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第一話「生きたい」挿絵有

挿絵(By みてみん)

画:櫻井あき(@blacklovelydoll)


「紅茶とナイフ。」の続編となる物語。

 老朽化したコンクリートの建築物の影で、私が愛用している二本のナイフを入念にチェックしていた。いわゆる簡易的なメンテナンスである。錆や刃こぼれもないのを確認すると、安心して鞘に収めた。

 片方は亡き祖父の家に飾られていた、ブッシュナイフ。なんでも、先祖代々受け継がれてきた代物だとか。もう片方は、現在行方不明の兄さんにプレゼントして貰った、サバイバルナイフ。

 どちらも大事な戦友であり、かけがえのない物だ。物思いに耽っていると、燕尾服(えんびふく)を着た、黒髪の青年が声をかけてきた。

「整備は大丈夫ですか?­­­­­­ ナイフがなければ、私が軽く教えた程度の体術しかない貴女では、長生きできるとは思えませんので」

「戦友は大丈夫よ。体術は、また時間ある時に教えてもらうわ。今は外にいる、発情した残念な人達をぶん殴りましょ」

「それは、貴方がセーラー服で短いスカートを履いてるからでは?」

「好きでずっと着てる訳じゃないわ。それに、スカートの下にスパッツ履いてるからいいじゃない。見せてないし」

 私は腰まで伸びた銀の髪を揺らしながら、真紅の瞳で男を捉える。視線を逸らさない彼に、まるで解っていないと鼻で笑われてしまった。

 ここ最近になって、青年と行動を共にするようになったのだが、彼は勿体無いと思う。高い背丈と甘いマスクを持ち、冷静で戦闘能力も高い。だが、性格に少々癖がある。それだけなんとかしてくれれば、私も気持ち的に負担が軽くなるのだが、現実は甘くないようだ。

 私の悩みなど知らない彼は、手にしたティーセットを使って好物の紅茶を飲み始めた。廃れたこの国では、紅茶もティーセットも高級品と化しているのに、なんと贅沢な事か。売れば生活が潤うのは間違いないのに彼は決してしない。

 紅茶好きな彼のマイペースさに肩をすくめ、私は軽く柔軟体操をして相手の出方を探る。

 入り口は建物の瓦礫で封鎖されており、爆破でもしない限り侵入は不可能だろう。他の侵入経路としては、私達が入ってきた裏口くらい。

「おそらく裏口からでしょう。建物から建物へと飛び移ったりしなければ、ですが」

「そこまでするような連中だとは思えないけど。一応用心しとくわ」

「念のためということで。ま、どちらにしても私が紅茶を飲むのには変わりませんので」

 それだけは譲れないと断言し、ティーカップを傾ける。茶が好きなら、私が大量のドクダミ茶を用意して下痢にさせてやろうかと思うけれど、この辺りにドクダミなど生えているのだろうか? そういう飲み物を知ってるだけで、詳しい事を知らない私は考える事を止めた。目の前の現実に集中せねばならない。

 この建物に入る前に、目視した限りで三人はいた。その倍がいると想定して六人と考えるなら、相手が突入するのを待って確実に潰すのが得策か。

 私は彼に視線で訴えると頷いて、ティーカップに紅茶を注ぎ始める。相変わらずやる気があるのかないのか、判断しづらい彼から視線を外し、革製の鞘からブッシュナイフを抜き放つ。獲物を求める刀身が、どこか怪しげに光る。このナイフを使っても、紅茶好きの青年に勝てないのだから驚きだ。

 彼が言うには、『潜在能力』という身体能力を最大限に引き出し、特殊な能力を得られる物があるらしいのだが、それがまだ開花してないのが原因とのこと。人によって開花するタイミングが異なるらしく、気長に待つよう言われたが、私は強くなりたい。

 そんな事を考えていると、痺れを切らした四人の男が裏口から建物へ入ってきた。私の全身を舐めるような視線に虫唾が走る。

 私は衝動を抑えられず、地を駆けた。ブッシュナイフで、一番端にいた丸い男の首目掛けて薙ぐ。宙を舞う男の首が、仰天した表情になっているのが滑稽で仕方ない。

「......見た目だけで判断しないことね」

 吐息を漏らしながら呟き、新しい標的へと狙いを変えた。首無しになった人間の胴体を蹴り飛ばす。隣にいた細身の男は死体に押し倒され、身動きが取れなくなる。

 残りの二人へと視線を移すと、既に倒れているではないか。その傍らに紅茶好きの彼が立っていた。私より強いだけのことはある。

 再度、死体で身動きが取れなくなった細身の男に視線を向けた。男は死体を退かして一息ついていたが、自身以外が戦闘不能になっているのに気付いたようだ。怯えたように悲鳴をあげ、殺さないでくれと懇願してくる。

「……こいつ、どうするの?」

「ふむ、どうしましょう。貴女はどうしたいのですか?」

「なんで私が聞かれてるの? ま、私からすれば役に立ちそうには見えないし、ここで終わりにしてあげればいいと思う」

 やられる前にやらなければ。些細な事が、後々大きな過ちとなって帰ってくる場合だってあるのだ。ブッシュナイフを握りしめる手に力を入れる。

 細身の男は、自分の死が近付いていることに気付いたのだろう。瞳を大きく見開き、四つん這いのまま足元まで這いずって来る。

 正直に言うと気持ち悪くて仕方ないのだが、何か言いたい事があるようだ。最後の情けとして、無言のままブッシュナイフの切っ先を向けて話を聞くことにしよう。男はナイフに怖気づいて小さく悲鳴を漏らすも、懸命に言葉を紡ぎだした。

「ひぃ……。た、助けてくれ。俺達が悪かった」

「それだけ?」

「あ、いや……。少ないが食料もある! あ、あんた達に全部やるから見逃してくれ! 頼む!」

「他に仲間はいるの?」

「い、いない! 俺達四人でなんとか支えあって生きてきたんだ。誰かを雇う金もねぇよ……」

「わかったわ。それじゃ仕方ないわね」

「ほ、ほんとか!?」

 私の言葉を聞いた途端、男の表情が明るくなった。涙と鼻水と、体に付着した仲間の血がついた酷い格好のまま。

 救われたと思っている男に苛立ちを覚えた。自分にとって都合の悪い事には目を背けて、都合の良い事には尻尾を振る。情欲に溺れ、盛っていた事など忘れているのではないだろうか? 私は自分を抑えきれずに、素早くブッシュナイフで薙いだ。

 男の両目が真一文字に斬られ、のたうち回る。そんな状態の男を見下ろしながら、私は淡々と語る。

「虫唾が走るから二度と他人を見ないで。食料も取らないし、殺しもしないから。安心してね」

「怖いですねー。せっかくの紅茶が不味くなったらどうするんですか」

「知らない。それより、本当に残りの敵はいないの?」

「私が分かる範囲ではいないですよ」

 ブッシュナイフの血を、気絶させられた一人の服で軽く拭う。あとでしっかり綺麗にしとかないと、ご先祖様に叱られてしまうかもしれない。

 どうでもいい事を考えながら、悲鳴が聞こえる建物から私達は立ち去る。なんとなく、空を見上げると厚い雲が見えた。新しい休憩地点を探さないと、雨で無駄に体力を消費してしまうだろう。紅茶好きの彼は、私の歩幅に合せるが決して追い抜こうとはしなかった。

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