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第六湯 馬小屋の奇跡(後編)

「干し草風呂、実際にやったのは私も初めてだけど、割とうまくいった感じね。それっ」


 ユーナは干し草を、リンの胸から首へ、そして下半身へ、手でまんべんなくスーッと広げていった。リンが身をよじる。

 

「くすぐったいです、お嬢様……」

 

「エヘヘ。肩まで温まらなきゃね!」


 ユーナはリンの横に体を割り込ませ、ゴロンと寝っ転がった。そして、自分自身の裸体の上にも、残った干し草をかぶせていった。甘い香りが、二人の少女を包んだ。


 干し草風呂。前世の世界では、ヨーロッパのアルプス山脈一帯で盛んな温熱療法である。干し草に圧力をかけて空気を押し出し、ぬるま湯へ浸けることによって、急速に発酵させ、発酵熱を発生させる。 


「昔ね。とある農家の人が、干し草の上で居眠りしたまま、一晩過ごしたの。目が覚めたら、めっちゃめちゃ体調が良くなってたんだって。薬草成分を体内に取り込んだのね。」


 リンと一緒に天井を見上げながら、ユーナは言った。


「私も、このまま寝ちゃいたいなあ」

 

「でもお嬢様、そろそろフワンさんが帰ってきますよ」

 

「そうね。残りの湯で半身浴して、体に付いた干し草を落としましょう」


 二人はかまどの灰で灰汁を取り、飼い葉桶で髪と体を清めると、脱いだ服を再び着て、フワンを待った。


 しばらくして、フワンは部屋へ帰ってきた。ベッドの上に広げられた異物を発見すると、さすがの寛容な彼も目を大きく見開いて、「んー?」とうなりながら、困惑の表情を浮かべた。

 

 ユーナはフワンに釈明する。

 

「びっくりさせて、ごめんなさいね。水に入るのは気が進まないって言うから、今日は取りあえず、これでお風呂の良さを体験してもらおうと思ったの。さあ、干し草のベッドをどうぞ」

 

 ユーナのゴリ押しに根負けして、とうとうフワンは上着を脱いだ。上半身に肌着一枚だけを着て、緊張しながら、ゆっくりと横になった。


「おっ……おおっ!」


 フワン爺さんがたちまち(ほほ)をゆるめ、歓喜の声をあげた。

 

「こ、これは……なかなか気持ちのいいものですなあ!」

 

「老廃物と一緒に、汗がたくさん出てくるから、起きたら体をよく拭いて、水分をしっかり飲んでね」

 

「腰痛が、スーッと軽くなります。まるで、雲の上に乗ったような気持ちです!」

 

 ベッドの上で身じろぎもせず、フワンは未知の快感を、心ゆくまでゆっくり味わった。

 

 ユーナは、そんなフワン爺さんの幸せそうな顔を(のぞ)き込みながら、おどけた調子で声をかけるのだった。

 

「お風呂に入る馬の気持ちが、ようやくお分かりですかな? フワンさん」

湯鳥野柚菜「次回、ユーナのお風呂布教は止まらない!

ブックマーク&評価よろしくね。ではでは、またねー「」

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