第三湯 お風呂を作るわよ!(後編)
「お嬢様⁉ 一体何を……?」
いきなり場違いな場所で裸になったユーナを見て、リンは大いにあわてた。ユーナはそんなリンの様子を特段気にすることもなく、洗濯桶の中へゆっくりと座りこむ。
「ひゃうっ。やっぱり水風呂は冷たいね。リン、灰汁を持ってきて。それから、そこに干してあるタオルも」
リンが灰汁の入ったバケツとタオルを渡すと、ユーナは、灰汁を水で薄めて調整し、その中に水で濡らしたタオルを少し浸した。そして、そのタオルで体じゅうをゴシゴシとこすり始めた。
「すっごい垢出てくるー。これだけ大量に出てきたら、逆に笑っちゃうね。リンもアカスリしてあげる。服脱いで!」
「ええっ!」
リンはびっくりして飛びのいた。
「水の中に入るなんてダメです……呪われちゃいます……」
「なるほど、そういう迷信でみんな風呂に入らないのね。大丈夫よ、呪いなんてない。このユーナを信じて。垢とフケを落として体をキレイにして、絶対気持ちよくさせてあげるから!」
「でも……」
ジリジリと後ずさりするリン。ユーナは、リンのメイド服のリボンにスーッと手を伸ばす。
「正直言うと、あなたも今、すっごく臭いのよね。キレイにしないと、もう、私の身の回りを世話するなんてお断りよ?」
「そんなっ……分かりました。じ、自分で脱ぎます……」
リンはメイド服を脱ぐと、几帳面に畳んで棚に置いた。
「横においで、リン」
「失礼します……はぁうっ」
水の冷たさに軽く悲鳴を上げながら、リンは洗濯桶の中に入り、その小さな肩をユーナに寄せた。
「今日は水風呂でごめんね、リン。本物のお風呂はね、水じゃなくて、肩までお湯に浸かるの。すっごく温かくて、もっともっと気持ちいいのよ?」
「肩までお湯に、ですか……はぁっ……」
ユーナに優しく肌をこすられて、リンはだんだん頭がぼうっとしてきた。顔や身体からボロボロと垢がこぼれ落ち、やがて地肌が姿を現す。
「あっ、スベスベ……これが、私の本当の肌……」
「浄化魔法でも、ここまでキレイにならないでしょう。灰汁は付けすぎないでね。目には入れないように。洗ったらすっごくキレイになったよ、リン。お餅みたいに、白くて柔らかい肌ね」
「『お餅』って、何ですか?」
「何でもない。さあ、私も自分の背中は洗いにくいから、リンがゴシゴシして」
リンに背中を流してもらうと、摩擦の効果か、水風呂なのに全身がポカポカと熱くなる感覚があった。二人の垢で、洗濯桶の水は野良犬でも洗ったかのように真っ黒になった。ユーナは洗濯桶から立ち上がり、手押しポンプの方へと向かった。
「さあ最後に、髪がまだだったわね。水と灰汁で流してフケを落とすだけでもいいんだけど、塩も足すと、臭いが取れて、保湿効果も期待できると思う」
食事に付いてきた塩とオリーブ油を、ユーナは洗濯小屋まで持ってきていた。手押しポンプでバケツに水を汲み足し、即席の塩シャンプーでお互いの髪を洗い合う。
「髪と肌が傷まないように、オリーブ油を少しだけ使いましょう。ツヤツヤで可愛くなったよ、リン」
「お、お嬢様も、お美しいです……いえ、普段もすごくお美しいですけどっ」
二人の少女は、仕上げにバケツで肩から水を勢い良く浴びると、手を取りながらニッコリと笑い合った。
その時、洗濯小屋の扉がバタンと開いた。
扉の向こうから、ランプを持ったメイドが入ってきて、中の様子にキャッと驚きの叫びを上げた。その背後に立つユーナの継母・クレア夫人は、裸のユーナとリンを見て、小さくフフッと鼻で笑いながら見下すように言った。
「あなたたち……なんて不潔なの⁉」
湯鳥野柚菜「次回、家族会議!
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