永遠を結びつけて - yukina -
嘘…みたい。
ずっと、ずっと叶わないと思ってた。
でも、それでも良いと思ってた。
それなのに…。
雨も上がり、涙も止まった頃。だいぶ落ち着いた私に、翔太はそっと手を差し出した。
「なんか…改まると照れくさいな」
そう言って、ごまかすように笑う姿を見るだけで、胸が締め付けられる。それは昨日とは全く違う、なんとも甘酸っぱい感覚。
黙って手を重ねると、どちらともなく指を絡めて、また少し微笑んだ。
あぁ、幸せだな。
柄にもなく、そう本気で思った。想われるだけで、こんなにも世界は変わるんだ。
「ごめん。濡れちゃったな」
繋いだ手と反対側の手で、私の頭を軽く撫でる。
「翔太も。濡れてる」
少し背伸びするが、私よりも全然背が高いため、ちょっとやそっとじゃ届かない。軽く上げた手をそっと下ろすと、そうか? と少しうつむいた翔太と目が合った。
二人して、慌てて目を逸らす。
こっそりとまた覗いてみる。と、また合った目が、三日月形に変わった。
「兄ちゃん、そういうのは隠れてやった方がいいよ」
突然かけられた声に、繋いだ手を瞬間的に離した。
「けっ謙太⁉」
「ゆーきなっ。久しぶり」
翔太の弟、謙太は、兄の声に構うことなく私の前に回ると、そう言って無邪気に笑った。相変わらず翔太に笑い方が似てるな、と思うのは、猫っぽい目が原因だろう。
「いつからいたの?」
まだ少し残る温もりを握りしめながら、冷静を装う。
「んー、さぁね」
からかうような返し方に口を開きかけるが、先に声を出したのはやっと冷静さを取り戻した兄だった。
「お前なぁ…」
「何?」
「家帰ったら覚えとけよ」
「兄ちゃんが手繋いでデレデレしてたこと? もちろん覚えとくけど」
「謙太‼ 」
いつも落ち着いてみえる翔太は、兄弟で言い合いをするときは大抵負けっぱなしだ。そんなところが可愛い、なんていったら不機嫌になるだろうから、絶対に言わないでおこう。
「道中でそんなことしてるのが悪いんでしょ。見られたくなかったら、自分の部屋にでも隠れてやれよ」
謙太はそう言い残すと、あっかんべをして走っていってしまった。
「そっか」
隣でまだ文句を言っていた翔太が、ぽつりと漏らした私の声に耳を傾ける。
「どうした?」
ゆっくりと見上げた空には厚い雲。その先にはーー
「織姫と彦星は…雲の上で逢えてるのかもね」
さっきの謙太の言葉を、自分の中で繰り返す。
「見られたくなくて、雲に隠れて逢ってるんだよ」
灰色としか思えなかった雲が、いまはなんだか薄いカーテンのようにもみえる。その先にはきっと、幸せそうに微笑む二人がいるのかもしれない。
翔太は何もこたえず、ただ、私の手を握りしめた。
『このままでいたい』
いまさら、翔太の短冊が浮かんでくる。あの日みた時よりも、ずっとずっと心に響きながら。
「翔ーー「ずっと、」
重なった声が、夜空に響く。
繋いだ手に、ゆっくりと力がこもった。
「このままでいような」
ーーーー七月七日。
愛し合う二人が、一年に一度逢える大切な日。
私は今日、長年の片想いを終えた。
隣には、優しく笑うあいつが居る。
「うん」
七夕に願いを。
願わくば、永遠を。
来年も、再来年も、何十年後も、ずっと。
君の隣で。
短冊に記した希望を、笹にしかと結びつけて。
初めて終えた連載ものです。読みにくい点もたくさんあったと思いますが、最後までお読みいただきありがとうございました。よければ、感想お願いします。