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第七話「機人族」

 その人物は白衣(しろえ)緋袴(ひばかま)を着用している、落ち着いたイメージの女性だ。記憶違いでなければ、どこかの正装だった気がする。 動きやすそうに改造されており、正装と呼んでいいのか解らないけども。金髪のポニーテールを揺らして、変わった機械を背に担いでいた。ベッドにいる私の傍まで来ると、ゆっくりと問いかけてくる。

「ご機嫌、いかがですか?」

「動きづらいわ」

「それだけ言えれば、充分です。おはようございます」

 彼女の差し出された右腕は、白と黒のツートンカラーで、どうみても人間の肌の色ではない。私はゆっくりと握手を交わすと、金属特有のひんやりとした冷たさが伝わってくる。間違いなく、彼女の腕は人工物だろう。私の視線に気付いたのか、彼女は楽しむ様に笑いかけた。

「初めまして、白狼さん。私はオフシェです。機人族(きじんぞく)ですが、元々は人間ですよ」

「……サイボーグ?」

「部分的な、サイボーグです。それのおかげで、化合弓(コンパウンドボウ)を扱えますから」

 オフシェと名乗る、私より年上に見える女性は大事そうに、背中に担いだ機械を撫でた。言われれば確かに、折り畳み式の弓だと解るけれども、言われなかったら解らなかったかもしれない。それは弓の原型を留めていないのだから。

 私も彼女の様に、部分的なサイボーグに頼れば左腕が復活するのかなと考えていると、忘れてもらっては困るというように、執事が咳払い一つする。

「今はこの友人の家に泊まっていますが、しばらくはここでお世話になろうかと」

「私が左腕なくなったから?」

「それもあります。一番の理由は、私が幼い頃に体術を教えてくださった方が、オフシェなのですよ。もしかしたら、潜在能力についても詳しいかと思いまして」

 執事は簡単に紹介しながら、オフシェに会いに来た目的も開示する。どうやらそれは彼女も初耳だったようで、眉間にしわを寄せながら、聞いていないと抗議した。それを想定していたのか、彼女にだけ聞こえる声量で何か呟く。

 するとどうだろう、オフシェは驚いた表情で私を一瞬だけ見て、視線を戻した。何を言ったのか気になるものの、執事の申し出に対して首を縦に振った事を喜ぶとしよう。体術の師から教わるなら、執事より強くなれる可能性は十二分にあるはず。

「この子があの人の、ですか。そういう事なら、拒否は出来ません」

「オフシェさん、あの人って……?」

「いいえ、なんでもないです。昔を思い出しただけです」

 どこか寂しそうに笑うオフシェに、なんと答えていいか迷っていると、部屋の外で騒ぎ声が聞こえる。きっと旅人二人組だろう、聞き覚えのある男女の声が響いている。ほんのわずかしか話した時がないけれど、仲が悪いという印象は受けなかった。一体どうしたのだろうか。顎に手をやりながら執事に目をやると、頷いて様子を見に行った。見送った私達の間で流れる沈黙を、オフシェが破る。

「白狼さんは、執事の事、何か知ってますか?」

「いいえ。紅茶が好きな、蹴り技が得意な胡散臭い野郎って事くらい」

「つまり、何も知らない訳ですね。どうして、そんな人と行動できたんですか?」

「色々あってね。どうやったら強くなるのかを、教えてもらうの」

「そうですか。だからここまで……。遠路はるばるお疲れ様です」

 サイボーグ化していない、オフシェの左手が私の頭を優しく撫でてくれた。子供扱いされたような気がして、私は頬を膨らませてしまうけれども、どこか心地良くてされるがままとなる。しばらくそのままでいると、足音が部屋に近づいてきて我に帰って、オフシェの手を押し退けた。

 こんな恥ずかしい所を誰かに見られるだなんて、とてもじゃないけど出来ない。すると苦笑を浮かべる執事が戻ってきて、果物が入ったバスケットを抱えていた。そういえば、食べ物を取りに行った小さな少女、ちゆりはどうしたのだろう。それに、私と剣を交えたユルトも見かけない。

「執事、あの旅人二人はどうしたの?」

「奇遇ですね、丁度伝えようかと。お二人は迷惑になるからと、先ほど発ちました」

「ふーん、そうなんだ。次あったら、私が勝ってやる」

「威勢だけは良いですね。しばらくはここで、がんばりましょう」

 小棚の上にバスケットを置いて、ナイフで林檎の皮を薄く長く、執事が向き始めた。自前のナイフを持っていたのかと、なんとなくそのナイフを眺める。するとどこか違和感を感じた。たしか以前に見た時がある気がするのだけども、一体どこで見たのか思い出せない。

 一人で唸っていると、オフシェが肩を叩く。なによ、と呟きつつ振り返れば、彼女の人差し指が私の頬に当たる。その様子をみて、笑いを堪えるオフシェ。

「ぶ、ふふ。白狼さん、単純って言われたり、しませんか?」

「……。さあ、覚えてないわ」

 ふくれっ面になる私に、笑いを浮かべる二人。執事に渡された、綺麗に皮が剥かれた林檎を一切れ頬張りながら、いつか負かしてやると心に誓った。

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