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第九話 「寿限無」を一席

馬車の車輪は木製なので

合成ゴムで造られたタイヤを履いている

自動車とは比べようがないほどゆれる。

尻がいてえ。

毛布を尻の下に敷くとかなりましになった。


「お兄ちゃんさぁどーこからきたの?」


馬車を操作している爺さんが

こっちの方を見ずに話しかけた。


「大阪だよ」

俺は生まれ育ち共に関東だが、

このあいだ大阪に越してきた。

まだまだ連中の大阪弁になれない。

テレビで芸人が話しているので

全く初めて聞くとかいうわけではないのだが。


というかこの世界の人に大阪とか

言っても伝わらないことに言ってから気付いた。


「オーサカ?あぁ、タッコヤキだ!」


は?この爺さん、知ってるじゃん。

「知ってるの?」


「知ってるよぉ。うーちのカカアの

実家の近くの学者先生の故郷だぁ。オーサカ」


「それにおれが、こーどもの頃、

流行ったーんだよぉ、タッコヤキ」


「子供の頃?いつの話してんの?」


「うーん、三十、四十年くーらい前かね」


「……あんた今いくつよ?」


「おれ?五十一さいだね」


見えない。肉体労働者は日にあたるから

更けて見えやすいって話をどこかできいたなぁ。


しかもタコヤキが流行ったってなんだよ。

ふたつの世界はそんなに近いの?

こっちのことはむこうじゃ全然知られてないのに?


わからんことばっかだ。

本当に早く帰りたい。


「あーんた異界のひとなんしょ?

面白いはなしとかないの?」


いっちょまえに無茶ぶりをしてきやがる。

しかたない、俺の笑い話レパートリ第一号を

聞かせてやろう。


俺はうろ覚えの「寿限無」を一席打った。




「それはどーこがオモシロイんかな?」



死ね。





**********



林を抜け、草原をぬけ、別の馬車とすれ違った。

爺さんと意味のない会話をぐだぐだ続けながら

時間を潰す。


昼飯は抜きで

夕飯に硬いパンと硬い干し肉を食べた。

肉の方は臭くてたまらない。

爺さんが「ぶどう酒」と呼ぶ液体を

一口貰ったが苦いわ青臭いわで

とても飲めたものじゃなかった。


畑が一面に広がる農耕地帯をごとごとと進んだ。

既に空は藍色になっている。

真っ暗になるまで一時間もないだろうな。

前方には小さな櫓といくつかの建物が見えている。まだかなり遠い。今日の目的地だ。


「もーういっちゃうからね。

暗くなるけど、まーあ大丈夫だから」


「はいよ」


どうせ俺は荷台でねてるだけだ。




もう空は完全に光を失った。星ひとつない。

光源は爺さんのカンテラだけだ。

カンテラの火が馬車に揺られて

ちらちらと動いている。


「お兄ちゃん。着いたーよ」

呼ばれて体を起こした。

いつの間にか眠っていたみたいだ。


「おれはこれから酒場で飲んでくるかーらさぁ。

宿に泊まりたいなら自分で部屋とってーね。

まぁ、そこで一晩寝ててくれてもいーけどね」


荷台から頭を出して辺りを見渡すと、

馬を繋いでいない車がいくつかとまっていた。

先ほど見えていた小さな町についたようだ。


「あぁ、わかったよ。明日もヨロシク」


「はーいよ」

爺さんは短い足をせわしなく動かして

去ってゆく。明かりが強くて人の声が聞こえてる

建物にはいっていった。あれが酒場かな。


荷台から降りた。

体を伸ばしてこわばった筋肉をほぐす。

骨が小さな音を建てる。

この音は体によくないらしいけど心地いい。


安宿を探して泊まろう。

荷台で一晩過ごすのはいいアイデアじゃない。




「あんたなにかんがえてんのよ」


暗闇から声が聞こえた。

誰だろう?女の声だ。


「いきなりいなくなって探し回ったら

『街を出た』って、見知らぬ土地でなんで

そこまで好き勝手できんのよ!」


イデアとマリーが姿を現した。

イデアは朝とは雰囲気が一転して、

初めてあったときと同じ感じがする。

『夜型』だったけな。

マリーは元気がない。

朝に比べ随分大人しい。

イデアのワンピースの裾を掴んでいる。


しらない間にずいぶん仲良しになったんだな。

朝は殺しあってたのに。

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