ねえ、もっともっと!
番外1の2。
何々あの生き物! すっごく面白い!!!
個にして全。
全にして個。
集合体であり個体である彼の意識は、己の内の一点を注視しはしゃいでいた。
彼の意識の中でも、此の思考は若々しく瑞々しく。
若木の意識か、若葉の意識か。
思考は伸び伸びと己の内を行き過ぎ吹き抜けて行く。
きょろきょろ動く! 面白い!
おどおどしてる! 面白い!
摘んだ!
食べた!
生きてる!
す・ご・い!!!
きゃあきゃあと声をあげて笑えば、其の音は小鳥の鳴き声として森に響き渡る。
嬉しそう! 可愛い!
己の声を聴いて嬉しそうに目を細める生き物の姿に、個であり全である意志は更に楽しげな声を上げた。
水の潺が欲しいの? あげたいわ。あげましょう!
後見として選んだ姫へ、己の意思を伝えるのは簡単な事。
何が欲しいの? あげたいわ。あげるわ!
目的へのそれとない誘導など、お手のモノ。
個であり全、全であり個。
彼の意識は殊の外、彼の生き物が気に入った。
もっともっと、繋がりが欲しい。
そう欲するのは自然な流れ。
もっともっと、此の生き物を囲いたい。
其れは純粋な欲。
己の内から出ようとしない生き物は他者との関わりも好まない。だから、より深い縁が結べない。
じりじりとしていた彼の意識に、ある日突然、朗報が舞い込む。
他の生き物が、此の生き物の名を呼んだのだ。
――――――森の竜女。
呼ばれ、生き物は応えを返した。
ざわり、ざわりと、彼の意識が蠢く。
歓喜に、身を震わせる。
森の!
森の!
森の! 竜女ですって!!!
嬉しげな叫びは風になり、身の内を吹き荒らした。
其の拍子に枝が落ちたり新しい道が出来たりしたが、其れは彼の意識にとってどうでも良い事。
呼び名であろうと其れが個の存在の名として身の内で紡がれ肯定された。此れこそが当に彼の意識の善き事だった。
名に、森と明確な場が刻まれている。
それこそが、大事。
其れは、彼の意識と此の生き物を強く強く結びつける縁を成すのだから。
繰り返し呼ばれ、繰り返し応える。其の度に其の度に、此の生き物と彼の意識の母体である広大であり強大である場との結びつきは深まっていく。
呼んで、呼ばれて、嬉しげに。
頷いて、受入れて、好意的に。
それこそが、深く強い縁。
きゃあきゃあと喜ぶ。
彼の意識が笑う。
「今日は随分、鳥が鳴くのね」
のんびりと森を散策する春香の声音に、小鳥の声は更に高らかに歌声を紡いだのだった。




