第五十話「体育祭⑥」
「俺は恋愛主人公じゃない、」㊗️五十話到達!
これは嬉しいです!ただ、「魔力転生G✕M」の方がPVが多いのは複雑なので「魔力転生G✕M」のみを読んでいる方は「俺は恋愛主人公じゃない、」も読んでくれるとありがたいです!
【第四十九話】で「せーの!……で!」というリズムと信頼が融合した最優解を見つけた春馬と蒼奈は、その後も二人三脚の練習を継続していた。成功という見返り(喜び)を得るたびに、春馬の論理システムは身体的接触に対する「高リスク警告」の値を徐々に引き下げていった。
「(観測結果:若宮との身体的な近さは、もはや裏切りのリスクとして処理されていない。現在は『同期の精度を高めるための安定したデータ収集環境』として機能している。ロープによる足首の連結や、肩の体温は、効率的な協調のための基準値として許容可能)」
春馬の歩調は、練習を重ねるごとに機械的な正確さから有機的な滑らかさへと変化していった。彼は、蒼奈の微細な重心の傾きや、息遣いの変化を、論理的な演算ではなく、五感による観測で瞬時に把握し、無意識下で協調していた。これは、彼の旧論理ではありえない事態だった。
「春馬くん、完璧だよ。もう『せーの!……で!』も必要ないくらい、歩調が合うようになったね」
蒼奈はそう言いながら、さらに親密な要求を提示した。
「ね、論理的効率をさらに高めるために、もっと体重を預けて、一つの体みたいになろうよ。リスクが高まる分、成功の見返り(喜び)も大きくなる。共同研究として、信頼の深度を極限まで試すべきじゃない?」
春馬の内心は激しく動揺した。体重を預ける。それは、自己の運動の全てを相手に依存し、「裏切られた場合、即座に転倒し、身動きが取れなくなる」という最大のリスクを伴う。しかし、目の前の蒼奈は「論理的な効率」という言葉を盾に、信頼を要求している。
「(演算結論:若宮の要求は、旧論理においては論理的な自殺行為である。しかし、新しい公式は、信頼を伴う高リスクの受容を最大の見返りとして定義している。拒否は、新しい論理の破綻を意味する)」
彼は、静かに頷き、蒼奈の体温と重みを背中や肩で感じながら、一体となって走り出した。彼のシステムは、もはや身体的密着をリスクとしてではなく、自己の存在を拡大する手段として認識し始めていた。
二人三脚の練習後、蒼奈は大縄跳びの集団練習の計画を提示した。その瞬間、春馬のシステムに最大のリスク警告が再発動した。
「(警告再発動!集団という名の非論理的な外部環境への再突入。二人三脚の安定した観測室とは比較にならない予測不能性)」
大縄跳びは、春馬にとって最も忌避すべき競技の一つだった。なぜなら、「誰か一人の失敗」が、「クラス全体の失敗」という責任の共有を強制するからだ。過去のトラウマで、春馬は集団内での失敗を嘲笑され、責任を押し付けられた経験がある。
「若宮。大縄跳びは、参加者全員の同期が不可欠だ。誰か一人でも論理的な行動を欠いた場合、全体の損失となる。この集団ゲームにおいては、裏切りのリスクが不可避に存在する。なぜ、この非効率なリスクを冒す必要がある?」
蒼奈は、春馬の集団への深い恐怖を理解していた。彼女は、春馬が集団に参加しながらも、彼自身の論理で「制御」できる役割を与えることで、彼の不安を和らげようとした。
「春馬くんの言う通り。大縄跳びは、論理的に見て最も不安定で、リスクの高い集団研究だ。だからこそ、君が必要なんだよ」
「大縄跳びは、私と春馬くんの二人三脚の規模が大きくなっただけ。私たちは、縄の回転速度とリズムを論理的に制御できる『回転役』を担おう。これで、集団の予測不能性を、私たち二人の論理で一定の範囲に収束させることが可能になる。集団の喜びという見返りは、私たちが論理的に管理するんだよ」
「論理的に管理する」という蒼奈の言葉は、春馬にとって絶対的な支配権を意味した。彼は、集団に支配されるのではなく、集団を支配できるという論理的な優位性を得たことで、大縄跳びへの参加を論理的に承諾した。
その日の放課後。春馬は、蒼奈と共にグラウンドでの大縄跳びの初練習に臨んだ。
春馬の耳には、クラスメイトたちの「わー!」「そーれっ!」という叫び声や、笑い声が、純粋なノイズデータとして届いていた。
「(観測データ:クラスメイトたちは、論理的な目的を持たず、『楽しい』という非論理的な感情のみでこの高リスクな行動に参加している。この集団の熱は、データとしては無意味だが、集団のパフォーマンスを予測不能な形で増大させる変数となる)」
春馬と蒼奈は、練習の端で回転役の縄を握った。
「じゃあ、実験開始だよ、春馬くん。私たちがリズムという名の論理で、この予測不能な集団変数を制御するよ」
春馬は、縄を回す動作に集中した。彼は、縄の軌道、回転速度、地面との摩擦音といった物理的なデータを極限まで細かく観測し、最も効率的なリズムを導き出した。
「(回転速度:2.1回転/秒。軌道:楕円形を許容するが、地面との距離を最大5cmで維持)」
彼の腕の動きは、精密機械のように一定だった。蒼奈は、春馬の隣で論理的なリズムを刻みつつ、「準備オッケーだよー!」と、感情的な変数をクラスメイトたちに投げかけた。
クラスメイトたちは、春馬と蒼奈が生み出す安定した縄のリズムに導かれ、次々と縄の中を跳び始めた。春馬は、集団が自分の論理で制御されているという優越的な事実に、予測不能な喜び(見返り)を感じていた。
大縄跳びの練習は始まったばかりだが、春馬はすでに、集団のリスクを「論理的に制御可能な実験対象」へと再定義し始めていた。彼の新しい論理は、二人だけの密着した関係から、集団という名の広大な領域へと、その影響範囲を拡大し始めたのだった。




