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第七話 独立活動性を持つ疑似生命体

「正直に言え。お前ホントはこそ泥かなんかだろ」


「ちがわい!」

マリーは真っ赤になって怒る。


「なっななななんだと!?

こそ泥!?こんなぶじょくははじめてだ!」

鼻の穴が大きく膨らむ。泣き止んだばかりなのに

また目が少し潤んできた。


謂れのない侮辱に震えているのか、

はたまた図星なのか。


「みろ!」

マリーはローブの下に来ていた薄手のワンピース

の胸元に手を突っ込みごそごそと何かを取り出す。

どっかの誰かもこんなことしてたな。

この世界の女は痴女ばっかか。


ばん、とテーブルにそれを叩きつける。

手がどくとそこには、大きなバッチがあった。

バッチというよりかはブローチに近い。

土台が金メッキの流線形で彫金されていて、

そのところどころに赤と青の綺麗な石で装飾がされている。

なにこれ。


「国歌してい退魔師にしか与えられていない

ブローチだぁ!どーだ!」


「……」

いやだから、知らないし。

これが本物かどうかもわからんし。

悲しい問答が続きそうだ。


ブローチを手にとってみる。

かなり重い。

え?金メッキじゃないの?純金?

どういう子どもなんだこれは。

混乱してきた。この子が言っていることが

全部本当なのか?


「しんじた?」

聞いてくる。


とはいえ、現状実害が出ていない以上

余計なこと(人物)を招くわけにもいかない。


そうだ。イデアの奴に押し付けて、

なんとかやりすごそう。


「そーいえば最近肩が重くてさぁ。

夜中に変な声とか聞こえるし、なんか家に

気配もするんだよね」

もちろんテキトーです。


「やっぱり!?それはもうあたしの専門だね!」


水を得た魚とはこの事である。

俺はマリーをあの宿へと連れていくことにした。


**********


「退魔師っいうのはぁ、この世界に住んでる

『 どくりつかつどうせいをもつ

ぎじせいめいたいおよびそのふくさんぶつとしての

せいめいたいまたはこれにじゅんずるもの』を退治するのが

仕事なんだよ」

マリーが言い出した。自分の仕事について

解説したいらしい。


「は?何だって?何を退治するんだ?」


「『どくりつかつどうせいをもつ

ぎじせいめいたいおよびそのふくさんぶつとしての

せいめいたいまたはこれにじゅんずるもの』」


『独立活動性を持つ疑似生命体、及びその副産物

としての生命体又はこれに準ずるもの』

文字に起こせばこんな感じ?

でもそれがなんなのかさっぱりわからん。


「それは一体なにを退治するんだ?」


「うーん、いろいろ……なんて言うかな……

人間じゃなくて、普通の人じゃどうにもできなくて

それで災害とか動物とか以外で人を困らせる奴……かな」


「……悪霊退治みたいな?」

自分で言ってて少し恥ずかしい。


「それもやるよ」


……やるのか。


あの宿の部屋にはイデアしかいないし、

そんな物騒なものは多分いない。

……もしかしたら憑かれてるというのは

俺じゃなくてイデアなのかもしれない。


「俺はさ、昨日は宿に泊まったんだけど

そのときに旅の連れがいたんだ。

もしかしたらそいつが、問題を抱えているかも

しれない」

言ってみた。


「そうなの?ならそれもあるかも。

ミシマからは匂いしかしないもんね」


匂い。さっきからちょくちょく出てくる。

まぁなんかそういう予感的ななにかを『におい』

と呼んでるんだろう。


かれこれしていると俺が一晩とまった宿についた。

「ここだよ」

マリーに言う。

あとは……どうやってイデアにマリーを

押し付けるかだなあ。


「……」

マリーの表情が曇っている。


「どうしたんだ?」


「この建物なの?……なんかここ……」

今頃まごつき出した。やっぱりこどもだな。


「やめとくか?別に俺困ってないし」


「いや!行く!」

マリーはぎこちなく一歩を踏み出した。

ホントにこどもだなあ。


宿に入ると例の靴をくれた店主がこちらを見る。

「なんだそのガキは」店主の目が語る。

「いいからほっとけ」俺も目で返す。


二階に登り、部屋の前まできた。

ふと見てみると

マリーは杖に体重を預け、がたがたと震えている。

汗もすごい。


「どうした?」


「うそ……こんなの……ありえるの……?

こんな田舎町の安宿に……」

ぶつぶつとやり始めた。こいつアブねえな。


「なぁ」


「きゃぁ!」

マリーが跳び跳ねる。

……こいつは何がしたいんだ?


「ああ、ビックリさせないでよ。もう」

だくだく汗を流して言う。


「気分悪いのか。帰った方がいいぞ」


「気分?わるいよ。すごくわるい。

こんなに臭いのは生まれて初めて」


臭い?特に匂いはしないが。

木造建築特有の木の香りがするけど、

これは臭いとかいうものじゃない。


「入ろうよ。ここなんでしょ?」

マリーが促す。


「うん。そうだけど……」


ドアを開けた。

中に入る。

出てきたときとおなじだ。

時間が進んだだけ、幾分か部屋が明るい。

イデアはまだ寝ている。

いいご身分だぜ。クソ。


マリーがその布団をひっぺがした。

なにしてんだ?


「信じられない……吸血鬼……?伝説級だよ……

こいつを殺せば……」


「マリー?何を、」


マリーが窓の戸を開け放つ。

陽の光が強く射し込んだ。


そしてイデアを()()()




「いったああああああああい!!!」


イデアが叫びながらベッドから転げ落ちた。

ばたばたともがいて部屋の隅、

日光が届かないところまで逃げる。


「ソーヘーっ!窓は開けないでって……!」


イデアがマリーを見つける。


マリーが不敵に笑った。

「あんたバカだよ。吸血鬼が日中にこんなとこ」


「これは……」

俺はなにも言えない。

マリーは何をしようとしてるんだ?


イデアの素肌、日光が一瞬触れた部分が

赤くただれている。そしてその部分が燃えている。

イデアが触れた日光は俺の顔にもかかっている。

もちろんおれの顔面は燃えてはいない。


「宗平……あんたが連れてきたの……?」


「まぁ……そうなんだけど……」

こんなことになるとは思ってもなかった。


「ホントにラッキー!こんなのきせきだよ!」

マリーは嬉々として騒ぐ。

子どもらしいがなぜか残酷な感じがする。


「あんたを殺してあたしは大金持ち!

あんたを殺してあたしはもっと偉くなる!

あんたを殺してあたしはもっともっともっと

もっともっともっともっともっと幸せになれる!」


マリーがローブから手鏡を取り出した。

「死んじゃえ!」

すくいとるように日光を手鏡にあてて、

その反射光をイデア向ける。


これ……イデア死にそうだな……。




イデアはそこにはいなかった。

反射された日光の筋が

部屋の壁を部分的に照らしている。

誰もいない。



「どこ!?吸血鬼はどこ!?」


マリーがあたりを見渡しながら喚く。


「あ」




ごうごうとその身から炎を噴き出しながら

マリーの背後にイデアが立っていた。


イデアの手刀がマリーの首を打つ。

ごきん、と骨が折れる音がした。

マリーが倒れると同時に、イデアが後ろ手に

戸を閉めた。


日光が絶たれた部屋は薄暗い。

しかしイデアが発する炎が部屋を照らしている。


その炎も次第に下火になってゆく。

イデアが哀れみの視線をマリーに落とす。


「あーあ、やっちまったな

ひでーもんだ。まだ子どもだぞ」

ほんとにひでえ。殺しちまった。


イデアが俺を軽蔑したような目で睨む。

は?お前が殺したんだぞ?


「う……うう」

マリーが呻いた。まだ生きてるみたいだ。

でももう死ぬなぁ。

口とか鼻とか色んなところから血が出ている。


「パ、パ……マア……こわひ……お」


もう呂律が回ってない。

ダメだな。



「……ばかな子だよ」

イデアがマリーを抱き上げる。

しばらくマリーを見つめたかと思うと、

ひしゃげたその首に噛みついた。


くつくつ、と口を動かしている。

血を飲んでいる。


「なにやってんだ?」


イデアは答えない。


イデアがマリーの首から口を離したとたん、

ひしゃげて醜く変形した部分が一人でに

修復されてゆく、巻き戻し映像を見ている

みたいだ。


マリーは意識を失ったままだ。

イデアがマリーをベッドに寝かせ、その

となりに自分も横たわる。布団を拾い、

添い寝の形をとって一つの布団に

二人で入った。


呆然とその様子を見ていると、

イデアの寝息が聞こえた。


部屋の外からどたどた足音が聞こえる。

がちゃりと戸が開き、宿の主が現れた。


「どうしたっ!?」


眠る二人と俺を見て狐につままれたと

いった表情になる。


「さっきなんか騒いでなかった?」

俺に訊く。


「いや、なんもなかったけど……」

嘘で返す。


「そう……」

首をひねりながら主は去っていった。


俺は陽の光に当たりたくなって部屋を出た。

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