第4話 軟禁
すべての血肉を喰らい尽くしたのち、空間に揺らぎを感じる。
「空間が、消えかけている?」
『冗談じゃないわ……』
「――」
例の女の声だ。枸櫞からすれば、あんたらがやらせたことで後からケチをつけられてはたまったものでないのだが?
いつの間にか、足元から全長八メートル大のパワードスーツ部隊らが短機関銃を抱えて取り囲んでいる。砲口は、半分がこちらに向けられていた。
「やらかしたかなぁ、これは」
*
その夜、枸櫞は監視付きの軟禁をされていた。
やがて美岬がやってくる。
「落ち着いた?」
「僕は泉客さんに言われてついてきただけなのに、こんな仕打ちを受けるなんて、ひどいよ」
「わざとらしい嘘泣きやめてよね、いや、こっちも色々悪かったけど。
……あなた、自分がなぜ拘束されかかったのかもわからないでしょうし」
「ネーレイスは倒しただろう?」
「ネーレイスを生きたまま捕食する鮫人なんて、ありえない」
「は――君らがやらせたんだろうに」
「そりゃ責任はこちらにあるでしょうね、だけど。
普通のリンカー、あの人形の乗り手のことね、鮫人はリンカーに応じた武器を召喚するの」
「言ってた剣とか、槍とか?」
「えぇ、たまに弓とか飛び道具を出せる子もいるけど」
子、ということは、自分たちに近しい年代の子らが、あの鮫人とかいう人形のリンカーとやらなんだろうか。
「首輪って拘束具でしかないでしょう、普通。なのにあなたはそれを効果的に活用して、ネーレイスを喰らってしまった」
「それが問題?」
「通常、ネーレイスは倒されると空間ごと消滅する。
鮫人は八機が《《現存》》していて、これまであの白亜の人形たちに、個性と呼べるものはなかった。だけど――これを見て」
美岬が持ってきたタブレット、表示されたのは鮫人の比較画像らしい。
「あなたと空間へ跳んだ八番機、人魚を喰らってからその全身が桃色に染まり、顔を獲てしまった」
「ふむ、以前のはのっぺらぼうなんだな、歯はあるけど。
でも歯があるってことは、ほかのナンバリングもそうなんだろう?」
「これまでのリンカーたちは、鮫人の口を動かせなかった。あなたは人形と、過剰なまでの同調を遂げてしまったのよ……悪いけど、もうしばらく監視付きの生活を送ってもらうことになると想う」
さっきのパワードスーツ部隊はなんだったのか聞けば、泉客グループが有する独立部隊だと言う。
「学園からなにから、きみの一族が有しているのか。
地元の名士なわけ?」
「ゆかりはあるし、県内では多くの融通が利くけど、活動しているのはここだけじゃないわよ」
彼女の叔父に至っては、全国区に出馬した議員先生なんだそうな。
「政財界を裏で牛耳っているカンジすかそうすか」
「そりゃそうだけど、言い方ってもの少しは選んだらどう?」
「おみそれいたしやした」
「あなた、どうしてそんなへらへらしてられるのよ」
「――、逆に訊かせてほしいんだけど、古代のロストテクノロジーなお人形だの、オカルトな異空間だの見せられた後に拘束されて、まともなリアクションなんて今更僕に期待してるのか?」
「そう。話の続きは、明日以降にしましょうか、今日もう遅いから。……きみのお父さんには連絡送って、今回ばかりは泊ってもらうことになるけど、許していただけない?
明日学校へは送るから」
「それより、ここはどこ?
きみんグループの所有する敷地ってことか」
「こんな時は状況判断が早いのに、こちとら拍子抜けよ。
首輪とか、そういうプレイかなにか?」
「文句なら鮫人に言ってくれよ、俺だって困ったんだから」
「……やっぱり、気づいてないのね」
「あ?」
「おやすみなさい。居心地までは保障できないけど、ゆっくり休んで」
翌日以降、枸櫞は鮫人の武装はリンカーのメンタリティやコンプレックスが顕現するものの用途を左右することを聞かされることになる。
つまりあの首輪は、彼の精神性が反映されたものなのだ。