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第五十一話「体育会⑦」

第五十一話公開中!


【第五十話】で大縄跳びの回転役という「論理的な制御ポジション」を得た春馬は、蒼奈と共に練習を続けていた。彼の腕の動きは、もはや人間のものではなかった。

2.1回転/秒という完璧なリズムと、縄と地面のクリアランスを5cmに保つ正確な軌道は、最高の観測データを出力していた。

しかし、結果は春馬の論理に深刻な矛盾を突きつけた。


「(観測結果:我々の回転リズムは、同期エラー0.001%未満で完璧である。しかし、跳躍の成功回数は最大で6回、平均4回で失敗している。失敗率が異常に高い)」


春馬は、失敗の原因を即座に分析した。


「(失敗要因分析:縄が足に引っかかる原因の85%は、跳躍側の同期の乱れにある。特に第5番目の生徒の着地タイミングが0.2秒遅延し、その後の連鎖的な疲労が失敗を誘発している)」


彼の視点では、集団は論理的な欠陥の集合体だった。彼は、完璧なリズムを刻んでいる自分たち回転役と、非論理的に失敗を繰り返す跳躍側との間に、大きな論理的な隔たりを感じていた。


休憩時間、春馬は、効率の低下という損失を無視できなかった。彼は、共同研究者として、論理的な指摘をする義務があると演算した。


「君たち、聞け。今の失敗の原因は、縄のリズムにあるのではない。個々人の同期の精度に欠陥がある」

春馬は、無感情な声で、冷徹な事実を突きつけた。


「特に第5番目の君。君の着地後の再跳躍のタイミングは、平均0.2秒の遅延を観測した。その遅延が、後続の生徒の判断を狂わせ、全体の失敗を引き起こしている。自己の非効率が全体の損失を生んでいる事実を自覚せよ」


春馬の完璧な指摘は、論理的には一貫していた。しかし、言われた生徒の顔は羞恥心と不満で曇り、クラス全体の「楽しい」という熱は、一瞬にして氷点下まで冷え込んだ。


「うっ……それは、分かってるけど……」


「別に、そこまで言わなくてもいいだろ……箕島は回してるだけじゃんか」


春馬の論理は、集団の感情という新しい変数によって、拒否された。


春馬の冷徹な論理が集団の雰囲気を最悪にした瞬間、蒼奈が共同研究者として介入した。彼女は、春馬の論理を否定せず、欠けている変数を指摘した。

「春馬くん、待って!君の分析は100%正しい。論理的には完璧だよ。でも、君の新しい公式(U=G-R)には、最も大事な変数が欠けているよ」


「何?俺は事実を指摘した。論理的な指摘は、損失を減らすための手段だ」


「損失は減るかもしれない。でも、見返り(喜び、G)も同時に減っているよ!君の論理的な批判は、集団の士気という非論理的なエネルギーをゼロにした。士気が低ければ、跳躍の精度はもっと落ちる」


「論理的な効率だけを追求した結果、集団の喜び(G_{group})という最大の利益を自ら排除してどうするの?集団の成功には、『論理的なリズム』だけでなく、『非論理的な優しさ』というクッション材が必要なんだよ」


蒼奈は、春馬が感情を排除しようとすればするほど、論理的な成功から遠ざかるという最大の矛盾を突きつけた。


春馬は、蒼奈の指摘が、「論理的な優位性」を保ちつつも「幸福度(U)の最大化」という最終目的に貢献していることを演算し、反論の余地がないと結論付けた。


「(演算結果:若宮の指摘は正しい。論理的な指摘は、一時的な損失回避には繋がるが、長期的な利益の拡大には貢献しない。集団の感情は、無視すべきノイズではなく、利用すべきエネルギー源である)」


「……分かった。では、集団の士気という非論理的なエネルギーを増大させるための論理的な手段を提案しろ」

「シンプルだよ!『頑張れ!』という感情的な掛け声を私たちの回転リズムに組み込むの。私たちが縄を回すごとに、『はい、頑張れ!』『ドンマイ!』って、論理を優しさで包むの」


回転役である春馬が、最も非論理的で、感情的な言葉を、完璧なリズムに合わせて発するという、究極の矛盾を要求された。

春馬は、羞恥心で顔を歪ませながらも、新しい論理に従い、論理的な効率の最大化という義務を果たすため、「非論理的な優しさ」の変数を自分のシステムに強制的に組み込んだ。


そして、練習再開。春馬の腕は2.1回転/秒という完璧な論理を刻み、蒼奈の声がそれに合わせて「せーの!…で!頑張れー!」という優しさを乗せる。

春馬も、極度の抵抗を感じながら、「……頑張れ」と、ほとんど無機質な命令のように呟いた。


その瞬間、集団の雰囲気が一変した。春馬の冷徹な指摘に凍り付いていたクラスメイトたちが、蒼奈と春馬の「優しさ」という名の外部からのエネルギーを受け取り、再び笑顔を見せ始めた。

結果: 大縄跳びの成功回数は、一気に12回へと跳ね上がった。


「(驚愕!論理的なリズムは不変。増加した要因は『士気(優しさ)』のみ。非論理的な感情が、論理的な効率を2倍に高めた!)」


春馬のシステムは、自己の論理が集団という名の非論理的な変数によって論理的な成功を収めたという新しいデータを観測し、激しく動揺するのだった。

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