妖精
妖精×人間
人類は緩やかに衰退していき、植物に少しずつ侵食されている時代。
突然変異で発生した人類通称《妖精》
《妖精》の特徴は、人より少しとがった耳と暗い緑色の髪と眼、小学生くらいの身長、話せるものの疎い言葉使い、感情の起伏の少なさや総じて皆容姿が整っていること、そして、最後に最も妖精と云われる所以となった花“しか”食べないことが挙げられる。
《妖精》は、その花を食べる習性から、なんとか植物の侵食を防ぐ方法が見つかるのではないの、という自分勝手な人類の考えにより、全て研究対象として捕まえられ今でも、研究され続けている最も可哀想な種族と言える。
私こと、井浦 斉は《妖精》を研究する科学者の一人だ。
私が、科学者になった理由は研究対象に対して一目惚れしたことが原因であった。
私の両親も二人とも科学者であった。
そのため、小学校4年生の春に、両親が弁当を忘れたたため研究所に届けにいき、初めて生の《妖精》を見ることができたのだった。
その時の感動は今でも覚えている。
私より少し年が上くらいの少女が、色とりどりの花の上に足を崩した状態で据わっており、手に持ったバラの花を口に運んでいる光景に、彼女が食べていたものにも驚いたが、その時の私はそんなことよりも、花を食べる彼女の神聖さや美しさに目が釘付けになった。
真っ赤なバラと白く細い手、棘に刺さったためか入った白い手によく映える赤い線、軽く伏せられ長い睫毛に縁取られた鮮やかな緑色の瞳、彼女の周りに飛び回る色とりどりの蝶や小鳥、そして何よりも印象的だったのが、普段無表情が常であるはずの彼女が、薄く“微笑んで”いたように見え、全てが彼女を引き立てる一つの絵画のようでもあった。
彼女の近くにも彼女の仲間である《妖精》がいたが、私には彼女のことしか眼に入ってはいなかった。
私は、その時の高揚を忘れることが出来ず彼女の側に居たいがために、ひたすら勉強に励み科学者となった。
私が科学者となる頃には、彼女の他の《妖精》は、息絶えていた。
《妖精》は、非常に繁殖力が低く10年に一人生まれればいいほうだと言われるくらい低い、また、人間ともさして寿命が変わらないため、彼女が最後の《妖精》になってしまったのであった。
その頃には、政府はこの研究を諦めており支援額も最低限しか与えられなくなった。
そのため、研究者たちは次々と止めていき今では私一人だけとなった。
彼女を研究対象として扱うことは心苦しいく、何度彼女を逃がそうかと思ったことか、数えきれなかった。
しかし、彼女を逃がしてもすぐに捕まり引き戻されるし、逃がした私ももう二度と彼女と会えずよくて極刑、悪くて生き地獄と言うのが現実だった。
……本当に現実とは、ままならないものだ。
しかし、私も只で彼女を飼い殺しにする気は更々ない。
自分勝手であることは、重々承知だが彼女に感情の起伏を与えることができれば、と思い今でも研究している。
私のここ思い(恋)は、報われることは無いだろう。
しかし、私は彼女を思い続けることを止めることも出来ず、ただただ人生を浪費していくのであろう。
だが、私は決して不幸なんかではない。
何故なら、彼女に一番近いところで彼女の事を思い続けることができるのだから、こんな幸せなことはないと感じるからだ。
バカだと罵ったくれても構わない。
バカだと、不毛だと分かっている。
しかし、私は、彼女と二人過ごすことができるこの瞬間瞬間に今日も神に感謝している。
「セ、イ」
「ん?どうしたの?アン」
彼女専用の甘く優しい声で私は返事をする。
「こ、れ……」
てに握られていたのは、色とりどりの花だった。
「お腹が空いたのかい?」
コク
「じゃあ、一緒に食べようか」
コク
私は、手差し出した。
その私の手を遠慮がちに握ってくる彼女に愛しさが込み上げてくる。
だから、いつも小さな小さな声で囁いてしまう。
「愛してるよ、アン」
すると、いつも返事が帰ってこない囁きに今日は、今にも消えてしまいそうな小さな声が帰ってきた。
「……―――、も」
聞き取りずらい言葉だった。しかし、私にはハッキリと聞こえてきた。
嬉しさが込み上げてきた私は、彼女を抱き上げ額に軽くキスをした。
聞こえてきた小さな小さな声、それは
(「……わ…たし、も」)
最高に幸せな魔法の言葉
一応ハッピーエンドです。
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