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第十六話「蒸気の力」

 鍛冶屋『鉄紺』に世話になってから数日。オフシェの化合弓のメンテナンスが終わり、残るは強化部品の完成を待つだけとなっていた。

 執事に言われた潜在能力の片鱗は、日常生活でも起き始めている。けれども、それも徐々に慣れてきていた。たまに力加減を間違えて物を壊してしまったりするが。

 私達が『鉄紺』に来て一週間。強化部品がついに完成したと、エリアが吉報を知らせてきたのだ。彼女の手中にあるのは、鋼鉄の円筒(シリンダー)形状で、片手で持てる大きさの部品。

「これがそうだよ」

「思ったより小さいのね。外付けというから、アーマーみたいなものだと思っていたわ」

「そういうのがお望みなら、それも出来るけど負担と値段が段違いだよ?」

 にやりと笑う彼女の表情に、私は顔が引きつってしまう。そんな事より、強化部品の扱い方を教われと執事に嗜められる。洋菓子の一つである焼き菓子を頬張っていた。なんでも、鍛冶屋『鉄紺』のお得意様から以前貰ったものだとか。

「執事にも良いことを教えてあげるよ。その焼き菓子、結構前の物だよ。お腹壊してもあたしは知らないよ?」

「エリアみたいに軟弱ではないので、お気になさらず。そんな事よりも使い方を教えてあげたらどうですか」

「ふん、今から教えるところさ」

 エリアは執事に思いもよらないカウンターを受けて、表情が少し歪んでいる。彼女の心境に、私は少し通じるものがあるが黙っておくことにした。また話が逸れてしまっては手間だ。

「さて、強化部品の使い方の前に武器収納からだね。製作にかかりきりで、すっかり忘れてたよ」

「忘れられては困るのだけれど」

「いやはや、申し訳ないね。それで武器収納の部分なんだけれども……」

 そういいながら、エリアは強化部品をテーブルに置いて私の義手を触れる。彼女の手は手首で止まり、アーマーから一本のナイフが入る程度のスペースが顔をのぞかせた。

「執事からナイフを使うって聞いていたからね。義手の大きさ的にも、これが限界だよ」

「この開いた部分にナイフを差し込めばいいのよね?」

「ああ、そうだよ。取り出し方は手動だから気をつけておくれ。手首の小さな押しボタンで開くから」

「へぇ……」

 彼女が手首を指差して教えてくれたが、どれの事かさっぱり解らない。エリアが収納部分を手で戻せば、手首の部分に小さなネジのような形をした小さな物体が顔を出した。どうやらこれが押しボタンらしい。

「武器収納についてはこれでいいかな。あとは強化部品だね」

「ええ、よろしく頼むわ」

 テーブルに置いた強化部品を彼女が取ろうとした時、美味しそうに焼き菓子を頬張る執事と目があったのか、エリアの動きが止まってしまう。私が横から様子を見ようとする前に、彼女がこちらに向き直った。笑みなのだけれど、目が笑っていない。

「……さて、こいつの使い方だね。こいつも前腕なんだけれど、外装を外してはめ込むのさ。基本的に取り外さなくていいから、大丈夫だよ」

「ふーん、それだけでいいの?」

 壊れ物を扱うように、丁寧に義手の外装を外して強化部品がぎりぎり入るスペースに入れた。まるで欠けていたものが埋まるように、強化部品は収まる。外装を再び付けた彼女は、義手をあらゆる角度から見回しながら息を吐く。

「そっちのが解りやすくていいと思わないかい? 以前言った通り制限はあるのは御愛嬌ってことで」

「二十四時間で使えるのが三回、だったかしら」

「お、よく覚えていたね。それ以上使うと、義手か強化部品の蒸気機関どちらかが。もしくは両方が使い物にならなくなる可能性があるから、無茶はしないでおくれよ」

 大きく頷いて、ウインクしてみせるエリア。起動方法について語りだした彼女は、義手の前腕にある少し(へこ)んだ赤い部分を指差した。見ればそれが三つ並んでいる。

「これが起動スイッチさ。分かり易く赤色にしといたよ。鋼色になったら冷却活動に移るから使えないよ」

「わかったわ。他に気をつける事はあるかしら?」

 そう聞いてみると、エリアは首を振る。執事の方をちらりと見れば、焼き菓子を食べ終えていた。彼はナフキンで口元を拭っており、私と目が合う。ナフキンを綺麗に畳みながら、彼が口を開く。

「さっそく試運転しましょうか?」

 どうやら彼も、新しい力に興味があるようだ。普段よりも目が輝いているようにも見える。私がそれに応えようとする前に、エリアが不敵な笑みを浮かべはじめた。

「ふふふ、そこは任せておくれ。なんと、最終調整の為に親父が相手をしてくれるのさ!」

「あの人が整備以外で武器を握るなんて聞いた時ないですよ」

「若い頃は結構な実力者だと親父は言ってたけど、私も初めてさ。あ、場所は庭でやるよ」

 彼女の言葉に、興味が湧いたらしい。執事は予想外の人物の強さと滅多に見れない蒸気の力、その両方が見れる事が楽しみのようだ。

「新しく手にした力、試させてもらうわ」

 義手に違和感がないか確かめ、私達は平屋から出て庭へと足を運ぶ。セイランがどれほどの実力者かは解らないが、遠慮なく試させてもらおう。ほんの少しだけ歩く速度が速くなったが、二人に気付かれる事はなかった。

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