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道具屋  作者: 黒燕
4/4

あなたたちにはこの幸せになる壺を買っていただきます

 高校の入学式を明日に控えた今日この頃。俺は、道具屋のカウンターの前でロープで縛られていた。

 隣ではちょうど、シルクさんが縛られているところだった。

 レオンは店のどこかに隠れたようだ。

 そもそも、何故このような状況になっているのか。

 ――――それは、十分ほど前の出来事だった。



 店を開けてからしばらく、カウンターのところでシルクさんやレオンと談笑していた。

「あ……、誰か入ってきますよ」

 シルクさんが呟いた。

 ドアにシルクさんの魔法がかかっているからなのか、誰かが入ってくるのが分かるそうだ。

「金をよこせ! こっちには銃がある!」

 そう言いながら、三人組の男が店に入ってきた。 それぞれ手にはライフルのような物を持っていた。

 俺はどうしていいか分からず、シルクさんの方を見た。

 そしてシルクさんは、

「抵抗してはいけませんよ」

 と、何故だか少し笑いながら言った。



 そして俺はロープで縛られ、レオンはどこかに隠れ、シルクさんは今まさに縛られているところだった。

「優しくしてくださいね」

 と、上目遣いに言っていたが、

「悪いがガキにゃ興味ねぇ」

 その言葉で、シルクさんは少しムッとしたようだった。

「そんなことよりも、さっさと金を出せ!」

 おそらくリーダーであろう男が、俺に銃を向けた。

 まあ、シルクさんより俺の方が年上に見えるだろうからな。

「いや…………しし、ししし、知らんっ」

 声が震えてしまった。だって仕方ないだろう。こんなこと初めてなんだ。

「私が店主です! その子には手を出さないでください!」

 シルクさんが助け船を出してくれたが、男たちはそれを信じなかった。

「がたがたうるせぇガキだ。おい、あのガキ黙らせろ」

 リーダーの男は、隣の男にそう指示した。

「へいへい了解。悪いねお嬢さん。ちょっと静かにしてもらうよ」

 指示された男が、シルクさんに近づく。

 その時、

「そこまでだ! その二人にはそれ以上手は出させないよ!」

 どこからか、レオンの声が聞こえた。

「だ、誰だ! まだ誰かいやがったのか!」

 リーダーの男は、俺たちの前に残り、他の二人がレオンを探しにいった。

 そしてすぐに、二人の悲鳴が聞こえた。

「何があった! どうしたんだお前ら!」

 男が声のした方に行くと、いつの間にか目の前にレオンがいて、

「シルク、そろそろ終わりにしてもいいんじゃない?」

「そうですね。もう終わりにしましょうか」

 二人はそんな言葉を交わした。

「では圭祐くん。少しじっとしていてくださいね」

「…………?」

 俺にそう言うと、シルクさんは呪文を唱えた。

『しゅるしゅる、ひゅーん、ぎゅっ』

 すると、俺たちを縛っていたロープが解けて、リーダーの男をぐるぐるに縛った。

「な、何だこれは!?離しやがれ!」

 男はじたばたと暴れていたが、ロープはきつく縛られたままだった。

 そしてレオンのところに行くと、残りの男たちもロープで縛られていた。



「くそっ、まさか魔法使いの店だったなんてよっ」

「やっぱり悪いことはできないもんだなぁ」

「……………………」

 捕まった男たちは、俺たちの前に座らされていた。

「どうやらあなたたちは素人だったようですが」

 シルクさんが、男たちから取り上げた銃のトリガーを引いた。

 ダダダダダダダダッ。

 銃口が光って、安っぽい音がした。見た目では分からなかったが、どうやらおもちゃだったようだ。

「一体なぜこんなことを?」

「金が必要なんだっ!」

 リーダーの男が床に拳を叩きつけた。

「落ち着けって兄貴。……そいつは俺が話そう」

 別の男がそう言った。

「そうですか、では」

『しゅるしゅる』

 シルクさんがそう呟くと、男たちを縛っていたロープが解けた。

「……? 見逃してくれるのか?」

「いえ、そのままでは話しづらいでしょう。話は向こうで聞きます。」



 彼らの話をまとめるとこうだった。

 彼らは四人兄妹で、ここにはいないが妹が一人いるという。

 そして、その妹が先日病気で倒れてしまったらしい。

 彼らは早くに両親を亡くしているが、今は上の兄二人が働いているので、そこまで貧しいわけではない。

 だが、妹を診た医者が言うには、その病気を治すには手術が必要で、その費用はかなり高額だった。さらには、できるだけ早くした方がいいという。

 その金額は、彼らがすぐに用意できるような額ではなかった。

 気が動転した彼らは、強盗をするという結論に至り、町から離れているこの店に来たそうだ。

「話はだいたい分かりました。では、ローンでやってくれそうな医者を紹介しましょう」

「…………俺たちを警察に突き出さないのか?」

 彼らの一人がもっともなことを訊いた。だが、

「確かに、あなたたちがしたことはれっきとした犯罪です。ですが、今あなたたちが捕まったら、妹さんがどうなるか分かりません。まあ、店に被害はありませんし、あんな話を聞いたら、とてもじゃありませんがあなたたちを警察に突き出す気にはなりませんよ」

 と、シルクさんは笑顔でそう答えた。そして、

「では、ちょっと待っていてくださいね」

 そう言って、シルクさんは店の方に行ってしまった。

そしてすぐに戻ってきた。

「話は通しておきましたので、ここに連絡してみてください。

 と、紙を手渡した。

「本当に、ありがとう。そして強盗なんかしてすまなかった」

「いえいえ、お気になさらず。ですがこのままで帰すわけにはいきません」

 そして、店から壺を持ってくると、

「なので、あなたたちにはこの幸せになる壺を買っていただきます」

 と、これまた笑顔で言うのだった。



 三人の男たちは、口々に礼を言いながら、そしてローンで買った壺を持って、帰っていった。

「シルクさん、あの壺って本物なんですか?」

 幸せになる壺という、なんとも怪しげな商品は本物なのか、かなり気になるところだった。

「もちろん本物ですよ。まさか偽物を売りつけるわけにはいきません」

「じゃあ、シルクさんに幸せなことは起きましたか?」

「レオンと再会できましたし、それに何より、あなたと出会うことができました」

 ちょっぴり照れながら、そんなことを言われた。

 かなり嬉しい反面、なんだかはぐらかされたような気がした。

「でも、強盗が来ることもあるんですね」

「はい。だからあなたに『竜の守り』を身につけてもらっているんですよ」

 そういえばそんな感じだったな。ほとんど覚えてなかった。

「せっかくですから、試してみましょう」

 そう言って、なぜかシルクさんは後ろから抱きついてきた。

「レオン! とりあえず攻撃してみてください!」

 そして、俺から離れていた所にいたレオンにそう叫んだ。

「やれやれ……。じゃあ、覚悟はいいかい?」

「え? ちょ、ちょっと!」

 逃げようとしたが、シルクさんは思ったよりかなり力があるようで、その場から動けなかった。

『ファイアボール』

 そして、火の玉が飛んできた。

 腕は動かせたので、ガードしようとしたが、それより前に火の玉はバリアのようなものではじき返された。

 今度はレオンめがけて火の玉が飛んで行ったが、

『キャンセル』

 という呪文によって消えてしまった。

「これで、『竜の守り』の効果がよく分かったでしょう?」

「いや、分かりましたけど…………ねぇ」

 こんなにも身の危険を感じたのは、生まれて初めてだった。



「それにしても、シルクさんってほんと優しいですね。まあ壺買わせてましたが」

 昼食を食べながら、さっきの出来事の感想を言った。

「いえそんな。ただ、持っている力をこういうことに使いたいというだけです」

 そう言って、シルクさんは表情を少し曇らせたが、すぐにいつも通りになった。

「そういえば、明日は高校の入学式ですよね? なら、今日はもう帰っていいですよ。色々と準備があるでしょうし」

「あ、じゃあそうさせてもらいます」

「圭祐は、部活に入るのかい?」

「たぶん帰宅部だな」

 レオンも加わって、しばらく高校について話した。



「じゃあ、今日はこれで帰ります」

「はい、お疲れ様でした」

「入学式に遅れちゃだめだよ」

 入口の所で挨拶をして、俺は店を出た。

 明日からついに高校生になるわけだが、あまり今までと違いはないだろう。地元の高校なので、知り合いも多いだろうし。

 だが、この店でのバイトはまだ始まったばかり。これから何が起きるのか、そっちの方が楽しみなのであった。


前回の投稿から半年以上経ってしまいました。

また書く気が起りましたので、頑張りたいと思います。

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