表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/112

第九十一話「近づく第一期末テスト⑫」


10分。その短くも永い深淵を経て、春馬はゆっくりと立ち上がった。

膝はまだ少し震え、指先は冷たい。だが、その瞳は真っ直ぐに、隣で待っていた少女を射抜いていた。


「……若宮。……俺に、勉強を教えてくれ。今の俺の知識量では、この期末テストという不条理なシステムを……生存し抜くことは不可能だ」

絞り出した声。それは、彼が「独力での完結」というプライドを捨て、最も恐れていた「他者への依存」を選択した、歴史的な敗北宣言であり、勝利の産声だった。


「……うん! もちろん。喜んで!」

蒼奈は、まるで春馬が「全教科満点」を取ったかのように、今日一番の輝く笑顔で承諾した。


蒼奈は教科書を閉じると、少しだけ春馬の方へ椅子を寄せた。


「ねえ春馬くん。私、ちょっと感動しちゃったから、今だけ私の話を聞いてくれるかな?」


「……聞こう。……余談としては、時間が許す限りだ」


「ふふっ。……あのね、私には春馬くんのことは分からないよ。春馬くんが裏切りに強いトラウマを持っていて、それが原因で人を遠ざけてるってことは知ってる。でも、具体的に何があったのか、どれだけ痛かったのか、私は春馬くんじゃないから、本当の意味で理解することはできない」

春馬は沈黙した。安易に「分かるよ」と言わない彼女の言葉は、冷たいようでいて、何よりも春馬の痛みを尊重していた。


「でもね、春馬くんは変わったよ! ……あ、勘違いしないでね? 今、この瞬間に魔法みたいに変わったって言ってるんじゃないよ」


「……どういうことだ。俺は今も、不信感に苛まれている。マイナスのままだ」


「ううん、違うよ。今まで私が話しかけたり、無茶な誘いをしたり、映画に行ったり、共同研究しよう!って言ったり……春馬くんは文句を言いながらも、結局は受け入れてきてくれたよね。その時点で、少しずつ、少しずつ変わってきてたんだよ。

世の中の人は、大きな決断をしたり、失敗を恐れずに前に進んだ時だけを『勇気がある』とか『変われた』って言うけど……私はそうは思わない」

蒼奈は真っ直ぐに、春馬の瞳の奥を見つめる。


「向き合ったり、悩んだりしている……その時点で、もう変わってるんだよ。変化は、勇気を出した結果ゴールにあるんじゃなくて、葛藤している最中にこそ起きているの。……だから、自分が『勇気を持って行動した結果』だけが変化じゃないんだよ、春馬くん」


春馬は、自分の内側で「マイナス」だと思っていた葛藤そのものが、肯定されている事実に衝撃を受けていた。


「……なぜ、そう言い切れる。君は俺ではないと言ったはずだよな。」


「ふふっ。春馬くんのことは分からないって言ったけど、どうして言い切れるのかって思ったでしょ?」

蒼奈は悪戯っぽく、でもどこか誇らしげに胸を張った。



「それはね――私がこの学園の中で、一番近くで、一番長く、春馬くんのことを見てるからだよ!」


春馬の言葉が、詰まった。



全教科100点の知性。学園のマドンナとしての観察眼。その全てが、今、自分という一人の歪んだ少年を「肯定」するために注がれている。

「見てくれている」という事実が、どんな論理よりも強く、春馬の閉ざした心の鍵を溶かしていく。


「(……完敗だ。俺は、自分自身の変化にすら気づけなかったというのに……。……若宮蒼奈。お前という観測者がいる限り、俺は俺という絶望の中に、留まり続けることすら許されないらしい……)」

春馬は、少しだけ照れ隠しにを下を向いた。

「変化」は、既に始まっていた。

夕暮れの教室で、二人の「共同研究」は、かつてないほど確かな絆を伴って、真の幕を開けたのだ。

新連載!「おい!転生したらカメレオンなんですけど?」第1話公開しました!内容は異世界転生です!「転スラに」憧れすぎて始まりました!

ぜひ読んでください!

第1話は10000字の超大作です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ