表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/84

第六十七話「緊急共同研究④」


セレクトショップの中を三周し、春馬の脳内メモリは限界に達していた。麗華に指摘された「自分がどう思われるかのリスク計算」を排除し、「蒼奈の日常」をシミュレートする。その作業は、春馬にとって未知の演算領域だった。


「(再演算:若宮の日常……。彼女は常に周囲を観測し、笑顔を振りまき、エネルギーを消費している。……彼女の日常において、『最も頻繁に発生し、かつ彼女の論理を助けるノイズ』は何だ?)」

彼は棚の片隅、華やかな装飾品に隠れるように置かれた、ある実用的なコーナーで足を止めた。


春馬が手に取ったのは、手のひらに収まるサイズの、「高品質な革製のメモカバー」と、それに収まる「厚手の小さなノート」だった。


「お、ノート? 意外と普通……いや、春馬くんらしいね」


「……いや、ただのノートではありません。若宮さんは気づいていないかもしれませんが、若宮(蒼奈)は常に何かをメモしています。俺との会話で得たデータ、日常の些細な気づき。……しかし、彼女はいつもその辺にあるルーズリーフやレシートの裏を使っている。それは情報の保存性において著しく非効率です」

春馬は熱を帯びた手つきで、その質感を確かめる。


「この革カバーは、使い込むほどに馴染むが、決して主張しすぎない。そして中のノートは『交換可能(リフィル式)』です。……つまり、中身は『消えもの(消耗品)』でありながら、外側は『継続的な思考の器』として機能する」


若宮 麗華は、春馬が選んだその品をじっと見つめ、口角を上げた。


「……それ、完璧じゃない。蒼奈が『研究ノート』を書くための道具。しかも、君が贈ったものに彼女が新しいページを書き加えていく。……春馬くん、これを選ぶのにどれだけの葛藤があった?」


「……多大なるコストを支払いました。これが『重すぎる』というリスクは否定できない。しかし、彼女の『予測不能な楽しさを記録する』という行為を支援することは、俺たちの関係性)において、最も論理的な整合性が取れると判断しました」

彼は、自分自身の「消えもの理論」を一部修正した。


(修正後の論理: 「相手の本質的な活動を支援する道具であれば、それは『重荷』ではなく、『拡張機能プラグイン』として定義できる」)


「合格! 蒼奈、これをもらったら絶対に『春馬くん、私のこと見ててくれたんだ!』って大喜びするよ。……良かったね、春馬くん。自分の殻から一歩、踏み出せたじゃん」


「……踏み出したわけではありません。ただ、最適なリソース配分を導き出しただけです。……会計を済ませてきます」


春馬は足早にレジへ向かったが、その背中は一時間前よりもどこか軽やかだった。麗華は、彼が選んだ「ノート」が、蒼奈にとってどれほど大きな意味を持つか、そして春馬自身がそれに気づいていないことを、温かい眼差しで観測していた。


「(最終ログ:プレゼント選定、完了。……6月8日。この物理的な記録媒体に、彼女が最初に何を書き込むのか。……それは、俺の論理ではまだ、予測できない)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ