発覚
「そっカ……まあ、あなたが良いならいいと思うケド。それじゃあさっそく準備するネ。シスターアズリア、少し離れてもらってもいいカナ?」
「ああ、ごめんなさい。今退くわ」
頷いたハトリールに言われて、破壊された壁の瓦礫に立っていたアズリアは場所を変えてハトリールを見守った。
「さて、じゃあこの盃を媒介にシテ……って、アレ? おかしいナ」
「どうかしたのか?」
ハトリールが魔法を失敗することなんて中々ないが、どうやら手間取っているらしい。
「いや、なんて言えばいいんダロ。拒絶されてるんだよね、この盃カラ。たぶん、魔法に対して高い耐性があるんダヨ。アンチマジック? そんな直接的な物じゃないカ。シスターアズリア、何か分か……って、どうしたノ?」
何やら俺には良く分からないことを呟き始めたハトリールの視線に釣られてアズリアを見ると、戦慄したような表情を浮かべて肩を震わせていた。
端的に言えば、怒っていた。
「ちょっと錬金術師殿、いえ、クソ異教徒! あんた、冥竜教会の所属でしょ! 黒くてまがまがしい装束とか杖、怪しいと思っていたのよ!」
アズリアはハトリールを指差して怒号を放った。
「その盃から手を放せクソ異教徒! 私の親愛なる同士からの贈り物を、汚すんじゃない!」
「おいおい、どうしたアズリア、落ち着けよ」
な、なんだ?
俺もハトリールも何もしてないと思うが、一体なにがシスターアズリアの逆鱗に触れたんだ。
「な? 一旦落ち着いて話し合って――」
「放せって言ってるだろ! クソ異教徒!」
「だ、だから話を……」
どうにも原因はハトリールが盃を握っていることにあるみたいだが……さっきはあいつが自分で手渡していたよな?
ハトリールの反応を見ようと思って振り返ってみると、ハトリールはため息交じりに盃を地面に置いた。
「ほら、これでイイ? 私、あんまり争いごとは好きじゃないんだケド」
「ッ!? よくも、よくもそんなのうのうとしていられるわね! あんた、私たちがどれだけあなたたちに対して怒りを覚えているか、分かっていないとは言わせないわよ!」
杖も壁にかけ、両手を上げて降参のポーズを示したミーアトリアに対してアズリアはなおも怒りの視線を向けていた。
どうにもシスターアズリアはハトリールに対して並々ならない怒りを覚えているらしい。
「な、なあ、何がどうなってるんだ? アズリアはどうして急にキレたんだよ」
「簡単に言えば宗教間のいざこざダヨ。たぶん、あの盃には異教徒が使う魔法に対して防衛術式が施されてたんダ。それに、シスターアズリアの所属する聖竜教会と私の所属する冥竜教会は犬猿の仲でネ。昔、いざこざが起こった結果冥竜教会は聖竜教会の信徒を五万人ほど殺したって話」
「それはまた……あれだけ怒るのも分かるってもんだな」
宗教間のいざこざってのは恐ろしいって聞いてたが、五万人なんて相当な規模だ。それだけのことをされていたら怒るのも無理はない。
「でも、あれはもう何世代も前の話だヨ。今じゃあ小競り合いこそあれ、正面からぶつかったりはしなイ。それに個人間での争いに発展したなんて前例、聞いたことないんだケド」
ハトリールは心底面倒くさそうにそう言った。
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