絶対強者
「きょ、きょうへーーーーーーい!!!!」
遠くで倒れている仲間の姿を見て、月夜は叫んだ。恭兵は動かなかった。気を失っているのかどうかは分からないが、ピクリとも動かなかった。
「……何言ってるんスか?仲間が倒されただけじゃないッスか。恭兵くんが痛みを受けてもツッキーは痛くないじゃないッスよね?」
榎本は月夜を見て笑った。
「それに貴女は俺っちの能力がわからないじゃないッスかぁ。後は諦めて、降参するのが天才的考えッスよぉ」
――降参……?
月夜の心に響いたその単語は、一度使えば楽になる単語だった。だが、月夜に心には裏切れないという気持ちが強かった。
「……貴方の能力は全て分かりました。風の能力と最初に嘘をついたのは自分の能力に一番近かったから。そして―」
月夜は一気に話を続けた。その間、榎本は月夜の言葉をただ聞いているだけだった。絶対的自信が満ち溢れている勝者の余裕だった。
「特殊で支配できるのは1種類のみ。その時点で空気という疑念は消えました。こえは私の推測ですが……。貴方の能力は『自分』を支配する能力じゃないですか?自分を支配すれば体を透明化させて一気に移動することも可能です。どうですか?」
月夜の推理は半分本気半分かま掛けだった。これだけの情報量で相手の能力を割り出すのは難しい。月夜自身、本当は違っていると思っている。
「ザッツ ライト!その通りだよ♪おおっと、これは嘘じゃないから安心してね。俺っちの能力は自分を支配する能力ッス。でも、」
―ザンッ!―
「それが分かっても、勝てませんッスよっ!!」
「大丈夫です。だって、居るもん、絶対強者がコッチには2人」
――ついに狂ったスか……。1人は戦闘不能。もう1人は玄くんと戦闘中ッスしね。
榎本の心境はまだ余裕を持っていた。次の瞬間までは――。一瞬で月夜の側に辿り着いた榎本は不思議な感覚を持っていた。
「えっ……?」
体が重い。まるで重力が何倍にもなったかのように。
「『言葉の深さ』を舐めるなよ……。ひれ伏せ!」
―バシッ―月夜の一歩手前で倒れた榎本の体で唯一動くことを許されたのは顔のみだった。何とか後ろを見ると、そこにはさっき動けないほどまでに傷つけた『それ』が平然と立っていて、傷は無くなっていた。
「なんで……?アンタは何種類支配できるんスか……?」
その榎本の率直な疑問に、丁寧に恭平は答えた。
「俺は1種類しか支配できない。たが、支配系の術では一番使い勝手がいい。言葉を支配できる。それも、言葉の命令には絶対に逆らえない。これが俺の絶対強者能力だ」
「ははっ。もぉ、笑うしかないッスね。……俺っちは天才的ですから、降参するッス♪」
「天才的は天才ではない……」
「それもそーッスかね」
―榎本聯。降参―
2人目を倒した恭兵は、その場に座った。
「今日は力を使いすぎたな。……まぁ、月夜はそれほどでもなさそうだけどな」
「そうでもないわよ。台風の都だって本当はAなんだからさっ」
「だったらもう少し良い術を覚えろよ」
「うるさいわねぇ」
恭平と月夜は降参をして目を瞑っている榎本を挟んで笑った。
「アッチは、どーなってるかな?」
「知らない。でも、今日はアイツも絶対強者能力を使うしかないんじゃないか」
絶対強者能力。それは自分の能力を一番引き出す術(すべ)を知っているものが使う能力のことをいう。恭兵の場合は人間を支配する術だ。
「ちっ。聯の野郎ぉも負けたか……。まぁ、お前を倒せば一件落着だろ。お前は3人の中で一番強ぇんだろ。能力を使ってないけどよぉ!」
「ハァ、ハァ……。1つ言うぜ、お前の話し方、ウザい」
「黙れ!」
一旦止まっていた鬼ごっこは再スタートした。この戦いが始まってからこの動作しかしていないことに、武藤は限界を超えていた。
「さっさと墜ちろやぁ!つーか」
「もっと近づけよぉぉ!」
武藤がそう言うのも無理はない。鬼ごっこが始まって以来、龍馬は2メートル以内に武藤を入れていない。その疑問に武藤はイラついていた。
「ん~……別にいいけどさ。気を付けろよ?」
「何言ってやがっ―」
―キィ― ―ブォン!―龍馬が止まり、1メートル30センチメートルに武藤が入った瞬間、武藤の強化した右腕が燃えた。
「……何、しやがった?」
「だから言ったじゃん。俺の薄い炎には気を付けろってさ」
「いや、言ってねぇじゃん?」
「あっそう?」
龍馬はそこでニヤリと笑った。