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勇者「え? 魔王死んだの?」

作者: ほーらい

――街外れの草原


勇者「え? 魔王死んだの?」


魔法使い「あぁ。今さっき大臣から連絡があった」


勇者「え、でも俺が選ばれし勇者なんだから俺達しか倒せないんじゃ」


僧侶「選ばれしっていってもクジ引きで当たっただけですけどね」


勇者「う、いやでも希望者結構多かったしそっから選ばれるってやっぱ」


僧侶「たしか30人ぐらいでしたよ」プークスクス


勇者「」


戦士「そんなことどうでもいいじゃねーか。それより死んだってどういうことだよ」クッ


勇者「おい戦士今笑ったろ」


魔法使い「私もまだ詳しくは聞けていない。とにかく一旦街に戻るべきだと思うのだが」


僧侶「そうですね。王様からも直接話を聞きたいですし」


戦士「よし決まりだな。勇者、転送魔法頼むぜ」


勇者「わかってるよ」


バシュン!




――城・王座の間


大臣「――というわけで偵察部隊から魔王の生命反応が消えたと報告があった」


国王「そういうことじゃ。おぬしらには迷惑かけたのう」


国王「しばらく家にも帰っとらんのじゃろうし、これからはのんびり暮らすといい」


勇者「……しかし魔王がなんらかの能力で姿を隠しているということもあるのでは」


大臣「魔界の瘴気は魔王の生命エネルギーによって発生している」


大臣「その瘴気が消失し魔界にも影響が出ているようだ。意図的とは考えにくい」


勇者「そう、ですか……」


勇者「わかりました。では失礼します」




――街の広場


僧侶「やることなくなっちゃいましたね、勇者さん」


勇者「……だな」


戦士「そんなに落ち込むなって。平和になったんだし良かったじゃねーか」


魔法使い「たしかに、今まで鍛錬してきたことを考えると不本意だがな」


勇者「……お前達はこれからどうするんだ?」


戦士「俺はまた師匠に頼み込んでタダ働きでもするかな」


僧侶「私は孤児院の手伝いに戻りますかね」


魔法使い「せっかくだからしばらく魔法の研究でもしようと思う」


勇者「そうか……」


僧侶「勇者さんはどうするんです? また引きこもりですか?」


勇者「またってなんだ。今までは特に外に出る必要性を感じなかっただけで」


魔法使い「それを世では引きこもりという」


勇者「ぐぬぬ」


戦士「まぁ、とりあえずこのパーティーはこれで解散だな」


魔法使い「そうだな」僧侶「ですねー」


勇者「これで解散、か。特に何もなかったがお疲れ様」


戦士「あぁ。それじゃまたいつかな」


僧侶「皆さん体には気をつけてくださいね」


魔法使い「縁があればまた会おう」


――


勇者「……はぁ」


勇者「(ほんとにやることなくなっちゃったな……)」


勇者「(ったくなんのために今まで必死に魔物なんて倒してたんだか)」


勇者「(たしかに強くはなったけどもう戦う相手なんてザコ魔物の残党ぐらいしかいないし)」


勇者「……」


勇者「…………」


勇者「……家帰ってだらだらしようっと」




***




――魔王死亡報告の少し前のこと


魔王「ふむ、たまには部屋の掃除もいいものだな」


側近「めずらしいですね。いつもはだらだらしている魔王様が片づけなんて」


魔王「まぁな」


魔王「それよりそろそろ腹が減ったな。何か作ってきてはくれないか?」


側近「かしこまりました」


――ガチャン


魔王「さて、さっさと残りを片付けるか」


魔王「悪魔のペンダントに呪われた指輪に……なんで聖水なんかあるんだ」ポイッ




魔王「……ん? なんだこの水晶は?」


魔王「見たところ魔力のオーブというわけでもなさそうだし……後で側近に訊いてみるか」プツ


魔王「プツ? あぁ、巻いてあった紐が切れたのか。まぁ問題ないだろう」


魔王「さて、続き続き……呪いのイヤリングに呪縛の腕輪……呪われてばっかだな」


ズドーンッ!


魔王「!? (くっ、煙で前が見えない……が、誰かいるな)」


??「……」


魔王「!」


冥王「ふぁ~あ、ようやく出られた。……あれ? 魔王……の子孫かな? おはよう」


魔王「何故貴様がここに……」


冥王「なんでって?」


魔王「貴様は数多の悪行を重ねたことにより先代魔王の手で封印されたと聞いていたが」


冥王「されてたよ? でも君が出してくれた」


魔王「……(くそっ、あの水晶か……)」


冥王「にしても魔王とそっくりだね……あぁ今は君が魔王なのか」


魔王「あぁ、そうだ」


冥王「ってことは僕は何年ぐらい封印されていたんだろうね?」


魔王「さぁな。せいぜい100年ぐらいじゃないか。こちらとしてはもっと寝ていてほしかったが」


冥王「はは、起こしたのは君じゃないか」


冥王「では僕は久しぶりに冥界へ帰ろうかな。そうだ、君もお客さんとして招待しよう」


魔王「なっ」


バシュン!




――トントン


側近「魔王様、ご飯ができました」


側近「……魔王様?」


側近「?(わずかだけど瘴気の濃度が薄くなってる……?)」


バンッ


側近「魔王様!」


側近「……誰もいない……」カツッ


側近「……聖水?」




***




――現在


勇者「あぁー、暇だ」


勇者「そうだ。なにか新しい遊びでも考えるか」


勇者「えーと『通り過ぎる馬車をひたすら数える』なんてのはどうだろう」


勇者「……ないな」


勇者「戦士のところにでも遊びに行くか」


勇者「でもいきなりは迷惑かもしれないしな……」


勇者「……」


勇者「あぁー、暇だ」




***




――冥界


冥王「はー、懐かしいな、この空気」


冥王「帰ってくるのは100年ぶりぐらいかな。ふむ、意外と短い」


魔王「薄汚いところだな」


冥王「このぐらいが丁度いいのさ」


魔王「こんなところへ連れてきて何が望みだ?」


冥王「望み?それは特にないけど。ちょっと面白そうだろう。魔界がどうなるか、とか」


魔王「帰らせろといったら?」


冥王「うーん、僕と遊んでくれたら考えても、いい」


魔王「まったく、話に聞いたとおりの狂人だな」


魔王の掌から深い赤の炎が湧き上がる


冥王「それはお互い様だと思うけど」


冥王が手をかざすと、「氷」とでも表現したくなるような冷たい青の炎が巻き上がった


魔王「貴様とだけは一緒にされたくないものだ」


冥王「それはどうも光栄です」


刹那、閃光が走る――




***




勇者「あ、今馬車通った。34台目」


勇者「……お、35台目きた」


勇者「あれ、でも牛だったな……牛はセーフなんだっけ……」


勇者「……やっぱりノーカンにしよう。34台目っと」


勇者「あ! ついに35台目きた!」


勇者「……」


勇者「(……俺は何をやってるんだ)」


勇者母「ちょっと、暇なら水でも汲んできてちょうだいよ」


勇者「ん? あぁ、わかった」


――


勇者「……よっこらせ、と」チャプン


勇者「(軽っ、昔はあんなに重かったのに)」


勇者「よし、さっさと帰ってご飯食べよう」


少女「あの」


勇者「(明日やることも考えなきゃな)」


少女「すいません」


勇者「(たまには街の依頼でも受けに行くか)」


少女「(怒)」パンチッ


勇者「ぐへっ」


勇者「いきなりなんだ?(って女の子?)」


少女「いきなりで申し訳ございません。勇者さんでいらっしゃいますよね?」


勇者「え? ……うーん、まぁ魔王倒してないから微妙だけど、一応」


少女「私、その魔王様の側近なのですが、お願いしたいことがあるのです」


勇者「え?」




――勇者の家


側近「――というわけなのです」


勇者「はぁ……魔王が実は生きてて行方不明ねぇ」


側近「お願いします! 魔王様を助けてください!」


勇者「(いまいち現実感ないな……それに)」


勇者「仮にも敵同士なんだからそれは無理だ」


側近「敵同士って……」


側近「いつも思ってたんですけど、魔王様が何かしましたか?」


勇者「え?」


側近「何故そこまで魔王様を目の敵にするのか、と訊いているんです」


勇者「何故って、毎日たくさんの人が魔物の被害にあっているじゃないか?」


側近「それは確かに存じておりますが、そのような魔物はほんの一部です」


勇者「?」


側近「多くの魔物は魔王様の統治のもと、魔界で穏やかに暮らしています」


側近「そちらに迷惑をかけているのは魔王様に従わない存在、つまりならず者達です」


側近「勇者様の世界にも山賊や海賊ぐらいいるでしょう。……裁ききれないのですよ」


勇者「……しかし、瘴気も確実にこの世界を侵略してきているし」


側近「これでも頑張って抑えてるんです」


側近「瘴気を発生させるというのはこの世界でいう光合成のようなものです」


側近「魔王様もそのことはわかっています。この前も夜遅くまで対応策を練ってたんですよ?」


勇者「……にわかには信じ難いな」


側近「今はとにかく信じてください。お願いします」


勇者「……」


側近「……」


勇者「……まぁ、どうせ暇だったし。魔王が生きてるっていうなら顔を見たい気もするし」


側近「では」


勇者「あぁ、手伝うよ」


側近「本当ですか!ありがとうございます」


勇者「ところで何か手がかりはあるのか?」


側近「はい、一応」




***




魔王「どうした、寝起きでは調子がでないか」


放たれた赤い炎は空気を切り裂きながら形状を鋭く変化させる


冥王「まぁね。もうちょっと寝ていたかったかも」


紅の槍を紙一重で避け、素早く間合いをとる

瞬間、頭上に青い炎を発生させたかと思うと、それらをまとめて空へと打ち上げた


魔王「花火か? 随分と風流だな」


冥王「そうだろう? 『ナイアガラの滝』ってやつさ」


ひゅうん、と静かに風を切る音があちこちでこだまする

一つ、二つ、次の瞬間には数百の青が黒く染まった空に輝いた

――それらが一度に落ちてくる光景は、まるで空が落ちたと錯覚させるようだ


魔王「……ック」バッ


溢れ出す赤の炎は、急速に燃え広がり、魔王の前に巨大な盾を作り出した

降り注ぐ青の炎はなかなか攻撃の手を緩めないが辛うじて赤は守り通す


魔王「……花火にしては少し激しいな」


冥王「そう? 僕は綺麗過ぎて目が覚めたけど……」


彼が言い終わらないうちに魔界の主は一瞬で距離を詰める

炎を再び槍に変化させ、隙を見せた冥王の脇腹を穿つ


冥王「……っ(まずいな……でも)」


魔王「ふむ、心臓を狙ったつもりだったんだが」


冥王「ふふん、狙われたのは君の方じゃないのかい」


魔王「なに? ……!?」


目線を下に送ると、氷のような炎が心臓を貫いていた


魔王「! くっ、一発だけ時間差で落としたのか……」


冥王「うん。結構上手くいったみたいだ」


冥王「それじゃ、おやすみ」




***




勇者「へぇ、冥王なんて聞いたこともないな」カツカツ


側近「魔界に来るようになってからすぐに先代の魔王様が封印しましたから」スタスタ


ピタッ


勇者「ここが魔王の部屋?」


側近「はい。封印の水晶が空で落ちていたので恐らく冥界に連れて行かれたのでしょう」


勇者「……随分冷静だな」


側近「こういう時は焦ってもしかたないですし、魔王様はそんなヤワじゃありません。多分」


勇者「まぁ急ぐに越したことはないけどな。早く冥界とやらに行こう」


側近「そうですね。あ、あったこれだ」


勇者「それは?」


側近「魔方陣を描くのに必要なインクです。ここにしかなくて」


側近「今から特殊転送魔方陣を描くので少しお待ちください」


勇者「わかった」


側近「……恐らく、あちらで冥王と戦うことになります。大丈夫ですか?」


勇者「あぁ、それぐらいの覚悟は昔からできているつもりだ」


――


側近「……よし、できました」


勇者「おぉ、すごいな。お疲れ様」


側近「それでは行きましょう。中央の魔方陣に乗ってください」


勇者「ここでいいのか」タンッ


側近「オーケーです。では行きますよ」ヴゥゥン


バシュン!




***




冥王「それじゃ、おやすみ」


バシュッ!


冥王「……?」


勇者「……うわぁ、頭くらくらする」


勇者「! どうやらちゃんと着いたみたいだな」


側近「……うぅ、頭いたい」


側近「きゃあ!? 魔王様が!」タタタッ


冥王「……お客さんかな?」


冥王「……あの女の子は確か先代魔王と一緒にいた……あぁ側近か」


冥王「……で」


冥王「君は誰だい?」


勇者「……俺は人間界の勇者だ(一応)」


冥王「勇者……本で読んだことあるよ。確か世界を救うほどの力があるとか」


勇者「あぁ。まだ世界を救ったことはないけどな」


冥王「なんだそれ、じゃあまだわからないじゃないか」


勇者「だからこれから証明するのさ」タッ


ぬかるむ地面を蹴って相手の懐に飛び込む

すかさず柄に手をかけて剣を引き抜き目標に狙いを定めた


鋭く研がれた鉄の塊が振り下ろされる


冥王「スピードも重さもあるけど……ちょっと期待ハズレだね」


勇者の剣を軽くいなし、背中に手をかざす


勇者「!」


バシュン!


冥王「出直しておいで」


冥王「……さて、と」


側近「魔王様!大丈夫ですか魔王様!」


側近「!」


冥王「遊んでくれたら帰すって約束したし、君たちも帰すよ」サッ


バシュン!




――魔王の部屋


勇者「……うーん、死んだ……のか」


勇者「? ここは魔王の部屋? ……体にも異常はないみたいだし」


バシュッ!


側近「……くぅ、頭が」


勇者「側近! 大丈夫か?」


側近「……えぇなんとか」


勇者「一体何が起こったんだ」


側近「どうやら冥王に強制送界させられてしまったようです」


勇者「強制送界?」


側近「普段、転送には相手の承諾が必要なのですが、あれは強制的に人を飛ばせるのです」


勇者「そんなものが……」


側近「……はっ、魔王様!」


魔王「……」


側近「息はある、時間はかかるけど私の回復魔法で……」パアァァ


勇者「(こいつが魔王か……たしかにそんな悪には見えないな)」


側近「……勇者様、申し訳ございません」


勇者「ん? なにがだ?」


側近「こちらの都合でこんなにも迷惑をかけてしまい……」


勇者「いや、俺は何も出来てないし……そっちはこれからどうするんだ」


側近「冥王のことはこちらでどうにかします。これ以上迷惑かけるわけにもいきませんし」


勇者「重症の魔王と女の子で何をどうするっていうんだ?」


側近「それは……」


勇者「どうせここで倒しとかなきゃ俺たちの世界にも被害出そうだし」


勇者「……俺、仮にも勇者だし」


側近「勇者さん……でも、一体どうやって」


勇者「俺は今まで一人で戦ってきたわけじゃないからな」


勇者「……あいつらなら協力してくれるさ」


側近「……」


勇者「まだ迷惑だとか思ってるのか? これは俺が勝手にやることなんだ」


勇者「3日で仲間と一緒にここへ戻る。もし魔王が目覚めてたらそのとき紹介してくれよ」


側近「……はい。ありがとうございます」


勇者「じゃあ行ってくる」


バシュン!




――人間界


勇者「なんか随分久しぶりな気がするな」


勇者「よし、まずは戦士に会いに行こう」




――山奥の稽古場


老剣士「腕の振り方が甘いッ! もっと手首の使い方を意識しろッ!」


生徒達「「はいっ!」」


勇者「(すごい、こっちまで緊張感が伝わってくる……話しかけづらいな)」


生徒「?」


生徒「師匠、お客さんがいらっしゃったようですよ」


老剣士「ほう、めずらしい。皆の者一旦休憩じゃ」


生徒達「「はいっ!」」


――


老剣士「ふむ、戦士に会いに来たのか」


勇者「はい。戦士がここに戻るといっていたので」


老剣士「戦士は今、裏の山に篭って修行しているはずじゃ」


勇者「呼びに行かせていただいてもいいですか?」


老剣士「そいつは構わんが、ちょっと待っててさえくれれば呼んでくるぞ」


勇者「ありがとうございます。ですが今は時間がないので一分一秒も惜しいのです」


老剣士「わかった。この小屋の後ろに柵で囲まれた石段がある。そこから行きなさい」


勇者「ありがとうございます」


――


勇者「(結構険しいな……)」


ガサガサ


勇者「!?」


??「隙ありっ!」


勇者「ぐあぁっ!」


――


勇者「まったく、いきなり驚かすなよ」


戦士「悪いな。不法侵入者かと思ったぜ」


勇者「反応遅れてたら首飛んでたし」


戦士「だーかーらー、悪かったっつってんだろ」


戦士「それで? なんのために来たんだ? まさか遊びじゃないだろ?」


勇者「あぁ、実は……」




勇者「――ということがあったんだ」


戦士「ふーん、すげぇこともあるもんだなぁ」


勇者「だから、お前の力を貸してほしい」


戦士「もちろん。たまには実践もいいよな」


勇者「ありがとう、戦士」


戦士「いいってことよ。それより時間ないんだろ? さっさと二人も呼びに行こうぜ」


勇者「よし、そうだな」




――スラムの孤児院


勇者「僧侶がいるのはここだな」


戦士「ここに来んのって僧侶と出会ったとき以来だよなー」


勇者「あぁ、懐かしいな」


トントン


院長「はーい。あらお客さん?」


勇者「はい。ここにいる僧侶と知り合いの者なんですが」


院長「あらあら、僧侶ちゃんのお友達? ちょっと待っててね」


院長「僧侶ちゃーん! お友達よーっ!」


僧侶「はーい」タッタッタッ


僧侶「あり?勇者さんと戦士さんじゃないですか」


僧侶「これまた随分と早い再会ですね」


勇者「あぁ、いろいろとわけがあって」


僧侶「ほうほう、それで私の力を借りたいと?」


戦士「そういうこと! 話が早くて助かるぜ」


戦士「まぁ詳しい話は勇者から」




勇者「――ということがあ……いてっ」


子供達「あははっ! 変な顔ー」「ねぇねぇ遊ぼーよおー」キャッキャッ


勇者「わかったわかった、後で遊んであげるからちょっと待っててね」


子供達「嫌だー今遊ぶー」「あーわがままはいけないんだー」キャッキャッ


僧侶「ほらほらみんなー、勇者さん困ってるでしょ。戦士さんとも遊びなさい」


戦士「え? 俺?」


子供達「わーい魔物ごっこやろー!」「えーおままごとよー」キャッキャッ


戦士「……よし、全部一緒に遊んでやらぁ!」


子供達「「やったー!」」


キャッキャ キャッキャ




僧侶「……そんなことがあったんですねー」


勇者「あぁ、だから僧侶にも手伝って欲しいんだ」


僧侶「いいですよ」


僧侶「でも子供達に心配かけたくないので早めに終わらせましょうね」


勇者「そうだな。ありがとう」


僧侶「いえいえ。あ、今日はここに泊まっていったらどうですか?」


勇者「そうしてもらえると助かるよ」


僧侶「子供達もまだまだ遊び足りないみたいですしね」ボソッ


勇者「?」




――翌日


勇者「つ、疲れた……」


戦士「お馬さんやりすぎて腰と膝痛ぇ……」


僧侶「おやおや二人とも情けないですねー」


勇者「子供ってみんな元気だな……全員寝たの4時だぞ」


僧侶「お客さんが来ると興奮しちゃいますからね」


戦士「てて……じゃあそろそろ魔法使いのとこ行くか」


勇者「そうだな……」




――森の奥・研究所


勇者「はぁ……やっと見つけた」


ドッカーン!


一同「!?」


戦士「なんだなんだ!?」


僧侶「中からです! とにかく入りましょう!」


――


勇者「うわ、灰だらけだ」ゴホッ


僧侶「あんまり吸わない方がいいですよ」


戦士「おーい、こっちで誰か倒れてるぞー」




魔法使い「ごほっ、せっかく訪ねてもらったのにこの有様で悪い」


勇者「気にするな、って言いたいが何やってたんだ」


魔法使い「新しい魔法を研究してたら急に魔力が暴発してな」


戦士「お前が失敗なんてめずらしいな」


僧侶「まほちゃんはいつも冷静だけどたまにおっちょこちょいですよね」


魔法使い「しょうがないだろう、私一人でやってるんだ」


勇者「誰か手伝いとかは雇わないのか?」


魔法使い「それも考えたがやはり一人の方が気楽だしな」


魔法使い「……で、全員勢ぞろいで私に何の用だ?」


勇者「あぁ、実は……」




勇者「――というこ……ゲホッ」


魔法使い「あぁすまない、また暴発したようだ。今度は少ない魔力で良かったな」


勇者「いや、あのー、人が話してる前で悠々と実験するのやめてもらっていいですかね」


魔法使い「大丈夫だ。話は聞いていた」


勇者「(そういう事じゃない気もするが)」


魔法使い「ということは戦士も僧侶も同じ目的で集められたのか」


僧侶「そうですよー。勇者さんと戦士さんがどうしてもっていうんで」


戦士「そうだったけか? まぁいいけど。魔法使いはどうする?」


魔法使い「私も行くよ。仲間外れは嫌だしな」


勇者「みんな来てくれるのか。……本当にありがとう」


戦士「気すんなって! どうせみんな暇なんだから」


僧侶「暇じゃないですよ」魔法使い「見ての通り忙しいが」


戦士「……お、おう」


僧侶「冗談ですよ。元気出してください」


魔法使い「それより時間がないんだろう。急いだほうがいいんじゃないか」


勇者「あぁ、わかってる」




***




側近「……」


魔王「……んん」


側近「! 魔王様! 目が覚めたんですね!」


魔王「ここは……私の部屋か……」


魔王「あぁそうか、確か私は冥王にやられて……」


側近「魔王様、まだ治療が済んでいないので……お体に障りますよ」


魔王「私は何故生きているんだ?」


側近「それは……」




側近「――それで勇者さんは仲間に会いに行くと言って今は人間界にいるはずです」


魔王「そうか……人間にまで迷惑をかけていたとはな」


魔王「くそっ、こんな怪我などなければ……」


側近「……」


側近「勇者さん達ならきっとやってくれますよ」


側近「信じましょう」


魔王「だが……」


側近「怪我人は黙って寝てればいいんです」


魔王「……あぁ」




側近「そろそろ勇者さん達が帰ってくるころですかね」


側近「さて、久しぶりに特製の回復薬でも作りますか」


ガサゴソ


側近「薬草に緑キノコにチユの実……あ、拾った聖水も入れてみよう」




――


側近「よし出来た。心臓貫かれるぐらいの攻撃なら余裕で回復ですよ。ふふん」


バシュッ!


側近「あ!」


勇者「はぁ……やっぱり長距離の転送魔法は疲れるな」


戦士「へぇー。ここが魔界か」


僧侶「意外と私達の世界と変わりませんね」


魔法使い「だが空気中の魔力は比べ物にならない……研究が捗るな」


側近「勇者さん! おかえりなさい!」


勇者「側近、遅くなったな。俺の仲間達だ」


僧侶「かわいい女の子ですね~。こんな子が魔王の側近なんて信じられないです」


側近「いえ、そんな……でも一応魔族なので皆さんよりは長く生きてるんですよ」


魔法使い「ふむ、興味深い」


戦士「まぁとにかくよろしくな!」


側近「よろしくお願いします。こちらのせいで迷惑をおかけしてすみません」


勇者「気にするな。どうせいつか戦うはめになるだろうし」




魔王「……お前達が勇者御一行か」


戦士「!」ピクッ


魔王「そう身構えるな、危害を加えるつもりはない」


戦士「いや、すまん。どうも反射的に身構えちまう」


側近「魔王様、起きて大丈夫なのですか?」


魔王「あぁ、大分調子も良くなった」


側近「そうですか(はぁ……本当はまだ半分も治っていないでしょう)」


勇者「……話しをするのは初めてだな」


魔王「あぁ。……色々世話をかけたようだな」


勇者「いやこちらこそ今まで誤解していたみたいで申し訳ない」


魔王「……冥王を倒すのに協力できなくてすまないな」


魔王「だが出来る限りのことはサポートさせてもらおう」


勇者「助かるよ」


――


戦士「明日は大変なんだからそろそろ寝た方がいいんじゃねーか」


僧侶「そうですね。私はもうくたくたですよー」


魔法使い「私はもう少しこの部屋にあるものを見てみたいのだが」


側近「えぇ、構いませんよ」


勇者「魔法使いもほどほどにしとけよ」


魔法使い「わかってる、おやすみ」




――翌日


勇者「ついに来たか……」


戦士「いよいよ今日だな」


僧侶「おー、緊張しますね」


魔法使い「……」


勇者「おい寝るな」




魔王「……お前達に渡しておきたいものがある」


勇者「?」


魔王「私の魔力を宿らせたアクセサリーさ。わずかだが少しは役に立つだろう」


魔王「悪魔のペンダントと呪われた指輪、呪いのイヤリング、呪縛の腕輪だ」


勇者「呪われてばっかだな」


魔王「まぁ安心しろ、名前だけだ。呪いで動けなくなったりはしない」


勇者「そうなのか。ありがとう」


魔法使い「……そういえば何故私達は魔界に来ても瘴気にやられないんだ?」


側近「私が皆さんに常時バリアを張っていますからね」


僧侶「おぉ、側近ちゃんすごいです」


側近「いえ……それほどのことでもありませんよ」


僧侶「僧侶として是非見習いたいですね」


戦士「さぁさぁ、お話は冥王を倒した後でゆっくりしようぜ?」


勇者「そうだな。そろそろ向かおうか」


側近「あ、皆さんこれも持ってってください」


魔法使い「これは?」


側近「特製の回復薬です。聖水も入れて作ったんですよ」


勇者「わざわざありがとう」


勇者「じゃあ、行くか」


戦士「あぁ」僧侶「はい」魔法使い「そうだな」


側近「皆さん、気をつけてくださいね」


勇者「あぁ。それじゃ魔方陣を頼む」


――


側近「……それではいきますよ」ヴゥゥン


僧侶「なんか緊張しますね」


戦士「ワクワクするな」


魔法使い「遊びに行くわけじゃないぞ」


側近「転送準備オーケーです!」


勇者「よし、みんな行くぞ!」


バシュン!




――冥界


バシュッ!


勇者「言われたとおり出直してきてやったぞ」


冥王「今回は一人じゃないんだね」


勇者「その方がお前もやりがいがあるだろ」


勇者「まぁやられるのはお前だけどな」


冥王「ほう、言うねぇ」


勇者「この前のようにはいかないさ」


言い終わるや否や勢いよく地面を蹴り距離を詰める。地面は相変わらずぬかるんだままだ

素早く剣を抜き冥王に斬りかかる


冥王「ふん、この前と同じじゃないか」


またもや勇者の剣は軽くいなされてしまう

……だが今回はこれでいいのだ


冥王「!?」


突如背中に衝撃を受けて冥王は振り返る

目の端に身の丈ほどの大きな剣を構えた人影が映った。戦士だ


冥王が戦士に気を取られた一瞬を勇者は見逃さない

すかさず剣を持ち直し、無防備な腹を切りつける


冥王「くっ……」


体勢を崩された冥王は自分の周りに炎柱を発生させ、勇者と戦士を牽制する

それらを前方へ飛ばすと同時に後ろへ下がり、体勢を整えた


勇者「何が同じだって?」


冥王「前言撤回するよ。確かに君達は厄介そうだ」


そう言うと、頭上に無数の炎を作り出し空へと放り投げる


魔法使い「危ない!」


魔法使いは空に手をかざし、常人には聞き取れないほど素早く且つ正確に呪文を唱える

巨大な炎の球を幾つも発生させ、それらを続けて空へ撃ち込んだ


放たれた炎球は空に揺らめく青の炎を次々に相殺し、鋭い閃光を散らしながら消える


さすがに全ては無理だったようだが。


――ひゅうん


勇者「っ!」バッ


戦士「くそっ!」ザッ


落ちてくる青を防ぐには彼らの盾は少し頼りなかった

最上クラスの鉱物で作りあげられたはずのそれはあっけなく形を崩す


勇者・戦士「……っ」


直後二人の体に激痛が奔った

……と感じたのはほんの一瞬のことだろう


勇者「危ない危ない。あばら5、6本いったかと思った(わかんないけど)」


戦士「勇者それ言いたかっただけだろ」


僧侶「二人とも私に感謝してくださいね!」


そう、彼らが冥王の攻撃を受けた瞬間に僧侶が回復魔法を施したのだ


冥王「ほう……」


勇者「この程度じゃ倒せないぜ」


冥王「焦るなよ、まだ始まったばかりじゃないか」




それからの戦闘は両者一歩も譲らなかった

冥王が近距離での攻撃を狙ってきたときは魔法使いがそれを牽制し、

怯んだところで勇者が追撃を仕掛ける


戦士が冥王の気を引き、勇者が背後から剣を振り下ろす

しかし冥王はその動きに敏感に反応してひらりと身をかわし、勇者を弾き飛ばす


そんな均衡状態が長く続いた




魔法使い「(まずい……今は辛うじてこの状況を維持できてるが……)」


戦士「(純粋な戦闘能力はあいつが数段上……これ以上長引くとやべーな)」


僧侶「(うぅ……そろそろ魔力もきついですね……)」


勇者「(くっ、どうする……)」


冥王「どうした? いい加減息切れかい」


勇者「そんなわけないだろ……!」


勇者は冥王に向かって駆け出した

冥王の心臓を狙いこれまでで一番の力をこめて剣を振るう

その気迫に押されたのか、冥王は一瞬たじろいだ


――ザン


肉を切った鈍い音が周囲に響く

冥王は低い呻き声をあげながら地面に膝を突いた


……その目の前には勇者が倒れている。傍らには真っ二つになった彼の剣


戦士「勇者!」


確かに勇者は冥王の胸を切り裂いた

だがそこで油断を見せた勇者に冥王の反撃が襲い掛かったのだ


僧侶「あぁ、魔力的に回復は最後になっちゃいそうです」パァア


勇者「……ありがとう……」


冥王「……はは、君の攻撃、残念だけど致命傷というわけにはいかなかったね」


やや引きつった笑みを浮かべながらも、その表情からは余裕が窺える


勇者「(負けるわけにはいかない……)」


勇者「(くそっ、何か方法はないのか……!)」カランッ


勇者「(? これは……)」


勇者「(あぁ、側近が作ってくれた回復薬か)」


勇者「(でもこれじゃ直接の解決にはならない…………)」



『特製の回復薬です。聖水も入れて作ったんですよ』



勇者「(……ん?)」



“聖水も入れて”



勇者「(聖水……試す価値はあるかもしれない……!)」バッ


冥王「ふん、素手で何をする気だい?」


勇者「効いてくれ……!」


――バシャッ


冥王「? 何をした……? ………………っ!?」


冥王「ぐあぁぁぁああ! 顔がああぁぁぁあっ!」


勇者「……効いてる……? 効いてるぞ!」


戦士「今だぜ勇者! 俺の剣を使えッ!」ブンッ


勇者「あぁ借りるぞ! ――うおぉぉぁあああ!」


――ガキンッ


勇者「!?」


冥王「……負け、るなん……て、ありえない……!」


勇者「まだ受け止める力が残っていたのか……!」


勇者「(押されてきている、くそっ!)」


勇者「くそぉぉおお!」


ピイィィ――


勇者「!? これは……魔王からもらったアクセサリー!?」


勇者「力が……湧いてくる……。これなら!」


冥王「ぐ、く……ああああああああああ」


勇者「これで終わりだああっ!」




――




戦士「倒した……のか」


魔法使い「……みたいだな」


僧侶「は、はぁ……」ヘナヘナ


勇者「……終わった、な」


勇者「…………みんな、帰ろう」




――魔界


バシュッ!


一行「……ただいま」


側近「おかえりなさい!」



***



勇者「(それから先の出来事は忙し過ぎてよく覚えてはいない)」


勇者「(冥王を倒した後魔界に戻ったら緊張が解けたのか僧侶と側近は泣き出してしまった)」


勇者「(……ちなみに魔法使いと戦士は速攻で寝ていた)


勇者「(そのあとは魔王と話して、これから人間界と魔界がどう付き合っていくか色々話した)


勇者「(落ち着いたら王様にもこの事を報告しなければならない)」


勇者「(近々また魔界に行って、今度は正式に王様や側近なども交えて会議をやるそうだ)」


勇者「(もちろん俺達のパーティーも全員参加を命じられた)」


勇者「(……とまぁ、戦いはせっかく終わったのにやることは山積みなわけだ)」


勇者「(でもまぁ、平和なんだし明日からでも遅くないよな)」


勇者「……」


勇者「…………」


勇者「……家帰ってだらだらしようっと」




設定を思いついてそこからノリと勢いで書いたもの。


読んで下さりありがとうございます。お粗末さまでした

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