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第五十ニ話「体育会⑧」

第五十二話公開中!


前日の大縄跳び練習で、「非論理的な優しさ(士気)」が「論理的な効率」を2倍に高めるという決定的なデータを観測した春馬は、それを無視できなかった。彼の新しい論理(幸福度の最大化)に従うならば、優しさの投入は義務である。


「(最優先事項:優しさという非論理的な変数を、論理的な効率を維持するための恒久的なシステムに組み込む。優しさの出力は、自己の感情とは切り離し、集団のパフォーマンスを最適化するための外部制御コマンドとして実行する)」


しかし、「頑張れ」という言葉を発することは、春馬のトラウマに直結する。それは、他者に感情を投資し、期待し、裏切りのリスクを背負う行為だからだ。

春馬は練習中、完璧な回転リズムを刻みながら、論理的な義務に従って「頑張れ」と口にした。その声は、摩擦係数ゼロの、感情のない、機械的な発音だった。


「……ガ、ンバレ(音声周波数:一定。感情的な波長:ゼロ。意図:集団パフォーマンスの最適化)」


彼が頑張れと言うたびに、彼の心臓は「警告:リスク行動」のサインを出したが、彼はそれを「義務の遂行による負荷」と強引に処理し続けた。


春馬の冷徹で正確な回転と、それに合わせて発される無機質な「頑張れ」を横で聞いていた蒼奈は、すぐにその論理的な限界を見抜いた。


「春馬くん、ストップ!」

春馬は、回転のリズムを一切乱さずに縄を止めた。

「何だ、若宮。俺は論理的な義務に従い、士気増大コマンドを実行している。何かエラーが発生したか?」


「エラーじゃないけど、効率が悪いよ。春馬くんの『頑張れ』は、データとしては正確だけど、エネルギーが足りない。それは、論理で優しさを出力しようとしているからだよ」


「優しさは、周波数じゃなくて心臓の熱で伝わるんだ。君の『頑張れ』は、ただの音声信号だよ。集団の心に届いてない。これじゃ、感情的な変数は最大値にならない」


蒼奈は、春馬の「論理的な優しさ」が、本物の優しさには遠く及ばないことを指摘し、「もっと感情を込めろ」という、最も非論理的で難しい指令を春馬に与えた。


「(最大警告!感情の出力は論理の領域外である。自己の感情を他者のために開示することは、最大の損失リスクを伴う!)」

春馬は、自身のシステムの根幹を揺るがす命令に、激しく抵抗した。だが、「効率が悪い」という蒼奈の指摘は、論理的な真実だった。

「ね、春馬くん。二人三脚の時、私を信じてくれたでしょう?優しさも同じ。気持ちを預けて、言葉に熱を込めるの。それは論理的な義務だよ。最大の喜びという見返りを得るために!」

春馬は、歯を食いしばった。彼は、論理的な効率を追求するために、自らの感情の防御壁を強制的に解除するという究極のリスク行動に出ることを決意した。

練習再開。縄の回転は完璧。そして、春馬は自分の論理的な防御壁を、内側から破壊した。


「(出力開始!感情的リソースを強制的に言葉に変換!)」


春馬の口から出た「頑張れ」は、依然として荒削りだったが、そこには微かな熱と切実さが宿っていた。

「……頑張れ!……次は、やれる!」


春馬の感情を強制的に込めた言葉は、集団に予測不能な巨大なエネルギーをもたらした。クラスメイトたちは、「あの箕島が応援している!」という事実に驚き、士気を爆発的に高めた。

結果: 大縄跳びの成功回数は、一気に30回という新記録を達成した。

春馬の心臓は、物理的な負荷ではなく、圧倒的な喜び(G_{success})によって激しく鼓動していた。


「(驚愕の演算結果!論理的な効率を追求するために感情を強制出力した結果、予測値を遥かに上回る喜びを獲得した。この喜びは、集団の成功と、自己の論理的な勝利に起因する。論理が感情を強制し、その感情が論理的な成功を導き、その成功が新たな喜びを生み出す……自己言及的な喜びのループが成立している!)」


春馬は、最大の屈辱を恐れていた「優しさ」という行動が、「最大の喜び」という見返りをもたらすという、究極の矛盾を体感した。


「見たでしょう、春馬くん!論理的な義務を果たすために優しさを実践した結果、最高の喜びが得られたよ。最高の研究結果だね!」

春馬は、初めて、 目の前の蒼奈が、自分の論理を破壊し、書き換え、そして新しい幸福を提示している「新たな脅威」ではなく、「新しい幸福の公式の、不可欠な共同研究者」であると無意識下で認めるのだった。

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