邪竜教
俺たちのたまり場だった場所は、相変わらずボロボロだったが、実は少しずつ片付けが始まっていた。役所のほうで人員を派遣してくれて、軽く修繕してくれるとのこと。もちろん元通りにするのは相応の金がかかるので難しいが、せめて屋根と壁がある小屋くらいにはしてくれるらしい。
そういうわけでもともとリビングだった場所は、一応座って話をすることくらいはできるようになっていた。相変わらず壁はなく、残骸が散らばっているが。
マナは槍を持ったままソファに座った。ナシュはマナの左手に抱き着いて、こちらを見つめている。
なんだか姉と妹みたいだ。
「それでー? マナたちに何か用かなー?」
「そ、その、私たち、何も悪いことはしてない、です」
「酷いことをするつもりはねえよ。悪いことをしたのかしてないのか、これからどうするべきか、考えるために話を聞きたくて連れてきた。俺はこの街を管理する役所の職員でな、問題を起こされるのは面白くないんだ」
マナは相変わらず張り付けたような笑顔を浮かべ続けておどけているし、ナシュはずっと縮こまって不安そうにしている。こんな2人からまともに話が聞けるとも思えないが……まあ、やるだけやってみるべきだろう。
「まず、2人は邪神教の信徒で間違いないな?」
「そうだねー、間違いないよー」
「アクシル王国一帯を管理する本部の所属です」
「アクシル……ここからミクアを超えて西のほうに行った国だな。確か、邪神教の総本山か」
「は、はい」
ハトリール曰く、邪神教の信徒の8割はアクシルに住んでいるらしい。月初め集まりは地域ごとで行うが、年に1度、年末年始の数日はアクシルへ行き、1年の反省をしていると聞いた。
教皇や枢機卿がいるのもアクシルにいるというし、本当に信仰のもととなっている地だ。
「どうしてあの男たちともめてたんだ?」
「ちょっとお話してただけだよー?」
「マ、マナちゃん、ちゃんと答えたほうがいいよ? ……その、道を尋ねたんです。そうしたら、あんな狭いところに案内されて邪神教徒だろ、って、詰め寄られて。多分、聖竜教の人たちなんだと思います」
「ああ……」
つまり、アズリアと同じく邪竜教に対して強く当たるタイプの過激派か。ハトリールも来て最初のほうは苦労したと言っていたな。
メリウスはあくまで国教を持たない中立の地だ。というか、隣接するアクシル王国、ミクア王国がそれぞれの宗教を代表していて代理戦争をしていた過去こそあるが、ほかの国ではそういった争いの記録はないはずだ。
それがどうして、メリウスでそんなことになってんだか。
「で、マナが殺そうとしたと」
「してないよー。マナ、物騒なこと嫌いだしー?」
「嘘を言うな。悪いが、殺気を読むのは得意なんだ」
「ふーん?」
マナは、俺を試すかのようにじろじろと見つめてくる。なめいるように、脅すように、目のふちを下げて、侮蔑するような眼差しを。
けれどすぐに目を伏せ、溜息を吐いた。満足したのだろうか。
そうとは言え警戒を解かずに待っていると、マナが口を開いた。
「メイゲル・シュラインって、メリウスの勇者の名前だよねー。本人?」
「そ、それ、私も思ってました」
「追放されたって話だったよねー? なんか妙に強気だしさー?」
「だったらどうなんだよ」
「いやー? 殺気を読むのは云々ってのに、信ぴょう性があるなーって」
「……本人だよ。納得したか?」
正直宗教関係者にばれるのはあんまり嬉しくない。聖竜教徒にとっては反逆者も同然だし、邪竜教徒にとっては敵対宗教の戦士だ。けど、正直すでにばれてるようなものだし、隠せるとも思ってない。
「まあ、納得したかなー。……ねえ、ナシュ?」
「う、うん」
マナがナシュに目配せをすると、ナシュがおもむろに立ち上がった。そして右手に力を込めて胸元に持ち上げ、決意を固めた目で俺を見下ろした。
何事だろうと思っていると、小さく口が開かれる。
「あなたのことを、愛しています」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。




