17.てめえなめてんじゃねーぞこら
その後、バドミントン部、バスケ部、陸上部、演劇部、美術部、吹奏楽部などの部活を見学していったけど、結局のところ入部する場所は決まらなかった。
一度も部活に入ったことがないと、少しでも人数が多い部活は拒否反応が出てくるのだ。だって、もう完成されている輪の中へ入っていくのは、それだけで勇気のいることだから。
僕は積極的に輪の中へ入ってこなかった人だから、今更意識を改めたりするのは難しい。情けないことだと自分でも思っているけど、何せ突然のことだから心の準備すらできていなかった。
そしていつの間にか日は暮れ始めていて、僕らは放課後の教室で足の疲れを癒している。僕の斜め前に、柳ヶ瀬さんは座っていた。
「結局、これといっていい場所がなかったね」
「なんか、ごめん……僕がもっと社交的な人だったら、多分もう決まってたのに」
「和泉くんは悪くないって。正直私も入りたい場所なかったから。人数が多いと、それだけ厄介ごとに巻き込まれる確率も高くなるんだよね」
僕は人と関わるのが苦手で、柳ヶ瀬さんは人と深く関わることをなるべく敬遠している。理由は全く違うけれど、そんな僕らが部活動に入るなんて、最初から難しいことだったのかもしれない。
でも柳ヶ瀬さんなら、それが本当に必要なことだったとしたら、部活動へ入って要領良くこなすのかもしれない。そもそも部活動に入らない僕と比べるのは、ちょっとお門違いだったのかも。
柳ヶ瀬さんは、深く椅子へと腰掛ける。
「どっかないかなぁ、あんまり人がいなくて、楽そうな部活ー」
柳ヶ瀬さんがそうぼやいたのを聞いて、僕はとあることを思い出した。そういえば、まだ一つ回ってないところがあるんだった。
「文芸部はどうかな」
「文芸部?」
「ほら、部室行ったけど、部員がいなくて活動してなかったじゃん」
「あぁ」
文芸部の部室は、放課後人通りの少ない図書室の隣にある。最後の方に回ってはみたんだけど、電気が消えていて鍵がかかっていた。
ドアに貼ってあった文芸部活動日は、一応平日が全て活動日となっていたのに。
幽霊部員が多いのか、はたまたそれほど真剣に活動を行なっていないのか。
僕の提案を聞いた柳ヶ瀬さんは、一度だけ手を打ち鳴らし、勢いよく椅子から立ち上がった。
「もっちーに聞いてみよっか。なんか知ってるかもしれないし」
「望月先生のことをあだ名で呼ぶのはダメだと思う……」
「いいじゃんいいじゃん、あの人全然先生っぽくないし。それにあだ名で呼ばれたら嬉しいと思うよ?」
確かに先生っぽくないけれど。確かに高校生みたいに見えるけど。
だけど曲がりなりにも先生なんだから、せめてもっちー先生って言ってあげようよ……
「早く行こっか。もっちー帰っちゃうかもしれないし」
「あ、うん……」
結局訂正をせずに立ち上がった。
僕が柳ヶ瀬さんのことをあだ名で呼んだりしたら、果たして喜んでくれるのだろうか。柳ヶ瀬さんのあだ名。
柳ヶ瀬有栖。
アリさんとかかな。でもこれだと、なんかバカにしてる気がする。
リスさんとか。これも可愛いけどダメだな。
というか柳ヶ瀬さんの名前って、すっごくあだ名がつけづらい気がする。別に文句を言ってるわけじゃないんだけどね。僕は柳ヶ瀬さんの名字も名前もどっちも好きだし。
だからといって有栖さんと呼ぶのはなんか違う気がする。「てめえなめてんじゃねーぞこら」とか言われるかもしれない。
いやいや、柳ヶ瀬さんはそんなこと言う人じゃないから……
結局僕は、柳ヶ瀬さんに対しての呼称を変えたりせずに、もっちー先生のいる職員室へ向かった。




