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第十四話「研究活動②」

第十四話公開しました!

最近忙しくて一話当たりのボリューム少なくてすみません。


蒼奈は、大通りではなく、人通りの多い裏道へと進路を変えた。

「待て、若宮。映画館までの最も効率的なルートは、この大通りを直進するルートだ。現在地の飽和した人流ノイズを回避し、到着時間を最小化する」


「えー? 面白くないな、研究者さん。効率的なルートは、データ収集において非効率的だよ」

俺は、到着時間の遅延リスクが40%増大するという論理を突きつける。

「ルート?あれ?」

蒼奈は足を止め、瞳を丸くして俺を見上げた。

「春馬くんは、映画館までのルートを下調べしてたんだね!約束した時はすごい嫌そうだったけど。もしかして、楽しみだった?」

俺の論理的な防御の裏にある、「約束の時間を守る」という義務感が露呈した。

「馬鹿なことを言うな。楽しみとか、楽しみではないとか、そういう感情的な論点は無意味だ。俺は、映画の上映時間に間に合わないという最悪の場合を論理的に回避するために、最短ルートを考えただけだ」

「ふふっ。そっか。最悪の場合を回避するため、ね。それでも、春馬くんがこの研究のために、時間を割いて、ルートを考えてくれたんだね。ありがとう、研究者さん」

彼女の悪意のない「感謝」という言葉が、俺の『優しさ』という、最も危険な非論理的な変数を心に注入した。

蒼奈は映画のあらすじと、トラウマのフラッシュバック

蒼奈は歩きながら、今回の研究対象である映画の概要を話し始めた。

「ねえ、春馬くん。今から観る映画のタイトルは『闇照らす笑顔』っていうんだ。その主人公の男の子は、春馬くんが持つ『防御的な論理構造』とすごく似ているんだよ」

「その主人公の男の子も、昔、人間関係における裏切りという経験から、他者との接触を拒む頑なな防御の姿勢をとるようになるの。でも、彼が主人公として、ある一人の女の子と出会い関わることで、その防御を克服し、結ばれるというストーリーなんだ」

その瞬間、俺の脳内に【警告:トラウマのコアとの一致率95%。】が鳴り響く。

(小学校時代、ため息、舌打ち、席を離す、雑巾というあだ名、それからも続いてきた意図的な排除、そして計算された悪意の言葉)

俺の呼吸が浅くなる。この映画は、俺の人生の論理的否定を目的とした、虚構のハッピーエンドではないか。

「……幼稚な、設定だ。フィクションという、都合の良い希望的観測で、俺の論理が崩れるわけがない」

俺は、論理的な撤退ルートが皆無であることを知りながら、複雑な気持ちを論理的な拒絶で隠した。


映画館に到着し、チケット購入を終え、俺たちはドリンクとポップコーンという非効率なアイテムを手にした。

「おい、若宮。なぜポップコーンを買う?この菓子類は、映画鑑賞という行為において、論理的な利益を一切提供しない。黙って作品を見ればいい」

「ふふ。ポップコーンはね、雰囲気があっていいんだよ。この非論理的な特別感が、映画という虚構の楽しさを増幅させるんだ」

蒼奈は、『雰囲気』という非論理的な言葉と、『楽しさの増幅』という論理的な利益を結びつけた。

「それに、春馬くん。五感全てから非効率な楽しさを投入する必要があるんだ。これも、研究のプロセスだよ」

俺は、彼女の論理的な優位性を崩せず、ポップコーンを遠ざけるように肘掛けに置いた。

「いいか、若宮。ここからはデータ収集の時間だ。不必要な会話はするな。俺は、映画の内容、君の表情筋の動き、周囲の観客の反応、全てを論理的な観測対象とする」

「分かったよ、研究者さん。私も、春馬くんの心の中で起こる『論理の破綻』を、見逃さないように観測するね」

蒼奈は、ドリンクにストローを差した。暗闇の中、彼女の瞳だけが、非論理的な期待の光を帯びて輝いているように見えた。

やがて、シアターの照明が落ち、巨大なスクリーンに、『予測不能な感情』の塊であるラブストーリーのタイトルが映し出された。

俺の論理的な安定的状態を破る、究極の非効率な体験が、今、始まった。

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