エピソードⅠ 俺、魔法少女にスカウトされる。その2
「おい、まだ寝てるぞ」
「兄貴、流石に二時間くらいじゃ目覚めないッスよ」
「そうか? 俺なら、あんな大怪我をしたって、すぐに目覚めてチーズケーキを食べまくっているぞ」
「むう、そんな兄貴と一緒にされたら、このコが可哀想ッス……」
「キャハハハ、それは言えるぅ☆」
「何ィィ!」
「あああ、兄貴、冗談ッスゥゥゥ~~~!」
五月蠅ぇ……五月蠅ぇ……誰だ! どこのどいつだ!
人が気持ち良く眠っているのに、耳許でギャーギャー騒ぎやがって……。
ん、その前に、俺はドリルに変化した右腕が爆発し、その際に生じた赤々と燃え盛る火炎に包み込まれて……だ、ダメだ、思い出せん……俺は一体……。
「こ、ここはあの世か……」
「う、うおおお! アモンさんが目覚めたッス!」
「ヤス、それは本当か!」
「はいッス! 今、『ここはあの世か?』って喋ったし……」
「ハハハ、あの世だって? 違ぇよ、ここは……おっと、そんなことより、俺達の姿が見えるだろう?」
「あ、ああ、右目を眼帯で覆った兎、それに丸いフレームの眼鏡をかけた二羽の喋る兎が目の前に……」
「おお、そこまでわかるなら、完全に意識を取り戻したってことッスね」
「う、うむ……」
俺は夢を見ているのか……いや、これが夢にしてはリアルすぎる。
何せ、両目の瞼を開いた途端、右目を眼帯で覆った兎、それに丸いフレームの眼鏡をかけた二羽の喋る兎の姿が映り込んだワケだし……ん、もしかして、あのウサギウスの仲間⁉
「なんだかんだと、長い付き合いなりそうだからな。そんなワケで名乗っておくぜ。俺はハニエル。兄貴って呼んでくれぇ!」
「あっしはヤスと言います。以後、お見知りおきを」
「私はアフロディーテよ。ま、先輩と呼んでくれてもいいわね」
「う、今度は喋るアヒルかよ。ハハハ、マジで夢を見てるかのようだ」
しゃ、喋るアヒルまで登場かよ。
で、名前はアフロディーテかぁ……ギリシャ神話に登場する神様みたいな名前だな。
「どうでもいいけど、ここはどこ? 図書館かな……脚立がないと一番上の段にある本が絶対に取れないくらい背の高い本棚があっちこっちに見受けられるしな」
「ご名答。ここは図書館よ。ま、普通の図書館とは違うけど」
「おお、主人、お目覚めですか!」
ここは図書館? 俺は図書館にいるのか……って、いつの間に、そんな図書館のロビーにあるソファのひとつの上で眠っていたんだ……き、記憶にないんですけど!
と、そんな俺の目の前に、自称、俺の使い魔である喋る兎のウサギウスが現れる。
ん、白いワンピースと麦わら帽子といったカジュアルな格好をした長身痩躯の黒髪の美女が一緒だ。
「普通の図書館じゃない…だと…⁉」
「はい、普通の図書館ではありませんよ。ここは迷宮図書館といって現実世界と兎天原という異世界――ありていに説明するとゲームやアニメといったモノでお馴染みの幻想世界との狭間……境界線って言ってもいいですね。そんな場所にある図書館なのです」
な、なんだってー!
そう思わず叫んでしまいそうになったけど、我慢だ、俺……。
し、しかし、しかし、信じられないぞ……異世界が存在するだなんて……ば、馬鹿な……そんな馬鹿なァァァ~~~!
「嘘だな」
俺の脳は嘘だと断言する――嘘だ、嘘に決まっている……そう刹那の一瞬で断言する。
「信じられなくても当然かな?」
「まあ、そうでしょうなぁ、ウェスタ殿。主のように〝ある程度〟は物分かりのいい人間とはいえ、流石にここが異世界との境界線だって説明したところで、そんな主の脳はついて来ることが困難な筈です」
「でも、男性ながらも七十二人の魔法少女の仲間入りを果たした存在です。是が非でも理解してもらわないと困りますね。何せ、この先、〝敵〟が増えていくことだし――」
「ああ、それと主、気づいていますか?」
「え、何を? つーか、敵ってなんだよ!」
「それに関しては後ほど嫌というほど語らねばなりませんが、今はお身体の変化について気づいているのかを知りたいです」
「何ィ……ん、なんだ……この胸の膨らみは……それに……股間の妙な感じは、まさか……ない……俺のアレがねぇーッ!」
「ハハハ、アレがなくて当然でしょう? 今の主は女性なのですから――」
「な、なんだってー!」
今度は叫んじまったぜ……マ、マジでないんだぜ、俺のアレが……アレが!
その代わりとばかりに、あまり大きくはないが胸にふたつの肉の塊が……お、俺は性転換してしまったのかも!?