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道具屋  作者: 黒燕
3/4

昔の……友人です

 春休み終了二日前、その日は朝から雨だった。

 傘があっても服がぬれてしまった。

「シャワー浴びてきますか?」

 結果濡れてしまった俺は、シルクさんにこの言葉で出迎えられた。



 脱いだ服は、言われたとおりに洗濯かごに入れておいた。乾かしておいてくれるらしい。

 バスルームに入って周りを見てみたが、おそらく最新式のやつだ。テレビで見たことがある。けっこう金持ちだったりするのかも。

 とりあえずシャワーで体をさっと流し、さっさと出た。



 バスルームから出たが、まだ服は乾いていないようだ。まあ、魔法でも使わない限りそんなに早くはできないだろう。シルクさんはあまり魔法を使わないようだし。

 そしてそれを示すかのように、乾燥機が絶賛稼働中だった。

 とりあえず、バスタオルで体を拭いたが着るものがない。

 と、シルクさんが何か白いものを持ってやってきた。

「とりあえず、服が乾くまでこれを着ていてください」」

 バスローブだった。初めて見た。

 服が乾くまでは、バスローブ姿でリビングでくつろぐことになった。

「けっこう似合いますね」

「……そうですか?」

 この恰好をほめられてもあまりうれしくない気がした。

 リビングを見まわすと、ふと一枚の写真が目に入った。

 写っているのは、シルクさんと、隣に男が写っていた。そして、なんだか俺に似ている。目が黄色い以外は。

 俺は一人っ子だが、もし兄がいたらこんな感じかもしれない。

 あまりにも気になったので、シルクさんに聞いてみた。

「あの写真に写ってる人って誰なんですか?」

「えっと……昔の……友人です」

 シルクさんが、顔を赤くしながら答えた。

 もしかしたら、というかたぶん。恋人なのかな。

 だとすると、俺をバイトにしたのは……昔の恋人に似てたから? 何とも複雑な気分だ。

「すみません、確かに最初はそれもありました……。でも、あなたを雇ったのはそれだけが理由じゃありませんよ」

 俺の雰囲気を察したのか、シルクさんが謝ってきた。

「いや、俺も気にしてないんで。でも、ほんとに似てますね」

「私もびっくりしましたよ」

 まあ、世界には三人自分とそっくりな人がいるって言うしな。

 そしてそのあたりで服も乾いたので、準備をして仕事が始まった。



「相変わらずお客さん来ませんね」

「そうですねー」

 シルクさんとそんな会話をしていると、ドアがスッと開いた。

 ドアは開いたが、そこに誰もいなかった。

「圭祐くん。下ですよ」

 下を見てみると黒猫がいた。

「ニャー」

 黒猫は俺を見上げて鳴いた。

「シルクさん、どうしますか?」

「そうですね……どうしましょうか」

 シルクさんがそう呟きながらこっちに来た。

 すると、

「久しぶりだね、シルク」

 黒猫がしゃべった。

「その声……まさか……!」



「あの話は本当だったんですね。その姿を見る限りでは」

 店は休みになり、俺とシルクさん、そして黒猫はリビングにいた。

「実験中の事故で猫になってしまうなんて……。あなたらしくないじゃないですか」

「でも、完全に猫になったわけじゃないよ。こうやって話すこともできているし、魔法だって使える」

「まあ、こうして会うことができただけでもよしとしましょうか。とにかく、久しぶりですね」

「本当にね。また会えてよかったよ」

 シルクさんと黒猫が話している横で、俺は特に何をすることもなく座っていた。

「それで、さっきから気になってたんだけど、その子は?」

 黒猫が俺の方を見ながら訊ねる。

「えっと、バイトくんです」

「なるほど。よろしく、バイト君」

 どうやら黒猫は俺の名前をバイトだと思っているらしい。イントネーションが違った。

「そんなにふてくされないでください。ちゃんと紹介しますから」

 見かねたシルクさんに気遣われた。

「この黒猫はレオンといって、私の友人です。……あの写真の人物です。そして、こちらは水野圭祐くん。アルバイトとして働いてくれています」

 今度はしっかり紹介してくれたシルクさんだったが、少し顔が赤くなっていた。

「よろしく。昔の僕にかなりそっくりな圭祐君」

 この一言でさらに赤くなった。

「よろしくお願いします。レオンさん」

「レオンでいいよ。猫相手に敬語はなんだか変だろう?」

「たしかに。じゃ、改めてよろしくな。レオン」

 レオンが器用に差し出したしっぽをつかんで握手した。いや、握手じゃないか。

「ところであの写真だけど、なんで切っちゃったんだい? まあだいたい予想はつくけれど」

 そういえば、写真の形がおかしかったな。ほとんど正方形だったな。

「だって、なんだか私が子供みたいに見えるじゃないですかぁ」

「やれやれ、そっちの方がよっぽど子供みたいだよ……。切った方はまだあるよね? まさか捨ててないよね?」

「す、捨てるわけないじゃないですか! 今持ってきます」

 シルクさんはそう言うと、たんすの方にドタドタと走って行った。

「シルクさんには悪いけど、あれでも親子みたいに見える」

 レオンに小声で話しかけたが、

「聞こえてますよ! バイト代減らしちゃいますよー!」

 どうやら聞こえていたらしいシルクさんに、そんな恐ろしげなことを言われた。

「それにしても、大人びた人だと思っていたけど、案外子供なんだな」

「まあ、あの口調も大人っぽく見せようとしてるわけだからね。まるで子供みたいだよ」

「もう二人とも! おやつ抜きですよー!」



 その後、けっこうふてくされていたシルクさんだったが、俺が大福を買ってきたことで機嫌を直した。やっぱり子供みたいだ。

 そして、俺とシルクさんの前のテーブルにはお茶と大福が用意され、レオンの前にはさらに入った牛乳と大福が用意された。床の上に。

「そうだよね。僕はもう猫なんだよね……」

 レオンが少し落ち込んでいた。まあ仕方がない。猫なんだし。

「さて、とりあえずはこれをどうにかしないと」

 気を取り直したレオンは、空いているいすに飛び乗ると前足をテーブルに乗せて立った。

 今、俺たちの視線の先には一枚の写真の切れ端がある。

 そこに写っているのは、活発そうな女性だった。こっちもシルクさんとは物の意味で子供っぽかった。

「それで、この人も友達なんですよね?」

「もちろん、そうですよ。ガーネットといいます」

「今頃どうしてるんだろうね」

 シルクさんもレオンも懐かしそうな顔をしている。

「さて、じゃあ修復するとしようか。ちょっと失礼」

 レオンはテーブルに飛び乗ると、写真と切れた法の写真にしっぽを向けた。

『リペア』

 レオンがそうつぶやくと、写真が光りだしてぴたりとくっついた。そして写真は見事に修復されていた。

「おお……すごい」

 思わず感嘆の声が漏れた。

「まあ、このくらいなら大したことないよ。腕をくっつけたりするわけじゃないからね」

 腕? また恐ろしいことを言うな……。

 しかし、今のは呪文なのだろうか。シルクさんのは聞き取れなかったけど、今のははっきりと聞き取ることができた。

「なあレオン。今のって呪文なのか?」

 とりあえず聞いてみた。

「たしかに呪文だけど……。君は魔法を見るのは初めてかい?」

「いや、一回シルクさんに見せてもらったけど」

 俺がそう言うと、レオンの視線はシルクさんの方に向いた。

「シルク……君って人は……。一体どんな魔法を使ったんだい?」

「え、えっと…………物体移動を少々……」

 レオンはため息をつくと、今度は俺の方を向いた。

「せっかくだから、少し魔法について教えておくよ」

 レオンはそう言うと、床へと飛び降りた。

「さて、まずは呪文のことから話そう。まず、魔法を使うにはイメージが大切なんだ。そして、そのイメージを強くするために大体の魔法使いは呪文を使う。それで、呪文には特に決まりはない。本人がイメージを強くできれば何でもいいんだ。だから、僕の使う呪文はシルクの使うものとは違う」

 なるほど、なかなか分かりやすい。

「あと、魔法を使うには魔力が必要なんだけど、大体の魔法使いは体内にため込んだ魔力を使う。それで、シルクのことなんだけど、彼女は今あんまり魔力がないんだ。この店の照明とか、入口のドアにいつも魔力を使っているからね。だから、あんまり魔法は使わせないようにしてあげてね」

「じゃあ、そろそろ魔力を回復させてくださいね」 シルクさんがそう言うと、レオンは少し渋ったが話をやめた。

 どうやら食べ物を食べると魔力が回復するようだ。



 おやつの時間も終わり、仕事を再開することになった。

「じゃあレオン。またいつでも遊びに来てくださいね」

 入口の所で少し寂しそうにレオンを見送るシルクさん。でもレオンは動かなかった。

「あー……そのことなんだけど。僕をここに置いてくれないかな? ペットでいいから」

 レオンの衝撃発言に、俺もシルクさんもしばらく固まってしまった。

 そして、

「そ……そんなのいいに決まってるじゃないですか! 今日はもう店じまいにしてパーティーをしましょう!」

 シルクさんはそう言うと、レオンを抱き上げた。



 その後は、俺が買い物に行き、パーティーをやって、とても楽しい時間を過ごした。

 しかし、レオンがいるとなると俺のいる意味がなくならないだろうか。

 俺……ピンチだったりする?

なんだかずいぶんとペースがおそくなってます。

これからも気が向いたときに書くと思うのでよろしくおねがいします。

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