ヒステリックだったら
番外2の1。
「此処どこよお!?」
半狂乱になって泣き叫ぶ。
仕方あるまい。彼女に非はない。
彼女はいつも通り出勤しようとしていただけだ。
いつもの様に道を曲がり、いつもの様に其の先のバス停に行こうとしていただけだ。
なのに。
眼前に広がったのは、森だった。
広大な森だ。
日が差すとは云え、奥に行く程薄暗い。
彼女は思考を閉ざし、悄然と歩みを始める。
通勤用とは云え、それなりの高さがあるヒールでは土の上を行くのは難儀だった。ああもうと苛立たしげに靴を脱ぎ、地面を蹴りつけ……其の拍子に、ヒールが折れた。
「なんなのよ!?」
怒号と一緒に靴を脱ぎ、苛立ちの儘に靴を近場に在った木へ投げつけた。
がっと乾いた音が響き――――――ざわり、と、木々が揺れた。
だが彼女は気づく様子もなく、あてもなく……だが出口を探し、森を木々の間をさ迷い歩く。
裸足になれば歩き易くはあったが、土の上、という現状がなんとも彼女にとっては不快だった。
忌々しげに時折毒を吐き、彼女はひたすらに歩き回る。
彼女が毒を吐く度に、木々がざわりと音をたてた。
「風?」
あまりに頻繁に木の葉が揺れる音が聞こえる為、彼女は立ち止まって辺りを見回した。
風は、吹いていない。
「もう……サイテー」
荒々しく呟き、彼女は再び一歩、踏み出した。
刹那。
頭上から降り注いだ粘性の高い流動体に、彼女の体は包まれ、溶けて消える。
一瞬の、出来事だった。
声も、上がらなかった。
そして、彼女は居なくなった。
何処にも。
――――――何処にも。
森は木漏れ日に満ち、静寂を取り戻す。
其の正常な光を受けて、古木に寄生する透明なウツボカズラがてらてらと輝いていた。
結論。
悪意は悪意を呼びます。害意は害意を招きます。そして、そう云う存在を好ましく見守る程、森は優しくありません。