『絶対戦場』
龍馬はジッと榎本と武藤を見つめた。勝つ自信はある。だが、勝つ確信がない。そんな疑念が、龍馬の圧倒的力を動かさなかった。
「おいおいおい!どうしたぁ!?来いよ!」
武藤の挑発に、龍馬の我慢は限界に達していた。元々直感で動く性格の龍馬。さらに『勝てる力』を手にしているのだから行動に移したいに決まっている。
「……龍馬、挑発に乗っちゃだめよ。あのナルシスト男は土。眼鏡を掛けたチャラ男は多分風よ。まだ能力を使ってないから本当かどうかわからない」
「なぁ、富貴さん。いきなり性格変えちゃだめだよ♪そーゆー裏表あると……嫌われちゃうよ?俺っちとかにさっ」
榎本は月夜の言葉に反応した。
「聯、俺はメンドーな事ぁ嫌いだからよぉ。我慢なんて!ウザってぇだけだぁ!」
武藤はそう叫ぶと龍馬に向って跳んだ。
「月夜、恭ちゃん!横に逃げろ」
「う、うん……!」
「分かってるわよ」
龍馬は直線的に来た武藤の能力を観察した。武藤は先ほどと同じ術で龍馬に向ってきている。
「単細胞って、お前のこと言ってるだろ」
龍馬は武藤を挑発する言葉を発した。だが、龍馬を射ることしか考えていない武藤にその言葉は届いていなかった。
――俺の『火炎』は防御力は少ない。かといって、6属性の中で一番『重い』土をそのまま受けるほど馬鹿じゃねーしな。
龍馬は武藤の攻撃を避けきっていた。直線的な攻撃のため、逃げることはたやすい。
「……んじゃまっ。コッチでもさっさと片付けますかぁ♪」
武藤と龍馬が戦闘をしている横で、榎本は準備運動をやり始めた。
「私達がアッチに増援すると思わないの?」
「思うわけないじゃん♪だって、玄くんとの戦いは援護に行っても無駄になる。直線的な攻撃は避けやすいけど……横に逃げるから多数でかかるのは望ましくないしね」
――この人、チャラけてはいるけど、冷静に判断を出してる。
月夜は榎本のことを観察していた。その間も、体内に力を溜め込んでいる。武藤の攻撃は防げなくとも、榎本が風の属性を持っているとするならば攻撃力はそこまで高くないと 推定 される。月夜には罠にかかったおかげで断言できなかった。
「……御託はいいから、さっさと戦うぞ」
準備が終わったことを示すかのように、恭兵の口調が変わった。
「ふ~ん。そーゆータイプの特殊術、ね」
特殊術は見せたことのない相手でも、何らかの変化によって特殊とバレる可能性が高い。その代償も特殊術にはあった。
「てっめ!逃げてばっかじゃねーか!ホントはビビリなんじゃねーのかよ」
「さっきは人の話聞かなかったくせによ!随分と余裕じゃねーの!?」
武藤の攻撃は何ら変わらずに直線的攻撃を続けていた。
――そろそろ片つけねぇとな……。
そんな気持ちとは裏腹に、龍馬の行動は単調だった。焦りもなく続けるその攻撃に、龍馬はある異変を感じる。
――さっきから動きが、同じだ。右に曲がって……。何を考えている?
不意に、龍馬の目線が下に下がった。足にも土を凝縮させている。
「そろそろ、鬼ごっこも飽きたんじゃねーのか?」
「だったらてめぇが諦めろ!もちろん……諦めるしかしょうがねぇどなぁ」
その言葉に、龍馬の異変は確信に代わった。
「ちっ!」
「今ごろ気づいたって、遅せぇよ!」
―ザッ―武藤は足の動きを止め、右足を今まで動いた跡が残っている線上にたたきつけた。そうすると、今まで動いていた四角形の形に地形が変化していた。
「この足の土はこの戦場を中心にして外側にめり込んでいた。この四角形に取り残されたお前と俺様サマは、1対1の真剣勝負をするしかねぇ……。四角形の戦場の周りには3メートルの溝がある。……さらに!」
―パンッ!―武藤は手を叩くと地面に両手を置いた。すると、溝に周囲の土が液状化したものが入ってきた。
「ここに落ちればこの土に埋まり、固まる。これが俺様サマの『絶対戦場』(フィールド オブ バトル)だっ!」
武藤は天に向って吠えた。