2.スラム街
ペット捜索なら吾輩におまかせ。ただ初期投資が必要だから闇ギルドへ足を運んだのだが。
闇ギルドに入るとすぐに目的の人物を見つけることができた。
それは、先ほど会ったばかりの女だった。
どうやら彼女も融資を受けるつもりらしく掲示板の前に立っている。
しかし、その格好を見て思わず吹き出しそうになってしまった。
なぜなら彼女の装備があまりに酷すぎたからだ。
防具は身に着けていないように見える。
おそらくローブの下に服を着ているのだろうが、それにしても無防備すぎるのではないだろうか。
何より目を引くのは、彼女が裸足だったのだ。しかもよく見ると所々怪我をしている様子もある。
それにあの杖のようなものは一体なんだ。先端部分に宝石のようなものが埋め込まれているが、あれが魔法の杖なのだろうか。
いや、そんなはずはないだろう。
あれはどう見てもただのガラクタにしか見えない。
ミケは訝しむような視線を向けながら彼女の横へと立った。
すると向こうも気づいたようでこちらを見返してくる。
しかし、その表情は相変わらず無表情のままだ。まるで人形のように感情が感じられない。
そのまま互いに見つめ合うような形になってしまったが、先に口を開いたのは彼女の方だった。
その口から出てきた言葉は意外なものだった―
彼女からの話によるとこのクエストには裏ルートがあるらしい。
なんでもスラム街の方に行けばもっと高額な報酬の依頼もあるとかなんとか。本当かどうかはわからない。
とりあえず今日は様子見も兼ねて一度行ってみようと思っている。
まあダメならまた別の方法を考えればいいだけの話だ。
彼女は話が終わるとそのままギルドを出て行ってしまった。
おそらくスラム街に向かったのだろうと思い吾輩も後を追いかけることにした―
冒険者ギルドを出た吾輩達は大通りをしばらく歩くと、やがて目的地が見えてきた。
そこは一見普通の建物に見えるのだが、よく見ると壁にひびが入っていたり窓が割れていたりと、かなり老朽化しているように見える。
おそらく長い間放置されていたのだろう。
入口と思われる場所に近づくと扉には鍵がかかっているようで開かない。
どうするべきかと考えていると後ろから声をかけられた。
振り向くとそこに立っていたのは同行した女性だ。
どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。
そして、2人で話し合った結果、とりあえず正面突破を試みることにしたのだ。
扉を思いっきり蹴り飛ばすと簡単に壊れてたので中に入ることにする。
中は薄暗くて埃っぽい臭いが充満していた。
床にはゴミや割れたガラスなどが散らばっており、歩くたびにパキポキと音が鳴る。
しばらく進むと階段があったので上ることにした。
2階に着くとそこには大きな部屋があった。
一応調べてみることにしたものの、特に変わったものはなく収穫はなかった。
おそらく倉庫か何かだったのだろう。
さらに上の階へと上がってみることにする。
3階に上がると今度は長い廊下が続いていたので進んでいくことにしたのだが、途中にいくつもの扉があり気になったので開けてみることにした。
するとそこには牢屋があり中にはボロボロの服を着た子供たちがいたのだ。
年齢は10歳くらいの女の子から20代くらいと思われる男性まで様々だった。
みんな一様に怯えた表情をしていることから察するにおそらく監禁されていたのだろう。
ミケは彼らを助け出すことを決めると、すぐに行動に移した。
まずは全員を外に出すことを優先することにして、近くにいた子供から順に外へ連れ出していくことにしたのだ。
1箇所づつ順番に牢を開けていくと、全員が無事に脱出することができたようだ。
最後に残った1番小さな女の子は、抱き上げてそのまま外に出ることにした。
外へ出る頃にはすでに日が暮れかかっていた。
救護者を冒険者ギルドに連れていくことにする。
冒険者ギルドへと辿り着くと、全員が床に倒れ込んだまま動かなくなった。
無理もないだろう。ずっと牢に閉じ込められていたのだから体力的にも精神的にもかなり消耗しているはずだ。
救護者のことはギルドに任せた。
ペットの捜索をしていて、違う問題に遭遇してしまった。
本来ならば無視するべきなのだが、吾輩の良心により救助に至った。
明日は本来の目的のペットの捜索をすることにした。
翌日、ペットの捜索を再開する。
ふとあることを思い出した。
それは昨日、闇ギルドで聞いた裏ルートについてだ。
なんでもスラム街の方に行けば、高額な報酬の依頼もあるらしいという話だったが…
引き続き捜してみる価値はあるかもしれない。
ミケは立ち上がると外へ出た。そしてそのままスラム街へと足を運ぶことにする。
しばらく歩くと怪しい場所へ辿り着いたようだ。
そこはかなり大きく広い建物だった。おそらく酒場か何かだろうと思われるが今は誰もいないようだ。
中に入ってみるとやはり誰もいないようだったので、奥にあるカウンターらしき場所に向かうことにした。
そこで野盗らしき男と遭遇することになる。
身長2メートルはある巨漢の男だったのだが、その風貌は明らかにカタギの人間とは思えなかったのである。
しかもその手には巨大な斧のようなものを持っており明らかに戦闘態勢に入っているように見える。
これはまずいと思ったミケは、すぐに逃げようとしたが、すでに遅かったようだ。
男はこちらに向かって突進してくるとそのまま斧を振り下ろしてきたのだった。
咄嵯の判断で避けることには成功したものの完全に避けきることは出来ずに左肩を軽く斬られてしまった。
痛みとともに鮮血が飛び散っていくのが見えると同時に地面に膝をつく。
そんなミケを見た男はニヤリと笑うと再び攻撃を繰り出してきたのだった―
この大男はかなり戦い慣れているようで、動きに無駄がないうえに一撃一撃が重い。
しかも武器の扱いにも慣れている。
こちらが攻撃を仕掛けても簡単に避けられてしまうため、反撃の隙が全く見当たらないのである。
このままでは埒が明かないと考えたミケは、ある方法を使うことにしたのだ。
それは、敵の懐に飛び込むことによって至近距離から魔法を放つという単純なものだったのだが、これが意外にも上手くいったのだ。
男は咄嵯の攻撃を避けることができずにまともに喰らうが、それでも致命傷には至らなかったので、すぐに体勢を立て直されてしまう。
その後も何度か同じことを繰り返した結果、ついに倒すことに成功したのだった。
しかし、こちらもかなりのダメージを受けてしまったためこれ以上の戦闘は厳しい状況である。
そこで一旦引くことにしたミケだったが、背後から何者かが近づいてくる気配を感じ取ると、慌てて振り返った。
そこにいたのは意外な人物だった。
それはなんと、昨日の女性だったのだ。
彼女は無言でこちらを見つめていたが、その瞳にはどこか悲しさのようなものを感じたような気がしたのだ―
なんだ、この女…
そう思いながらもとりあえず警戒していると、突然彼女が話しかけてきた。
彼女は自分のことをサビと呼ぶように言った後、こんなことを言い出したのだ。
どうやら吾輩の仲間にして欲しいということらしいのだが、一体どういうつもりなのだろうか。
正直言って全く理解できない話ではあるが、まあ断る理由もないし、別にいいかと了承することにした。
こうして新たな仲間を得た吾輩は、酒場から一旦離れ休息することにした。
それにしても、この女…一体何者なんだ…
前後の関係値を全く気にしないでストーリーが進んでいきます。作成してる私自身も驚きを感じます。
この違和感を楽しんでもらえると幸いです。