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23.謝ればなんでも許してもらえると思っている節があるよね

 まさか自分の家に、胡桃以外の女の子を呼ぶことになるなんて思ってもみなかった。そもそも女の子と仲良くなる機会なんてなかったし、まともに話したことがあるのも柳ヶ瀬さんと知り合うまでは胡桃だけだったから。


 だから実際に自宅へ着いた頃には僕の心臓はバクバクと鼓動していて、連れてきてしまったことを後悔し始めていた。


「へぇ、ここが和泉くんのお家かー」

「ご、ごめん。普通の家で……」

「普通の家でいいと思うよ。ちゃんと温かみがあるから。だって、毎日和泉くんの家族を守ってくれる大きな屋根があるんだもん」


 ずいぶんと詩的なことを言う柳ヶ瀬さんは、どこか嬉しそうだった。僕の家にも温かみがあるのだとしたら、きっと柳ヶ瀬さんの家はサウナみたいに熱々なんだろう。


 機会があれば、自宅を見てみたいと思った。


「それじゃあ、中に入ろっか」

「あ、えっと、待って!」

「どうしたの?」

「あの、心の準備が……」


 すると柳ヶ瀬さんは呆れたように目を細める。


「自分の家に入るのに、心の準備も何もないでしょうに。君は毎日帰ってくるたびに、ここに立ち止まっているのかい?」

「そういうわけでもないんだけど……」

「じゃあいつも通りシャンとしてなさい。いや、いつもシャンとはしてないか……とりあえず、しっかりしなさい」


 何かひどいことを言われたような気もするけど、聞かなかったことにした。せっかくあの柳ヶ瀬さんを自宅にお呼びしたんだから、しっかりしないとつまらないと思われてしまう。


 でも僕はまだ覚悟というものが決まっていなくて、きっとそれを見抜いた柳ヶ瀬さんは、教えを説くように話し始めた。


「和泉くんは私のことを崇高な人だって思ってるかもしれないけど、別にそんなことはないんだよ。いくら周りの人たちにもてはやされて、みんなに好かれていても、どうせ和泉くんと同じ人間なんだから。和泉くんはきっと、好かれているってことを勘違いして、みんなより優れているんだって驕っている人たちばかりを見てきたんじゃないかな。どんなに偉ぶっていても、みんな結局同じなんだから、和泉くんは遠慮をする必要なんてないよ。特に、私に対しては遠慮をするな。私はそういうことをされると、壁を作られてると勘違いされて傷つくんだからな」

「え、傷つくの……?」

「当たり前でしょうが。仲良くなりたいと思ってるのに距離を取られたりしたら、傷つくに決まってるでしょ。和泉くんはそう感じたことはないの?」


 そう問われて、実際にそんな風に感じたことはあまりないなと思った。そもそも誰かとこんなにも会話をしたのは、小学生以来のことなんだから。


 でもたとえば、結乃に距離を取られたりでもしたら、僕は深く傷ついてしまうかもしれない。たとえば柳ヶ瀬さんがある日突然僕に話しかけてこなくなったら、悲しくなるかもしれない。


 柳ヶ瀬さんが話しかけてこないということは、クラスメイトとのいざこざが減るということなのに、それなのに僕は、そのことが悲しいと思ってしまっている。


 つまり僕は、柳ヶ瀬さんともっと仲良しになりたいと思っているんだろう。


 僕は、柳ヶ瀬さんも同じことを思ってくれていると考えたこともなくて、柳ヶ瀬さんの気持ちを読み取ることを一度もしてこなかった。


 やっぱり柳ヶ瀬さんが、僕と仲良くしたいと思ってくれているなんてことをあまり信じられないけど、信じないことで彼女を傷つけているんだとしたら、僕はきっと最低な人間なんだと思う。


 今まで僕は、無自覚に彼女のことを傷つけてしまっていたのかもしれない。


「ごめん……」

「あれ、どうして謝るの?」

「僕、自分のことばっかりで、相手のことを考えてなかったかも……」

「え、そんなことはないと思うが……」

「え、そんなことはないの?」


 柳ヶ瀬さんは今度こそ大きなため息をついて、呆れたように手のひらをおでこに当てた。


「どこから考えが曲解したのかはわからないけど、私はもっと自分に自信を持ちなさいって言いたかったんだよね」

「え、あ、そうなんだ……」

「そしてそれは、これまでに私が何度も言ってきたはずだが?」

「ご、ごめん……」

「和泉くんって、謝ればなんでも許してもらえると思っている節があるよね」

「そんなことは、思ってない、と思う……」

「それじゃあ私は許さないから、早く自分に自信を持ちなさい!」

「わ、わかりました!」


 大きくお尻を叩かれた気がしたけれど、叩かれたのは背中だった。いつも身体的に接触してくるときは優しくしてくれるのに、今回はわりかしダメージがあったような気がする。


 ということは、いつもより柳ヶ瀬さんは怒ってるんだろう。これ以上怒らせないためにも、とりあえず僕はしっかりと背筋を伸ばした。


「私と和泉くんは仲の良い友達ね。友達は自分の家に呼んでも不思議じゃないし、肩肘張るようなことでもない。わかった?」

「う、うん……」


 僕は必死に頭の中で、柳ヶ瀬さんは仲の良い対等な友達なのだと刷り込ませる。


 柳ヶ瀬さんは仲の良い対等な友達、柳ヶ瀬さんは仲の良い対等な友達……


 そういうことを心の中でブツブツと唱えていると、ふと後ろから声が飛んで来た。


「お兄ちゃん、ただいま」


 びくりとして振り返ると、背後には中学のセーラー服を着た結乃。僕と柳ヶ瀬さんとを交互に見ていた。


 柳ヶ瀬さんは呆れたような顔から一転、いつの間にかクラスメイト用の表情に早変わりしている。


「こんにちは、あなたが和泉結乃さん?私、結弦くんの友達の……」

「知ってる」


 結乃は柳ヶ瀬さんの言葉を遮った。心なしか、少し不機嫌に見えるのは気のせいだろうか。


「柳ヶ瀬有栖さんですよね。兄から聞いてます、仲良くしてもらっているって。人見知りの兄と仲良くしてもらって、どうも本当にありがとうございます」


 うわ、どうしてこんなにもよそよそしい態度になっちゃっているんだろう。こんなの、結乃のキャラじゃない……


 ごめんなさい柳ヶ瀬さん。結乃はもっと可愛らしい女の子なんです。


「ううん、むしろ私が仲良くしてもらってるの。ありがとね、結乃ちゃん」


 柳ヶ瀬さんは結乃の態度を全く意にも介さず、笑みをわずかにも崩さない。だけど結乃も同じぐらいに頑固で、怯んでいる様子は見受けられなかった。


「あ、あの、もっと仲良く……」

「何もない家ですが、どうぞくつろいでいってください。しばらくは父も母も帰ってきませんので」

「うん、お邪魔させてもらうね。楽しみだなぁ。友達の家に入るの中学の時ぶりかも」


 完全に蚊帳の外になってしまった僕は、これから先が不安で不安でしょうがなかった……

作者、学期末につきレポートやテスト勉強に追われております。更新が不定期になってしまい、申し訳ありません。

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