方に歩いていく。
壁に張り付きゆっくりと音のした先を見れば数名の生徒が一人の生徒を囲むように立っていた。あまりよく見えないけど制服からして同学年の、それも一組の人かな?
王立士官学校は学年と組が分かるように制服の肩にラインが入っている。学年を示す色は一年から順に赤、青、緑、黄、白、黒となっていて組を現す色も一組から順に同じようになっていた。彼らの肩には赤い三本線のラインが入っていた。因みに僕は一年の二組だから青のラインを挟むように赤のラインが二つ入っているよ。
そして囲まれている生徒はここからでは分からなかったけど囲んでいる者達が笑いながら名にかを言い出した。
「ハハハハハ!五組の負け犬が俺らに楯突こうなんて生意気なんだよ!」
「そうそう、負け犬は負け犬らしく地面に這いつくばってろよ!」
「負け犬のお前にはその姿はとっても似合っているぜ。流石は負け犬だな!」
一組の生徒たちはその様に暴言を吐きながら五組の生徒を蹴っている。その時に僕は一組の顔を見ることが出来た。彼らは確か親のコネで一組に入った貴族のボンボンたちだ。武術でそれなりの点を取ったけど筆記試験で壊滅だったと二組の生徒から聞いていた。
そして僕は一組の生徒の奥にもう一人いるのが分かったけどその姿に目を奪われた。
女性だった。別に王立士官学校に入学している生徒は男子だけではない。アンナさんがそうだし二組には他に数名女性生徒がいる。だけどまさか一組の生徒と共に五組の生徒を苛めているとは思わなかった。
黄金の如く輝く腰まで届く長い髪をポニーテールにして束ね、やや目つきの鋭い蒼い瞳。そしてそれらのパーツを殺すことなく、むしろ美しさを際立たせている頭。そして学生服を着ていながら出るところは出て閉まるところは閉まっている黄金比ともいえる体形。彼女を瞳に映しておきながら心を奪われない者は存在しないとも思えた。
そして僕は彼女の事を知っていた。一組に在籍し入学試験では筆記、体力共に満点をたたき出した大貴族の娘であり女傑と呼ぶにふさわしい、
その者の名は
「ジャンヌ、ド・パルティエーヴ…」
僕は自然と彼女の名を口に出していた。
※一応言っておきます。ジャンヌと書かれていますが決してジャンヌダルクの事ではありません。