第四十五話「体育祭①」
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気が向いたら「魔力転生G✕M」読んでみてください。(R15なのでご注意を)
連絡先の交換という最初のリスクを許容した春馬だったが、その数日後、彼の新しい論理は、校庭という集団の熱気の中で早くも試練に立たされていた。
真昼の校庭。全校生徒が整列させられ、壇上では体育委員長が声高に「友情と団結」といった非論理的なスローガンを叫んでいる。太陽は容赦なく春馬の肌を焼き、彼の論理的思考を苛んでいた。
「(観測中。この全校生徒の集合は、時間とリソースの最大の浪費である。文書の配布、または電子通知で済む内容に対し、千人以上の人間を炎天下に拘束することは、社会全体の効率性(E_{social})に対する明白な損失である)」
春馬の頭の中では、論理的な不満が渦を巻いていた。彼は、この非効率な時間を、新しい論理に従って「幸福度(U)を最大化するためのリスク(R)」として処理しようと試みていたが、システムは強烈な「不快感(-L)」を演算するばかりだった。
「(演算結果:現在の不快度は閾値を超過。このままでは、U = G - Rの『G』が『R』に飲み込まれ、論理が成立しない)」
春馬は、前の席の蒼奈の背中に向かって、論理的な言い訳という名の防衛論を吐き出した。
「若宮。この状況を、新しい公式で説明してみろ。この集合がもたらす『利益(G)』はどこにある?俺のシステムは、体力の消耗(L_{physical})、時間の浪費(L_{time})、そして不快感(L_{discomfort})という損失の集合を演算している」
「ふふっ。春馬くん、落ち着いて。潜在的な利益は、まだ観測可能ではないだけだよ。それより、春馬くん。あなたが今、挙げた『損失』の項目、本当に全てが論理的な分析なのかな?」
「当然だ。俺の主張は、客観的な事実に基づいている。不快感は、体温上昇と日射による生理的な反応の正確な表現である」
「本当に?じゃあ、質問を変えるね。春馬くんがこの非効率な状況を『時間の浪費』だと批判しているのは、本当は『この時間が、自分がやりたいことではないから』という感情的な不満を、論理的な言葉で武装しようとしているんじゃないのかな?」
蒼奈は、くるりと振り返り、春馬の論理的な隠蔽工作を見抜いた優越感と親愛の情が入り混じった、悪戯っぽい笑みを春馬に向けた。
「ねえ、春馬くん。新しい論理に基づき、素直なデータを提出するべきだよ。『体育祭の準備が大変で疲れるから、この集合は非効率だっていう言い訳を、色々考えたんでしょ?』」
春馬の顔は、日差しと羞恥心で真っ赤になった。彼の感情的な弱さが、論理的な探求者である蒼奈によって、白日の下に晒されたのだ。
「(論理崩壊!彼女は、俺の思考の動機を、『感情(疲労)』から『論理(非効率)』へとすり替える試みを正確に解析した!俺は、感情的な弱点を隠すために、論理を盾に利用したのか?)」
春馬は、反論の言葉を失った。彼の論理的プライドは、純粋な羞恥心という非論理的な感情に打ち負かされたのだ。
「それは……違う。俺は、俺の論理的な整合性を……」
「ダメだよ、春馬くん。新しい論理では、『疲れた』という感情は、『今後のエネルギー配分計画』に不可欠な重要なデータだよ。論理を、感情の言い訳にするのはやめよう。共同研究者として、素直なデータを提出して」
蒼奈は、春馬の論理的な欠陥を突きながらも、彼の感情を「論理に必要なデータ」として再定義することで、春馬の論理的なプライドを傷つけない逃げ道を与えた。
「……不快感と、極度の疲労を感じる。これが素直なデータだ。満足か?」
「うん、大満足!じゃあ、この『疲労』という負の変数をどう『利益』に変えるか、一緒に最適解を考えようね!」
蒼奈の明るい声と、彼女が春馬の弱さを非難ではなく受容した事実は、春馬のシステムに予測不能な安堵をもたらした。春馬は、感情を隠すよりも、開示した方が利益(G)が大きいという、極めて重要な新しいデータを観測したのだった。




