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料理は、魔法!?  作者: ひのあきら
番外1 森の思惑
8/19

第一印象

番外1の1。

 思えば。

 単体であり群体である彼の存在は、集合体であり個体である意識でつらつらと述懐する。

 思えば、彼の生き物はなんと稀有な事。

 彼の生き物。

 そう称された其れは、或る日突然、彼の存在の内に現れた。

 数多存在すると云う世界は存外綻び易く意外と近しいのだと、彼の存在は知っていたが故に現れた其の生き物を感慨無く見つめていた。

 違う世界からの迷い子。

 彼の存在にとって、其れは珍しいが大事では無い。

 でも。

 だがしかし。其の時、彼の存在はふと常にはない事に気が付いた。

 如何して此れは、変じないのか。

 彼の存在が厳然と君臨する此の世界は、隅々迄力に満ちている。其の強い力に負けず、己を確かに固める事が出来る存在と云うのは、存外多くはないのだ――――――此の世界で……此の、土地(くに)で、生を受けたものならばいざ知らず。

 彼の存在の注視に気が付きもしない様子で、変わらず雛の様にうろうろと歩く『彼の生き物』は、ふと木肌に、蔓草に、実に、目を遣った。棒立ちになって軽く悩み、思い切り良く一粒摘み取り、そして、動かずに立っている。

 ……何を、しやる。

 本当に不思議だった。

 もし、無遠慮にも其の実全て手に入れんとするならば、彼の存在は何時もの様に厳粛として罰を与えるつもりだが、此の奇妙な迷子(まよいご)は暫くそうして佇んだ後、徐に摘んだ一粒を口に放り込み、美味そうに頬を緩ませるのだ。

 ……何を、しやるか。

 個であり群である彼の存在は、思わず柔らかな笑みをこぼしてしまう。

 迷子(まよいご)は道々様々なモノを採取しては持っていた袋に入れていた。本来ならば、此れは許されない行為だ。彼の存在は寛大ではあるが寛容ではない。なのに、彼の存在の意識は、此の迷子(まよいご)の行動を些かも不快に思わなかった。

 何故だ。

 彼の存在は思う。此れ程に採取している存在を、何故己は排しようとしないかと。そして気づく。迷子(まよいご)の行動には、一切の欲が無いと。

 森で採取する事を生業としている一族は、森に敬意を表し服従を示す為に木々や草を模した装束を纏い、一切の飾りをつけない。そうして、己の行動は利己的な事では無いのだと主張し、許しを請う。……其処までやっても、やはり生き物と云うのは業が深く、其の行動に欲が臭うのだ。彼の存在は、其の臭いが殊の外嫌いだった。

 だが、しかし。

 此の迷子(まよいご)からは、其の臭いがしない。

 彼の存在は其れに気が付くと、何故か無暗矢鱈に此の弱く脆い存在を守ってやりたくなった。

 此の生き物は、弱い筈だ。

 だが、我が内に在って変じぬ剛の者でもある。

 此の存在の、心が確固として在るのだろう。

 此の存在の、意志は強固に根付いているのだろう。

 意志の強さと変節を好まぬ心。

 其れは、彼の存在の好む存在(もの)だった。

 個にして群の彼の存在は思う。

 丁度我が内に間借りしているあの姫に、此の迷子(まよいご)を預けようと。

 取り乱す気配は無いものの、精神的は疲弊は明らかだ。気丈に振る舞えて居る内に、確固として厳とした守り役をつけてやらねばと、彼の存在は考え行動する。

 そうっと誘導し、瑠璃の花園へと導けば、察した姫は自ら出向いてきた。

 最初は警戒していたようだが、やはり、頑是なく泣き出した迷子(まよいご)へ情を示した。

 今はまだ、解からぬだろう。

 彼の存在は思う。

 此の迷子(まよいご)の稀有なる性質に。だが、解かる頃には手放せなくなろう。

 姫に引き取られる姿を見届け、彼の存在はさわりざわりと笑い声をあげた。

 搾取を考えず、身の程を知り、与えられる事に当然の意を持たない彼の生き物は、とてもとても清浄なのだ。

 で、なければ。

 彼の存在は思う。

 彼の生き物が、最初に石の下で見つけた虫の事を。

 二本足の、虫――――――其れは、此の森に迷い込んできた異界の生き物が変じた姿だったのだから。

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