第四十六話「体育祭②」
第四十六話公開中!
【第四十五話】で蒼奈に「感情的な言い訳」を見抜かれた春馬は、動揺を抑えつつも、壇上の体育委員長の説明に集中していた。体育祭委員長の声は熱意に満ちており、その感情的なトーンは春馬の耳には純粋なノイズとして届いていた。
「今年の体育祭のテーマは『絆と燃焼』!クラス全員の力を一つにして、最高の思い出を作りましょう!競技は全てクラス対抗。特に『大縄跳び』と『クラス対抗リレー』は、団結力ボーナスが加算されます!」
「(観測中。『絆』や『燃焼』は、数値化不可能な変数であり、目的関数としては無効。『団結力ボーナス』は、非論理的な要素に対して利益を与える、ゲームシステム上の欠陥と見なせる)」
春馬は、説明されるルール一つ一つを、自分の論理システムと照らし合わせて解析していった。
委員長が配布された資料に基づき、競技の詳細を読み上げていく。春馬は、特に「全員参加必須」の競技と、「団結力」の配点が高い競技に注目した。
競技A(騎馬戦/棒倒し): 身体的リスクが最大。春馬の旧論理では即座に排除。新論理では、勝利の利益(G_{win})が負傷のリスク(R_{injury})を上回るかの演算が必要。
競技B(大縄跳び): 全員参加必須。個人の能力よりも集団の調和が問われる。春馬のシステムが最も嫌う「非効率な強制協調性」。
競技C: 個人の能力が最も利益(G)に直結する。論理的に最も効率的だが、団結力ボーナスで全体効率は低下。
「(演算結論:この体育祭という『集団ゲーム』は、個人の優位性ではなく、『非論理的な協調性』を利益とするよう設計されている。俺の『幸福の最大化』という目的を達成するには、この非論理的なルールを受け入れ、利益を獲得する方法を模索するしかない)」
説明が終わり、生徒たちがパラパラと解散し始める中、春馬はすぐに蒼奈に声をかけた。
「若宮。この体育委員長の説明内容に基づき、クラスの幸福度(U_{class})を最大化するために、俺たちはどの競技にリソースを集中すべきか、論理的な分析が必要だ。感情的な熱意は無効な変数とする」
「了解、共同研究者。もちろん、感情的な熱意は無効だね。でもね、春馬くん」
蒼奈は、春馬の論理的な分析を受け入れつつも、核心を突いた。
「『団結力ボーナス』は、春馬くんの論理では欠陥かもしれないけど、このゲームにおいて最も利益(G)を簡単に稼げる場所だよ。そして、その団結力を得るには、最も非効率でリスクが高い競技に、春馬くんが全身で飛び込む必要がある」
「最も非効率でリスクが高い競技……それは、大縄跳びか、あるいは集団での肉体的接触を伴う競技だ」
「ふふっ。新しい論理(U=G-R)を試すには、最高の舞台でしょう?さあ、春馬くん。一番大きなリスクを選ぼうよ。その方が、観測データも豊富になるからね!」
春馬は、蒼奈が「共同研究」という名目で、自身を最も危険な非論理的な領域へ導こうとしていることを理解した。しかし、彼の新しい論理は、リスクを恐れるなと命じていた。春馬の頭の中では、次の論理的な決断を迫る演算が始まっていた。




