第二話「席替えによる出会い」
「席替え」――この単語は、俺にとって論理の破綻と悪意を象徴する、呪いの言葉だ。
担任が読み上げた席順は、俺の全ての計算を嘲笑うように、中央通路に面した、クラスで最も目立つ席だった。
そして、極めつけは隣の席だ。
「次は、箕島 春馬くん。そして隣は…… 若宮 蒼奈さんだ。」
一瞬、脳がホワイトアウトした。
若宮 蒼奈は学園のマドンナと呼ばれるような存在である。見た目の特徴とすれば黒髪ロングヘアーでハーフアップ?と呼ばれている髪型だ。成績優秀、容姿端麗、天真爛漫という評価をされている。
俺は女性不信であるがために、女性を信じることはできないが事実を認めることはできる。最初は周りが蒼奈を持ち上げているだけだと思っていたが、蒼奈は定期テストで毎回トップであり、芸能事務所にスカウトされることが多いらしい。
その事実があることから俺は事実を認めなければならない。俺はスクールカーストにおけるマドンナ的存在が相対評価で決められているわけではなく、絶対評価でマドンナ的存在が決められていることに驚愕している。そんな人がよく俺の学園にいると思っている。
そんな絶対的な存在が、なぜこの俺――「雑巾」の過去を持つ恋愛主人公じゃない男の隣に座る? この世の論理が完全に破綻した瞬間だ。
心臓が締め付けられ、吐き気がこみ上げる。頭の中では小学生の頃から続いている舌打ちと嘲笑がフラッシュバックする。
しかし。
「はは……っ」
喉の奥から、乾いた笑いが漏れた。
極限の苦痛に達した瞬間、俺の防御本能は、またしても歪んだ高揚感を生み出した。絶望ではない。この絶望的な状況を前にして、俺はなぜか愉快だった。
箕島春馬の口角が、ゆっくりと持ち上がる。
それは、周りのクラスメイトが「あ、また箕島が変な顔してる」と距離を置く、いつもの不敵な笑みだ。
全員がこの異様な光景に引き、静かに席を離れる中、ただ一人、まっすぐに俺を見つめている人間がいた。
それが、新しい隣人――若宮 蒼奈だ。
彼女は、席につくなり、俺の最も触れられたくない部分に、まっすぐな好奇心をぶつけてきた。
「ねえ、春馬くん。今、そんなに楽しそうなのに、どうして全然嬉しそうじゃないの?それってどういう意味?」
意味不明だ。この女の行動原理は、俺の持つどの論理的辞書にも載っていない。俺が唯一、心を許し、自己の存在価値を確立できる場所は、SNS上の論争空間だけだ。そこでは感情は排除され、破綻のない論理が絶対の真実となる。だが、この現実空間で、しかもマドンナ的な絶対評価を持つ女性が、俺の最も歪んだコアを悪意なく突いてきた?
「意味、だと?」
俺は笑みの形を保ったまま、口を開く。この女も、どうせ裏がある。論理で武装し、追い払うのが最適解だ。
「君の質問は、まず定義からして破綻している。感情と表情を、君の主観的な『楽しそう』という曖昧な評価で結びつけるのは、非論理的極まりない。俺の表情が『不敵の笑み』に見えるなら、それは『現状の困難を乗り越えられることへの確信』を示す論理的なサインだ。そこに『喜び』という非効率な感情を求めるのは、知性の欠如としか言えない」
春馬は、相手を一気に論破し、「関わると面倒な人間だ」と思わせるための言葉を機関銃のように浴びせる。
これで彼女は怯む。これで、誰もが俺から離れていくはずだ。
だが、若宮蒼奈は微動だにしない。むしろ、その蒼い瞳は好奇心で輝きを増した。
「ふーん。論理的なサインかあ」
彼女は、春馬の論理という鎧を無視して、またしても芯を突いてきた。
「でも、その論理的なサインは、全然面白くなさそうだね。だって、目が笑ってないもん」
春馬の思考が、今度こそ完全に停止した。この女は、俺の論理的な防御を、「目が笑ってない」で無力化しようとしている。SNSの論争なら、即座にブロック対象だ。
「……幼稚な定義だ」
俺は冷ややかに言い放ち、不敵の笑みを微動だにさせない。
「俺は普通の人間だから、目じゃなくて口が笑うんだ」
春馬は、蒼奈の感情論を否定し、言葉の定義に矮小化することで、レスバの主導権を取り戻そうと試みる。
しかし、蒼奈は、春馬の必死の抵抗を、面白がるように見つめていた。
「あはは!春馬くん面白いね! 私が言ってるのは比喩だよ! 春馬くんは純粋だね〜」
春馬の顔から、不敵の笑みが一瞬にして消え失せた。この女は、俺の論理的な攻撃をユーモアとして認識し、「純粋」という最も危険な褒め言葉を浴びせてきた。
「き、君……っ」
動揺を悟られまいと、春馬は必死に言葉を探し、蒼奈の返しに論理的な穴を見つけ出そうとする。
「君が……君のテンション感だと、比喩表現として使っていないように聞こえただけだ」
蒼奈は、そんな春馬の必死の抵抗を、面白がるように見つめていた。
「えー? 私、テンションはいつもこんな感じだよ。じゃあ、聞くけどさ、春馬くんの今のテンションだと、何で口だけ笑ってるの?」
彼女の瞳は、春馬の「口が笑うんだ」というセリフを、そのままブーメランのように投げ返してきた。
「……理由はない」
春馬は、絞り出すようにそう答えた。彼にとって「理由がない」という事実は、論理の敗北を意味する。
「……性質だ」
過去のトラウマから獲得した歪んだ自己防衛。彼は、最も隠したい非論理的なコアを、無意識のうちに白状してしまった。
「性質?」
蒼奈の笑顔は消えず、その好奇心は、春馬が隠しきれなかった「性質」という言葉に、さらに食いついた。
「ふーん。面白ーい!その『理由のない性質』、ちょっと研究させてよ、春馬くん!」
ヒロイン登場です✌
第一話に登場しないのかよ!とツッコミたい人には申し訳ないです(*´∀`)
【若宮蒼奈】←わかみや そうな




