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第六十四話「緊急共同研究①」


土曜日、午前9時55分。駅前の時計台。春馬は、普段の「自宅学習ルーチン」を破壊されたことへの不満を論理的に整理しようとしていたが、それ以上に、一つの「深刻な課題」に直面していた。


「(演算開始:対・若宮麗華。彼女は蒼奈の姉であり、同様の遺伝子と環境を共有している。これまで俺が蒼奈に対して使用してきた『新鮮』という感想を流用すれば、即座に『手抜き』または『妹と同じ扱い』として、高度なからかいの材料にされるリスクが極めて高い)」


春馬にとって、女性の服装に対する評価は「未知の言語」に近い。彼は、最も安全かつ、麗華の立場を否定しない「中立的な定義」を必死に模索していた。



「お待たせ、春馬くん。早いね」

聞き慣れた、しかし少し弾むような声。顔を上げると、そこにはいつもの文房具店のエプロン姿ではない、「私服」の若宮 麗華が立っていた。


薄手のネイビーのサマーニットに、センタープレスの入った白いテーパードパンツ。手首には細身の革ベルトの時計。蒼奈の天真爛漫な可愛さとは対照的な、都会的で洗練された、まさに「完成された知的な女性」という装いだった。


「どうかな? せっかくの休日だし、ちょっとは気合入れてみたんだけど。……感想、聞かせてもらおうかな?」

麗華は悪戯っぽく微笑み、モデルのようにくるりと回ってみせた。


春馬は、喉まで出かかった「新鮮」という言葉を強引に飲み込み、脳内の辞書から最も無難と思われる言葉を、慎重に出力した。

「……非常に、『大学生らしい』ですね。」


「…………え、それだけ?」


麗華は一瞬拍子抜けしたように目を丸くし、それから耐えきれないといった風に噴き出した。


「あははは! 『大学生らしい』って、何それ! 春馬くん、それ感想として曖昧すぎじゃない? 普段あんなに定義に厳しいのに!」


「……曖昧ではありません。『大学生』という社会的ステータスに期待される『適度な大人びた洗練』と『活動的な機能性』の両立を、その服装は体現している。これは客観的な事実に基づいた、極めて精緻な分類です」


麗華は笑いを収め、少しだけ距離を詰めて春馬の顔を覗き込んだ。その瞳には、蒼奈と同様の、しかしより深い洞察力が宿っている。


「……ねえ。今の感想、『新鮮』って言うのを我慢して、わざと外したでしょ?」


「(警告:即座の看破! 内部演算の痕跡を隠しきれていない……!)」

「予想だけど、蒼奈にはいつも『新鮮』って言ってるから、私にも同じこと言うのはプライドが許さなかったのかな? それとも、私にからかわれるのを警戒して、あえて定義不能な『大学生らしさ』っていう言葉に逃げた? ……どっちにしても、今の春馬くん、すごく必死で可愛いよ」


「……『可愛い』は不要な評価です。俺はただ、効率的なコミュニケーション・トピックを選択したに過ぎない……!」


「ふふ、いいよ。その『必死な逃げの論理』、今日の買い物中ずっと観察させてもらうね。さあ、行こうか。蒼奈を『最高に効率的に』喜ばせるための、プレゼント選びの始まりだよ!」


麗華の軽やかな足取りの後ろを、春馬は「自分の論理が筒抜けであること」への深い敗北感を感じながら、しかしなぜか悪くない足取りで追っていくのだった。

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