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第百一話「テスト週間⑦」


教室のドアを開けると、そこにはテスト前の独特な緊張感と、焦りに満ちた喧騒が渦巻いていた。自席につくなり、机の上に並べられたのは戦場への招待状――期末テストの時間割だ。


「えーっと、化学、数学II、B、現代文、古典、英語、地理……。うん、やっぱり春馬くんの苦手な暗記系が多い科目を集中的に勉強する方が、今回の戦略としては効率的だよね」


指先で日程をなぞりながら、彼女は冷静に「敵」の戦力を分析していく。


「ターゲットは化学、英語、地理。この三本柱をどう攻略するかが、春馬くんの夏休みを守れるかどうかの境界線デッドラインだね」

彼女の指摘は痛いほど正確だった。論理で割り切れない「暗記」という作業は、春馬にとって最もコストパフォーマンスの悪い苦行に他ならない。


そんな彼を見透かしたように、彼女は不意に、流暢な発音の英語で問いかけてきた。


"Haruma-kun, tell me how you try to memorize information for your English exams. What's your method?"

(春馬くん、英語の試験のためにどうやって情報を暗記しようとしているのか、その方法を教えてよ)


唐突な言語の切り替え。だが、春馬は動揺を悟られぬよう、同じく英語で応戦する。


"Memorization? It’s simply a matter of daily accumulation."

(暗記? それは単に、日常の積み重ねだ) 

その答えを聞いた瞬間、彼女は我慢しきれないといった様子で吹き出した。そして、今度はより楽しげに、歌うようなトーンの英語で畳み掛ける。


"I'm asking about your specific method, Haruma-kun. If you had actually tried that 'daily accumulation' method, wouldn't you be a lot better at memorizing things by now?"

(私が聞いているのは、春馬くんの具体的な方法だよ。もし君がその『日常の積み重ね』っていう方法を本当に試していたら、今頃もっと暗記が得意なんじゃないかな?)


「……っ」

日本語で言われるよりも、そのストレートな皮肉が脳に突き刺さる。暗記が得意ではないという事実は、彼が提唱する「日常の積み重ね」という論理が、実生活においては全く機能していないことの、何よりの証明だった。


「……言語の壁を利用した卑劣な人格攻撃だな。手法メソッドの問題ではない。単に、脳内の記憶セクタにそれらの情報を永続保存するだけの価値を、俺が認めていないだけだ」


「はいはい、そうやってすぐ論理のせいにする! 価値がないんじゃなくて、覚えられないだけでしょ? ほら、隠さないで。正直に『若宮先生、覚え方を教えてください』って言えたら、特別な暗記術、授けてあげてもいいけど?」

彼女は机に身を乗り出し、春馬の顔を覗き込む。


「(……若宮蒼奈。英語まで完璧に使いこなして俺を追い詰めるとは。……だが、認めざるを得ない。俺の『積み重ね』という言葉は、何の根拠もない空論だということを)」


春馬は、彼女の自信満々な微笑みを前に、ついに白旗を掲げる準備を始めた。


「……分かった。……若宮。お前の言う、その『効率的な記憶術』とやらを聞かせてもらおう。……英語で、でも、日本語ででもな」

「合格! じゃあ、次は『脳を騙す暗記のロジック』の講義、始めちゃうよ!」

二人の「共同研究」は、今や言語の枠さえも超え、より深い領域へと踏み込んでいく。


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