第二十一話「春馬の研究活動報告」
第二十一話公開中!
遅れてすみません。
明日からは文字数が増えると思います!
蒼奈と別れた後、春馬は、崩壊した論理を抱えながらも、機械のように自宅に帰った。
翌朝、朝食の準備をする母、春那は、春馬の異変をすぐに察知した。彼はいつも以上に無言で、食卓に着くなり、今日の課題でもない『若宮蒼奈 論理的解剖記録』のタブレット画面を無意味に見つめている。
「おはよう、春馬。どうしたの、昨日の『研究活動』。収穫はあった?」
春那は、いつものように茶目っ気のあるトーンで問いかけた。
「ああ。研究は完了した。そして、決定的な結論が出た」
俺はタブレットを操作し、観測データを口頭で報告する。
「結論。俺のこれまでの『孤独の最適解(悲しみの回避=楽しさの排除)』は、論理的に破綻した」
「……論理的に、破綻?」
「データが示す。若宮との非効率な時間軸の共有は、高効率の『楽しさ』という利益を生んだ。映画の内容、昼食のオムライス、若宮の予測不能な行動。すべてが、高い幸福度を示すデータを排出した。最も重要なのはその後のデータだ。俺は、『楽しさ』を経験した直後、『解散』という論理的な最適解を実行した。しかし、その結果、『寂しさ』という、俺が最も嫌悪する負の感情が発生した」
俺は、食卓に視線を落としたまま続けた。
「論理の目的は『悲しみの回避』だ。『楽しさ』を一時的に許容したことで、『悲しみ』が後から発生した。つまり、俺の論理は、その目的を達成することさえできなかった。これは、機能不全だ」
春那は、静かに春馬の報告を聞いた後、優しく微笑んだ。
「春馬。あなたの言っていることは、理屈っぽいわ。すごくね」
「ねぇ、それで。一番聞きたいことなんだけど」
「彼女と一緒にいて、あなたの女性不信の壁は、少しでも動いた? その『寂しさ』っていう、新しい感情の変数は、『裏切りへの恐怖』を、少しでも上回るものだったかしら?」
春馬は、再度沈黙する。
「そうじゃないわ。あなたは『楽しさ』と『悲しさ』を、『得』と『損』で分けすぎているわ」
「そうじゃないわ。『楽しさ』はただの得で、『寂しさ』はただの損? 違うでしょう?」
春那は、温かいお茶を春馬の前に置いた。
「寂しさっていうのはね、『楽しかった』という事実がなければ、発生しない感情なのよ」
「あなたは『悲しみを避ける論理』で生きてきた。でも、悲しみを完全に避けた生活は、『楽しさ』という究極の得も永遠に避ける生活だったの」
春那は、食卓の向かい側から、春馬の手の上に、そっと自分の手を置いた。
「『寂しさ』という損が発生したということは、その前に、それ以上の『楽しさ』という得があったという証明なの。あなたは、寂しさを感じた分だけ、楽しんだのよ」
「あなたの論理で言えば、それは『損失回避の失敗』じゃなくて、『利益最大化の成功』じゃないかしら? あなたの心は、最も効率よく『楽しい』という結果を出したのよ」
春馬は、母の言葉に、新たな論理のフレームワークを突きつけられた。春那の言葉は、俺の**『裏切りを恐れる論理』を否定せず、その定義を優しさで拡張**するものだった。
「……定義の換算に論理的な根拠がない。感情を利益として評価することはできない」
「あら、論理的なのよ。人生の最終的な幸福度という観点から見ればね。明日、また彼女に会うんでしょう? その非効率な楽しさの続きを、また試してみるべきじゃないかしら?」
春那は、春馬の「論理の再構築」を待つように、静かに微笑んだ。




