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第五話「二人組」

 直撃は避けられたけども、私に熱気が襲い掛かる。咄嗟に左腕で顔を隠すけども、熱さに耐え切れなくて、転がる様に大型トラックの影へと逃げこんだ。最初見た時はなんとも思わなかったけれど、まさか熱気を発するだなんて。直接熱気を受けた左腕を見ると、露出していた肌が赤く染まっている。幸運にも爛れる程ではなかったようで、これならまだ戦える。ブッシュナイフを右手で強く握りしめ、駆け出す。今も煙が立ち昇っているが、先ほどの様な熱気は感じない。

「いいナイフ使ってるじゃないか。俺が勝ったら有り難く貰うぜ!」

「あはは! 私の大事な物が、そんな簡単に手に入るなんて思わないで! くたばれ!」

 狙うは青年の首、その一点のみを刺突するように切っ先で狙う。けれども青年は機械仕掛けの長剣を掲げて、ブッシュナイフは長剣の腹と激突する。青年の赤くなっていた長剣は、既に元の鋼色に戻っており、熱気も出ていない。これならナイフが熱でやられるという心配もない。

「まだ! まだ、終われない!」

 私は空いた左手を、ブッシュナイフを持った右手に添えて、長剣の腹を斬り上げようとする。首が防がれるならば、獲物を駄目にしてやってからにすればいい。ガリガリと長剣に傷をつけながら、煙が吹き出していた部分まで勢い良く抉り取った。次こそは首を狙ってやると言わんばかりに、私は笑みを浮かべる。長剣の一部から焦げた臭いがして、私は首を傾げてしまう。不思議そうにしていると、青年は素早く剣を手放して距離を置こうと後退してしまった。その行動で、この臭いが危険なサインだと理解するけれども、間に合わなかった。傷から小さな爆発が起きて私を襲う。咄嗟に左腕を盾にしながら、今度こそ駄目になってしまっただろうなと苦笑する。左腕の肘から先の感覚がないのだ。

「おいおい、俺の武器になんて事してくれるんだ」

「ふん。爆発する様な代物を武器として使うからよ」

「はいはい、すいませんね」

 私は浮浪者の様に体を揺らしながら、爆発した機械仕掛けの長剣を青年の足元に放り投げる。青年は疑わしそうにこちらを見ていたけども、足元にある私のサバイバルナイフに気付いて、察したようだ。彼はそれを拾い上げ、私の足元に放り投げた。ブッシュナイフを鞘に収めて、私が拾い上げると、呼応するように刀身が鈍く光る。

 なんとなく青年の方を見れば、ボロボロになった長剣を眺めて、溜め息を吐いていた。口では毒を吐いてみせたけれど、一撃で決めなけれっばならない。彼の武器が再び、熱気を発する事はないだろう。けれども、彼自身には何の問題もないのに比べ、私の左腕は役立たずになっている。押されてる現実に、無意識に歯軋りしてしまう。

 そんな私と青年の睨み合いが続く中、何かが近づいてくる足音が聞こえる。こんな時に一体誰だろうか?足音を聞きながらも、私は青年から目を逸らすことができない。

「ユルト!」

「あー? どうした、こっちは生きるか死ぬかの状態なんだけれど」

「あー、じゃない! 剣しまって! 敵じゃなかったの!」

「知ってる。間違いとはいえ、一度敵意を向けた相手が強者。そういう事だから戦うしかない」

「いやいやいや、話し合いしようよ!」

 青年の連れと思われる小柄な少女が細長い鉄の塊と思われる物体を肩に下げ、怒りながら青年に駆け寄ってきていた。少女と嬉しそうに話す青年に、私は戦う気が失せてしまった。ユルトと呼ばれた青年も、それに気づいたのか困ったように笑いかけてくる。はて、この少女が私を狙った者ならば、紅茶好きの執事はどこに行ったのだろう?サバイバルナイフを鞘に収めながら考えていると、隣に誰かがいる気配を感じ取った。何かに飲み物を注ぐような音が聞こえ、見なくても誰か分かってしまうのは、中々嫌なものだと思う。

「執事、どうなったの?」

「ただ話し合いをしただけですよ」

「……ふーん。ま、お互いに戦う気がなくなったから別にいいけど」

「そうですか。そういう事でしたら何の問題もないですね」

 射撃武器を使う相手に、よく話し合いなど持ち掛けられるものだ。私だったら、その隙に懐に入り込んで、首根っこを斬り裂いてしまっていただろう。そんな物騒な事を考えていたら、相手に通じてしまったのかもしれない。小柄な少女は、びっくりした様に周囲を見回した。まるで、どこかから殺意を感じ取った小動物の様に。それを見ていたユルトが、不思議そうに首を傾げる。

「急にどうした? ちゆり」

「ちょっと寒気がしたような気がしただけ。大丈夫」

「そうか。とりあえず、話し合いで解決できるって事でいいんだな?」

「うんうん。まだ詳しい話はしてないけど、もしかしたら利害一致するかも!」

「ほー。そいつは楽しみだな」

 ちゆりと呼ばれた少女は、ツインテールにした水色の髪を揺らしながら頷く。私もあんな風に可愛かったら、などと余計な事を考えるのだけれど、無縁な話だと割り切る。ただ、なんとなく自身の銀髪に触れて溜め息を吐いた。ユルトとちゆりがこちらへと近づいてこようとした時、大地が震える。暫くするとそれは治まり、ガシャンガシャンと遠くで騒がしい音を聞こえ、それは徐々に近づいてきていた。

「これは、ちょっと面倒な事が起きるかもな」

「音の正体を知っているのですか?」

「恐らく本物の追っ手だ」

 ユルトは心底嫌そうな表情になる。音を立てていたそれは、私達の前に現れた。鋼鉄の足が八本生えており、その上に黒塗りの球体が載っている。その球体から二本の鋼鉄の腕が付いているけれど、先端はペンチの様に挟みやすそうな形だ。風変わりな形をしているそれが、こちらに気付いて動きを止めた。球体上部に取り付けられていたらしい蓋が開いて、そこから一人の女が上半身だけ出す。金色に染まる、ショートボブくらいの長さの髪に白衣を着た女だ。そういえば、あのゼンマイ娘も金髪だったなと思い出す。そんな事も気にせず、白衣の女は白塗りの拡声器片手に声を張り上げた。

「あらあら! お疲れかしら! そうなら楽なんだけど!」

「よりによってお前かよ。さっさと帰れ」

「裏切った奴が何言ってのかしらー? アンタが持ち出した蒸気剣を、さっさと渡してくれたら目を瞑ってあげる。私だって元同僚を殺すほど、非情ではないわ」

「すまん、それは無理だ。これ見ろよ」

 蒸気剣と呼ばれた、ユルトが持っていた機械仕掛けの長剣を見せる。私のブッシュナイフで思い切り傷を付けた方を見せながら。するとどうだろう、白衣の女は嬉しそうに笑い出す。どうやら彼女にとっては、その傷は大したことではないらしい。

「ふ、ふふふ。だからどうしたというの?どれだけ外側が傷ついたとしても、中身が無事ならいいわ!」

「中身?」

「あらあら! 知らないのね! 無知なら無知らしく、大人しく言うことを聞いてくれないかしら?」

「丁重にお断りするぜ。それに、俺はこいつに負けたからな」

 ユルトは私を指差してくる。何を言っているのだろうか、まだ決着はついていないというのに。現状を見るだけならば、私のが不利なのに。けれども、白衣の女にとってはそれだけで充分だったらしい。興味深そうに私に視線を向けてきた。実験動物を観察する様な、じろじろと隅々まで見る視線が気に入らない。ブッシュナイフを引き抜いて、構える。どうやら私は、気に入らない事があると我慢出来ない性分のようだ。

「その目が、気に入らない」

「へー。それで、どうしようっていうの?」

「私が、全力で叩き潰す。それだけよ」

 執事に一度だけ視線を向け、彼が頷いたのを確認するより速く、私は走る。彼ならきっと分かってくれるだろう。私は囮として立ち回れれば、あとはなんとかなるはず。私達より格段に大きい、その機械は鋼鉄の腕で殴りかかってくる。アスファルトが割れるさまを見ていると、一撃受けるだけでも耐えられないかもしれない。腕を足場にして駆け上がった私は、ブッシュナイフで球体の上部を狙うけれども、その前に白衣の女は蓋を閉じて、立て籠もってしまった。そこに残ったのは、蓋に少し傷がついた程度。

「面倒ね! ……うぐっ」

 私が毒を吐いたと同時に横から衝撃が走って、少しだけ苦痛の声をあげてしまう。機械の鋼鉄の腕で、左上腕をペンチの様な先端で掴まれてしまい、徐々に挟む力が強くなる。振り解こうにも、機械相手じゃ分が悪い。ナイフで斬り裂いてやろうとするも、痛みで集中できなくて、上手く斬れない。悪戦苦闘していると、また白衣の女が出てきて、見下したような表情で笑う。

「あらあら! あなたの左腕、もうだめね! 感覚もないでしょう? 私がお手伝いしてあげるわ!」

 どういう事だと聞き出す前に、左側から肉と何かが潰れる音が聞こえて、それと同時に激痛が私を襲った。

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