出会った相手に縋ろうとしたら
番外2の5。
彼女は、怯えた様子で怖々と森を歩いていた。
ハイヒール、スカート。……服は会社の制服だった。
彼女は、ちょっと飲み物を買いに出ただけだった。財布を持って、休憩所に在る自動販売機で飲み物を買おうと出ただけだった。
なのに。
彼女は涙目で周囲を見回し、声を上げる。
「だ、だれかあ……いませんかあ……!」
薄暗い森に、声は響かず吸い込まれていった。
うう、と彼女は己が身を抱きしめる様に体に腕をまわす。
突然、森の中に放り出されたのだ。不条理にも。
彼女は、恐る恐る……だが、しっかりと声を上げて呼んだ。
「だれかあ……だれかあ……」
あまりに大きな声を上げると、獣が来るかもしれない。
だが、一人で道を行くのはあまりにも恐ろしい。
彼女は決して都会の人間ではないが、森や山が身近にあるような環境に育ってもいない。……平たく云えば、町の人間、なのだ。根っからの。
よろよろと足を運び、彼女は恐怖を堪えながら森を行く。
どれ程歩いたのだろう。
彼女の前に、突然、少女が現れた。
瑠璃の服は平安時代の女童を思い起こさせる。昔読んだ、源氏物語が題材の漫画を思い浮かべ、思わず凝視した彼女の目の前で、瑠璃の女童はついと滑る様に近寄ってきた。
「あ……」
其処で。
其処で、彼女は漸く現状を把握する。
人だ。
人が、現れたのだ。
子供が一人でこんな処に居る筈が無い。
で、あるのならば。
傍に、大人達が居るに違いないのだ。
そう思い、彼女が喜色を目に浮かべた刹那。
「―――――不可」
女童は黒い瞳に何の感情も浮かべず、そう呟いた。
響きを理解するより早く、彼女の視界が横にずれる。
「え?」
呟いた時には、彼女の瞳に生気は無かった。
胴を裂かれ、彼女は二つになって地面に伏せる。
「専科」
呼びかけに、少女が振り向いた。
其処に立つのは、鏡像の如き一対。
「主様の命を受けました百科が様子を見に来ました。相応しい玩具ではなかったのですか」
地面に倒れ伏した残骸を見て問われ、瑠璃の片割れは是と頷いた。
「主様の御不興と主様の背の君様の御不興を買う」
「まあ」
片割れは其の言葉に驚いたような声を上げ……だが、全く変わらない表情の儘、感情の無い声音を紡ぐ。
「でしたら仕方がありません。主様を御不快にする存在は、抹消しなくてはなりませんから」
「是」
なんともあっさりと言葉を交わし、瑠璃の一対は其の場から姿を消した。
残るのは、残骸のみ。
だが、其の残骸も、何時の間にやら土に紛れ土に呑まれ、其の存在を消してしまうのだった。
結論
安易に人に頼ろうとすると、死を招きます。