第4話 そういう言い方はしない
腹がへって眼が覚めた。
ベッドから降りて周りを見渡す。
どこだっけ。
木造の建物の中にいる。
ベッドが二つ。俺が寝てたやつと
今だれかが寝てるやつ。
部屋には時計がないから時間はわからない。
ケータイもない。部屋着のスウェットのままだ。
足には靴下も履いてない。
足裏に砂がついている。
部屋には薄く日光が指している。
外はいい天気みたいだ。
窓には木の扉がついていた。
そこから光が漏れている。
開けてみると気持ちいい風が入ってきた。
更に広い範囲を照らすようになった陽の光が
温かい。
よくみるとガラス張りの窓ではない。
変わってるなぁ。
外の景色を見る。
レンガ造りの建物が建ち並ぶ。
全てがそうではない。木造のものも、ちらほら
見られる。
人が歩いている。
中世ヨーロッパのような
少しズレたセンスの格好をしている人たちだ。
なんだろう。なんか恐えーな。
「閉めて……」 後ろから声が聞こえる。
振り向くとベッドに寝ていた人物が
布団からでくるまっている。
日光を避けているみたいだ。
吸血鬼かよ。
「そこ……閉めてよ……」
この声。
途端に記憶が吹き出してきた。
思い出した。連れてこられたんだ。
俺は戸を閉めた。
この女はイデア。
この世界に連れてきた理由を話すとか言って
結局誤魔化して眠りやがった。
「起きろよ。朝だぜ。それに昨日の続きを聞きたい」
「……私は『夜型』なの……」
知らねぇわ。
でも起きてくる気配もない。仕方ない。
「あげるから……夜まで待ってて……」
イデアが小さな巾着袋をどこからか
取り出してベッド側のチェストに置く。
金が入っているものだ。
昨夜ここから金を出してこの宿の賃を出した。
俺は黙ってその袋を掴み、部屋から出た。
宿の外に出るとき、受付で声をかけられた。
男の店主だ。髪はみじかくて太っている。
「お兄さん。お連れさんは?」
「まだ寝てるよ」
「昼までには出てね」
当然のように言った。
確かに当然だけど、
日本じゃ直に客にそういう言い方はしない。
まぁ日本じゃないからね。
「今晩の分も頼むよ」
受付に近づきながら
ポケットから巾着袋を取り出した。
「まいど」
「お兄さん……えっとミシマさん?アンタ靴は?」
「ああ、ないんだよね。」
店主がジト目でこちらを見る。
もちろんおっさんなので全然かわいくない。
靴がないというのはやはり
かなりあやしいんだろうな。
……あやしいよなぁ。外から来たのに靴
履いてねぇんだもんなぁ。
「ほら」
店主が革の塊をごとりとカウンターに置いた。
えっ?なに?汚い。
よく見るとそれは1つじゃなくて、
同じ形のものが2つ並んでいる。
というか靴だった。
「いいのか?」
「やるよ。靴ないと大変だろ」
正直ありがたい。
俺のサイズより少し大きいが贅沢は言えない。
「ありがとう。上の奴は起こさないでやってくれ」
「あいよ」
俺は宿を出た。
もう戻るつもりはない。
イデアとつるむ義理はないし、
もたもたしてる奴にかまう意味もない。
家に帰る線でテキトーにやってみるか。
宿賃から考えるに、巾着袋に入っている金でも
1週間くらいの生活費にはなりそうだ。
まず飯だな。腹へったよ。
ぶらぶら歩いて安くで食えるところを探そう。
異世界モノでいつも思うけど
言葉が通じるっつうのは不思議だよなぁ。
こいつらみんな日本語喋ってんもんなぁ。
どうなってんだろ?
実は全部俺の頭の中の出来事なのかもなぁ。
結構リアルにできてるよなぁ。
俺の創造力なかなかのもんだなぁ。
やっぱり家に帰るのはあとでもいいかなぁ。
しばらくはここで遊んでもいいかもな。
妄想の世界だろうと、現実の世界だろうと
家でゲームしてるよりはおもしれーかも。
そうこうしてると屋台を見つけた。
薫製肉を薄く切ってパンで挟んだものを
売っている。
安いし結構うまい。
日本じゃ食ったことない肉だな。
鶏ではないことは確かだ。
「何の肉なの?」
屋台の主が答えた。
「へへへ」
「いやだから、何の肉なの?」
「へへへ」
おいおい。大丈夫か。
髪の毛と歯がない屋台の主が下品に笑う。
えぇ…
「匂う」
歩きながら、謎肉サンドイッチをかじっていると
声が聞こえた。
「オマエだ」
振り向くが誰もいない。
どこだ?声はかなり近い。
「闇の匂いだ」
……香ばしい台詞だなぁ。
おまえの方が臭うよ。
中学二年生の臭いだよ。
「こっちだぁっ」
下から声が聞こえた。
視線を下げる。
黒髪ぱっつん。身長より長い杖。
紺色のローブ。サイズがあってない。
萌え属性たっぷりの幼女がそこにいた。