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逃避して溺れて死にたい 1

薄れゆく意識の中で、自分が溺れていっているのを感じた。それは何処か遠い所へ。眼は覚める気を見せず、夢の中にぐいぐいと溺れていっているような感じがする。


目を開けたら、宮殿のような建物が目の前にあった。私は、ちんぷんかんぷんなまま、そこに立ち尽くしていた。ぼんやりと、目をまん丸に開いたまま。


「君は、こんなところで何をしている?」


えっ、と驚きながらも後ろを振り返る。なんなんだろうと思いながらも。


「私は、何も。ただ、目が覚めたらここに居たの。しらない場所だけど」


「そうか」


話しかけて来たその人は、白い髪に短い髪。風になびいて少し見える眼は、私の心を射止めるようで。いわゆる美男。


「夢を、見ているのか」


「間違いないわ」


ため息をついた。今とは違う、この世界にいられるなら、私はどんな世界でも居たいと。居心地良さそうだと初見ながらに思った。


「この世界も意外と悪くは無いと思うぞ。では、またな」


私はまたねとも言わず、男性が歩いていくのをジッと見つめていた。何をしたらいいかはわからないけど、とりあえず現実にいなくていいなら、ここで居たい。


そびえ立つ宮殿は、夕日をあびて、きれいな色に染まっている。もう夜が来るのかな。そう感じている。私はこの宮殿を前にした場所であまり移動して居ない。宮殿の前で開かれる、パーティーをただただ見ていた。


寂しげな、夕方を今、おくっている。自分でもどうしたらいいか、分からないまま。通行人に声をかける勇気もないまま。


この世界にいる理由は精神的な辛さ。現実逃避したい気持ちが強く募って、最初に行った世界で、色々な世界に行ける装置をもらった。それを使って色々行き来を繰り返した。


踊ったり、笑ったり、お酒を飲んだりとか。そんな色々楽しい世界にいられるなら、私はずっとこの世界にいたい。


今、そびえ立つ宮殿の前でいるけれど、そこに思い切って入ってしまおうかと思う。怖くない怖くないと言い聞かせながら、馬のように駆けて、扉の方に向かった。


誰がいるかは分からない宮殿の向こう。宮殿に導く扉の威厳が少し怖い。でも、思いっきり開けないと、何も始まらない気がした。


思いっきり扉を開けると白い光が私を襲うかのようにして、光り出した。誰か助けてと言うお願いもできないまま、飲み込まれていく。


「いただきまーす」


「今日の晩御飯は、なあに?」


「主役はね……」


誰が話しているか分からない。恐る恐る目を開けたら、何かの台に私が乗せられていた。手錠をされているし、なんか知らない人が包丁を持って笑っているし。


「え!」


最低口にガムテープはされていなかったので、叫ぶことは一応出来る。今の状況は人肉を食べますという事をさしているのだろう。


「目覚めたみたいだね、あー困る困る!麻酔が解けちゃったのかな!」


人肉を喰らい尽くしたいと、考える狂気の男。


「お母さん、じんにくってレアなんだよね?食べたい食べたい」


まだ何も知らない生まれたての幼女。付け足すならば狂気。


誰か、誰か助けてほしい。いくら夢の中であれど、こんな事はされたくない。咆哮をしてやるかと考えたその時、全く知らない足音が耳に入って来た。


「おい。こいつは人肉には向かないぞ」


赤い髪に、闇に包まれた色のコート。腰にさした剣。かっこよさをガッツリ表しているなと見ていて思う。


「はぁ?何言ってんだ?」


「なんでなんで!たべたい!」


人肉を欲しがるクチが喚いている。なんでなんで、と。思い通りにいかないとムカムカするのはよくある話だ。


「こいつの肉は毒まみれ。さっき、こっそり調べたのだよ。お前ら、死にたいのか?この何の非もない奴の人肉と毒を喰らい尽くしたいか?」


演説のように、訴える彼の顔は、血が疼くかのような表情だった。こんな、凄いことも、たまにはある。


「あー。確かに嫌だね。人肉を喰ったところで死ぬんなら、他の人肉を。けがれなき人肉を喰わせてくれ」


「我らに最高の人肉を」


「他は何も要らないさ」


この台詞を聞くと、頭のイカれた人だなとは思う。でも、いきなり、なんかの台に乗せられて、人肉を異常な程求めるのは、この人達の食べ物なんだと思う。


人肉は食えないよと散々夢じゃないリアルの中で言われた。ただこの夢の中の世界にとっては、人肉はレアなんだろうなぁ。


「おい。大丈夫か?」


赤い髪の男が私の目の前に現れる。手錠は、がちゃがちゃ動かしたのち、外れた。かなりぎこちないように思えるけど、作りがちゃちなんだろう。


「大丈夫」


手錠が外れ、辺りを見渡したら、誰の人肉を喰らい尽くそうかと相談する人が居る。もう寄ってくる事はないと思うが狂気であることにはまったく変わりはない。


赤い髪の男は、私を引っ張って、宮殿の厨房らしきところに連れていった。そこにつれていくと、彼はふふふと笑った。


「お前を守れた。良かった」


「あ、ああ。守っていただいて、ありがとうございます」


「大丈夫さ」


誰もいない厨房。彼は両手で私の顔に触れた。ぺち、と触れた。


「いきなり、馴れ馴れしくてすまんな。君を探していたんだ」


「え、私を?あなたに面識があったように思えないわ」


「最初、君ははじめの世界で居たよね。あの、ここじゃなくてさ、一番はじめの世界。色々な世界をランダムで行き来する装置をもらったところ!」


口調が変わったように思えるが、これがもしや、彼の性格なのだろうか。


「もう、そのくだりとかまったく覚えて居ないのですが!」


「覚えて居なくても、軽くお話したんだよー。僕は剣士を目指すって、私は魔法使いになる、って言っていたんだよ」


こんなアホなことを言った覚えがない。


「そういえば、この世界にいて何年なんだよー?」


「5年」


「ええ……じゃあ、覚えてないね!ショックだよ!」


「し、しらないわ……なんの話をしているのかしら!」


意味がわからなくて破裂してしまいそうな勢い。

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