第三十九話「若宮家訪問①」
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若宮家訪問の当日。春馬は、蒼奈が選んだ水色のパーカーを『観測ツール』として着用し、若宮家の玄関前に立っていた。パーカーの明るい色と、私的な空間への侵入という事実が、春馬の不安と羞恥心という負の変数を最大化させていた。
「(観測開始。俺の生存戦略の論理から見て、これは最大のリスクである。二時間という時間制限を設けたが、その間に非論理的な変数が俺のシステムを侵害する確率は極めて高い。だが、観測ツールを着用し、論理的な義務を遂行している以上、後退はできない)」
春馬は、シャツの襟を直し、強張った表情でインターホンを押した。
「あ、春馬くん!いらっしゃい!うわ、水色のパーカー、似合ってるよ!ちゃんと着てきてくれて嬉しい!」
蒼奈の屈託のない喜びに、春馬の羞恥心はさらに増したが、それを無視し、ドアの奥に立つ人物に意識を集中させた。
「こんにちは!はじめまして、箕島くん。ようこそ、若宮家へ!私は、蒼奈の姉の麗華。麗華さんって呼んでいいわ!よろしくね!」
麗華の親しげな笑顔と、蒼奈と瓜二つの茶髪のショートヘアの容姿に、春馬は一瞬で警戒レベルを最大に上げた。彼は、この「脅威の複製」を論理的に処理しようとした。
「(データ照合:容姿の類似性98%。若宮の姉だから似ている。血縁者というカテゴリーで分類は可能だが、その非論理的な親密性への強制力は、若宮蒼奈と同等、あるいはそれ以上である)」
春馬は、親密性を拒否する最も形式的な分類で対抗した。
「……若宮の姉?血縁者というカテゴリーに属するならば、若宮さんで」
麗華は、春馬の徹底した防御に、楽しそうに笑った。
「ふふっ。そこまで論理武装しなくても。可愛い。まぁ、若宮さんということで。上がって、春馬くん。蒼奈の研究に付き合ってあげてね。リビングはすぐそこよ」
「あなた方も、姉妹揃って『からかう』という非効率な行為が好きなようですね。その行動は、個人の楽しさという利益の向上に、どの程度寄与すると演算しているのですか?私には、時間の浪費にしか見えません」
「あら、春馬くん。『からかい』っていうのはね、『親しみの証』よ。私たちの家では、それが最高のコミュニケーションなの。あなたみたいに論理で固めた人の壁を崩すには、これくらい効率的な非論理が必要なのよ。私たちは、ちゃんと楽しさという利益を得ているわ」
麗華は、「楽しさ」という曖昧な概念を「利益」として再定義し、春馬の論理的な反撃をかわした。春馬は、彼女の軽やかな論理のすり替えに、「理解不能なカテゴリー」として強い戸惑いを覚えた。
麗華に案内されたリビングは、春馬の『孤独の最適解』という論理が作り上げた無機質な世界とはかけ離れた、非論理的な暖かさで満たされていた。春馬は、一歩足を踏み入れただけで、防御壁が半壊するのを感じた。
麗華は、春馬がソファーに座るのを確認すると、すぐに無償の変数を投入した。
「春馬くん、長旅ご苦労様。論理的な思考には、効率的な休憩が必要よ。今、私がお茶を淹れるわね。蒼奈、春馬くんの『進路』の話、ゆっくり聞いてあげなさい」
「了解!春馬くん、私の『論理的な進路相談』に、真剣に付き合ってくれるかな?」
「(演算エラー!彼女は、俺の論理的な枠組みを理解した上で、無償の優しさ(お茶)という、最も危険な変数を投入している。」
「(この親切には、裏切りの計算も、対価の要求も含まれていない。では、この悪意のない善意は、俺の女性不信のシステムにとって、何というカテゴリーに分類される?データが存在しない!)」
春馬の脳内では、「孤独の最適解」のロジックが、「家族の優しさ」という予測不能な現象に直面し、緊急停止に近い状態に陥っていた。
彼は、目の前で楽しそうに話す蒼奈と、キッチンで自然体で動く麗華の姿を観測しながら、自身の孤独の鎧が、「無償の愛」という名の熱によって、音を立てて溶解し始めていることを、最大の脅威として自覚するのだった




