リンパ浮腫
「これは、もう治らないんですか?」
――初診の際、患者さんに問われる度に私は少し硬直してしまう。
「……はい。一度 発症すると、完全には元に戻りません」
その時の患者さんの失望を肌で感じ、私はあわてて言葉を追加する。
「完全に戻ることはありませんが、努力次第でゼロに近づけることは可能です」
努力。
一言で済ませるにはあまりにも簡単な言葉だと思う。それにどれだけの困難が伴うか。
「糖尿病などと同じで、一生付き合っていくものであり、ほどほどの良い状態をキープすることが目標になります」
その、ほどほどの良い状態をキープするのがいかに大変なことであるか私は知っている。
患者さんにはこれから一生、その努力がついて回るのである。
―――――――――
リンパ浮腫。
※浮腫……むくんではれること。
この言葉をご存知の方は何人いらっしゃるだろうか。
患者数は世界では1.2億人以上、日本では12万人以上存在すると言われている。
身体がむくむ症状である。
むくみには様々な種類、その原因が存在する。
心臓、腎臓などの問題によって起こる、むくみ。動脈、静脈の循環器系の問題によって起こるむくみ。捻挫や、虫刺されによっておこる炎症性のむくみ。寝たきり老人に多い、動かないことによっておこるむくみもある。
その他にもいろいろあるが、リンパ浮腫のむくみとはリンパ管の中を流れるリンパ液の流れが悪くなることによって身体の組織内に過度にリンパ液が貯まる状態だ。
特徴的である。
皮膚の下約2ミリという皮下組織と呼ばれる部分にリンパ液がたまるため、血管が見えづらくなり『白いむくみ』と称される。
原因としては様々である。
生まれつきのリンパ管の出来があまり良くない、または働きが悪く、むくみが発症する人。
交通事故などで、リンパ管が傷ついてしまい、むくみが発症する人。
世界で一番多いのは、フィラリア症(犬のフィラリアとはまた違う)によるリンパ浮腫患者である。虫の卵がリンパ管に詰まって流れを悪くし、発症すると言われている。日本人の患者では西郷隆盛が有名だ。(彼の陰嚢はリンパ浮腫によってむくみ、乗馬に苦労するほど巨大だった)
そして日本を含めて、先進国とされている国で多い患者は、癌の手術の後遺症が原因であることがほとんどである。