午前2時45分、オルビドにて
オルビドとは、スペイン語で忘却という意味を持つ。
自分が何者かを忘れてしまった少年。
とある電車で出会った少女との会話でーー。
近親愛要素あります、ご注意ください。
リレー小説式に書いていきました。
一文ごとや段落ごとというわけではありません。
列車が一人の少年の前に止まった。
中から降りてくる人はいない。
少年は鞄を抱え直し、躊躇することなく乗り込む。
車内はがらんとしていて、数少ない乗客はみんなうつむいていた。
重い空気に少年もつられて俯き、空いている席に鞄を抱えて座った。
座席は木製で、ヒヤリとした冷気とヒーターの温かさが合わさってなんだかぬるく感じる。
少し車窓を覗きたい衝動に駆られるが、切符に『顔をあげるな』と書いてあったので押さえつけた。
「……」
鞄には最低限の荷物が入っている…何処に行くかも分からないのに。
ガタンゴトン、と電車は一定のリズムを刻んで進んでいった。
その揺れに身を任せていると、徐々に眠気が押し寄せてくる。
少年の頭が下がって鞄に着地しそうになった時、電車がゆっくりと止まった。
空気の抜ける音を発して扉が開くと、少年と同じぐらいの年頃の少女が乗車する。
少女は車内を見渡したあと、少し迷ってから少年の隣に腰掛けた。
少年はそれに気付いたが、敢えて何も言わなかった。
「…私、お葬式に行くの」
少し低めの掠れた声…聞き覚えのありすぎる声に、少年は硬直した。
鞄を抱く腕に、無意識に力がかかる。
少女はそう言ってチラリと少年を見たが、すぐに視線を戻した…髪の色が同じこの子に、彼の面影を重ねてしまうようで怖かったのだ。
彼との思い出は後悔ばかり。楽しかった思い出も、幸せだった日々も全て最後の思い出によって黒く塗りつぶされていた。
「大丈夫、もう大丈夫だから。」
まるで心を読み取ったかのように、少年はそう繰り返して少女の手をひらかせる。
無意識に握りしめていたようで、手の平には爪の跡がくっきりとついていた。
思わず少年の方を見るが、少年は俯いたまま。
涙声で少女は気まずさを隠すように言う。
「海辺のね…お墓なの。海…好きだったから。」
薄く開いた視界に、少女の黒いスカートが飛び込んでくる。
そこの上にのせられた手が消えた、
「兄さんを…愛せればよかったのに…!!」
少女は泣いていた。その苦しげな声にまた鞄を抱く力が強まる。
「ねぇ、」
少年は声をかける。
「僕と一緒に行かない?」
鞄が潰れている。少年の声は緊張で震えていた。
少女は小さく、え?と問い返す。
それからゆっくり覆っていた手を退かして、真っ赤な目で少年を見た。
「どこに?」
少年もこの列車が何処に行くのか知らない。
少年はやはり俯きながら答えた。
「全部…忘れられる所」
悲しいことも、つらいことも忘れてしまうような場所。
現に少年は自分が何者か忘れてしまっていた。
少女は目を丸くしたが、首を振る…真っ赤な目で。
「彼…とても穏やかな顔で眠ってたの。それでもう許されちゃったような気がして」
─1年経ったら、忘れることにした。
そう呟く少女の心がとても綺麗で、連れていけたらと思った自分の心が醜く感じて少年は更に俯いた。
切符をふと見た少年は硬直した。
『死に顏を壊すな』
突然、列車が止まる。
少女は思い出したように車窓から駅名を確認する。
「私、ここで降りるね」
少年はホッとしたように肩の力を抜いた…もう妹の声を聞くことはない。
「兄さん…オルビドの海が、好きだったの」
少女の足音が遠ざかっていく。
「 」
妹の名を呟き顔を上げると、真っ暗だった。
でも何故か手元は明るい。
どうやらここは棺の中らしい。波の音が聞こえる。
手にした小さなノートを広げると、少女への好意が綴ってあった。
少年は苦笑してペンを走らせた。
時計で時間を確認する──何故か時計は動いていた、
いい書き出しが思いつかない。
少年は少し考えると、流麗な文字で書き始める。
切符のような色の白百合が辺りに埋まっている。
心は穏やかだった。
(Fin)
──午前2時45分、オルビドにて。
アレンスタッフィードが記す。
茶宮さまとの初の、関宮はな姫として初のコラボ短編となりました。
少し変わったラストですがそれをしてしまったのは紛れもなく私です、ごめんね茶宮さま。
ここで言ってしまいますが関ノ戸は、茶宮さまの作品の後書きで述べてられていた「40番」です(笑)
40番は出席番号です←
これからも少し止まっている連載を進めていければと思っていますので、よろしく御願い致します。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。
関ノ戸 はなり
むしろ素敵なラストだと思ったよ、関ノ戸さま!
いつもお世話になっております、ありがとう。
コラボだと予想外の展開になったりしてすごく楽しかったです。
自分とは違う書き方とかも学べてすごく有難いです。
この作品を見つけて更には読んでくださり、ありがとうございました(o´ω`o)
茶宮 月姫