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第十三話「夢、そして」

 私は長い、長い夢を見ていた気がする。そう、以前夢で見た思い出の続き。あれは実家である大きな屋敷の玄関での出来事。

 兄さんに軍からの出撃命令が通達された。使用人に聞かされたそれは、まるで落雷が頭上に落ちた感覚だったのは今でも思い出せる。慌てて駆け出した私が玄関に着くと、兄さんと数人の使用人しかいなかった。兄さんは私が来たことに気付いてはにかむと、ある物を手渡してくれた。

「誕生日プレゼントだ、以前から欲しがってただろう?護身用にならいいだろう。それに、今後どうなるか解らない御時世だしな」

 それは一本のサバイバルナイフだ。革の鞘は新品のようで、革特有の味わいはまだない。

 私は誰かの負担になるのが嫌で、一人で戦える武器が欲しかった。覚えていてくれた兄さんに抱きつきたくなる気持ちを抑えて、笑顔を向ける。可能なら、このナイフと共に大好きな兄さんの力になりたい。

「兄さん、ありがとう。これで私も……!」

「いや、だめだ。お前は生き残る事を優先するんだ」

「なっ……」

 私の考えが見抜かれていたのだろうか。兄さんの鋭い眼差しが私を射抜き、それを直視できずに俯く。そんな私を慰めるように、兄さんは頭を撫でてくれた。視線を戻すと、先ほどの眼差しが嘘だったかのように、優しい表情の兄さんがいた。

「守るのは俺の役目だ。それに何かあったとしても、俺が早々やられるような人間じゃないのはよく知っているだろう?」

「それはそうだけど……」

「生きてる限り、次がある。……そろそろ行かないとまずい時間だ。行ってくるよ」

 その時の言葉が今でも私を支えてくれている、それだけは間違いない。

 振り返る事なく行ってしまった兄さんを見えなくなるまで見送った私は、手に持ったサバイバルナイフへ視線を移す。それを強く握りしめて、何があっても生きることを心に誓った。

 それを最後に、兄さんは帰って来ることはなかったけれど、私は信じてる。兄さんはまだ生きてるはず。だから、私も生きるんだ。


 はっと目が冷めた私は『両手で』起き上がり、首を振って意識をはっきりさせる。先ほどまでいた平屋のベッドで横になっていたようだ。平屋にはセイランを除いた二人、執事とエリアがいた。

「あ、起きたんだー。二日も寝てたから、当たりどころ悪かったのかなって心配したよ」

「二日……?」

「そう! 他に仕事もなかったし気合入れて作ってみたけど、どうだい?」

 エリアの視線を追うように、私も左腕を見れば鋼鉄の左腕があった。義手との境目である上腕には、何かを守る様に一回り大きい輪っかの鋼鉄で覆われている。その部分からバンドが伸びていて体に巻き付いていた。

 左手を動かそうとすると、その通り鋼鉄の腕が動く。手を握って開いてを繰り返しても、特に問題がない。些細なことのはずなのに、私は感動を覚えてしまう。これが……。これが両手を使えるという素晴らしい事。

「ありがとう……」

「問題ないようだね。強化部品がもう少し時間かかるから、ゆっくりと慣らしておくといいよ」

「わかったわ」

「整備とかその他諸々は執事に伝えといたから安心しておくれ。それじゃ、またね」

 そういったエリアは平屋から去り、私と執事だけが残る。鋼鉄の腕を動かしながら、執事に語りかける。

「ねぇ、執事。頼みがあるわ」

「なんでしょうか?改まって」

「少しの間だけでいいわ。一人にさせてくれないかしら」

「……解りました」

 椅子から立ち上がる音が聞こえ、私は視線をあげて部屋を見渡すと既に執事はいなかった。相変わらず仕事の速い彼に苦笑してしまう。

 私は右手で、切断された左腕の部分に触れる。鋼鉄の冷たさが手に伝わり、人工物なのを再確認。けれど私の思ったとおりに動く機械。見た目は無骨であるが無駄な物もついていないシンプルさ。

「あはは……。本当に、私の意志で動くよこれ」

 真紅の瞳から涙がこぼれ落ちる。なんでだろうか?私は理由もなく溢れる涙に困惑してしまう。ただ、ただどうしたらいいか解らない。

「こんな腕になっても……。私は、私は……兄さんに会いたい」

 再びベッドに横になった私は涙も拭うことなく、鋼鉄の左腕を見る。手を握って開くのを、ひたすら繰り返す。それはセイランとエリアが来るまで続くことになる。

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