仲裁
「おいレイ! クソ! よくも!」
小剣の男はレイと言うらしい。攻撃の受け方が良くなかった。気を失ったりはしてないが、しばらくは痛みで起き上がれないはずだ。
それをかばうようにもう1人の男が剣を振り上げる。だが、それは槍を相手にはあまりにずさんな行動。リーチで敵わないなら速度で攻めるのが定石だ。それを破れば、当然距離を取られる。
マナは迷わず一歩引く。標的を見失った剣は掲げられたまま動きを止める。おろせば隙になることくらいは分かるらしい。だが、そもそも気づくのが遅かった。ちょうど槍一本分の間を開けて、マナが男の首元の高さまで腕を持ち上げる。
「めっちゃ弱者で草ーって感じー? これでマナさんに挑んできたならちょっと愚者かもねー?」
マナの声からは明らかな余裕を感じる。汗のひとつもかいていなさそうだ。相当の手練れだな、こいつ。
それに、ようやくわかった。どっかで見覚えあると思っていたんだよあの格好。
色と言い刺繡と言い、こいつら冥竜教徒だ。ハトリールが以前見せてくれた正装。ちょっと改造されてるが、間違いなくそれだ。あの槍のほうにも見覚えがある。あのまがまがしい雰囲気、多分だけど死の斧の親戚だ。
こういう圧倒的強者に出会ってしまったとき、落ち着いてるやつなら行動を間違えたりはしない。
選択肢は常に2つだ。1つは逃げる。もう1つは、脅す。
「おい、そこの女」
「んー?」
マナが振り返る。向きで言えば、ちょうど俺のいるほうを見た。
ただし、マナを呼んだのは俺じゃない。あと1人残り、静観していた男だ。そして、そいつの右手にはナイフが、左手はもう1人の女の肩に置かれていた。
「こいつを殺されたくなかったら動きを止めろ」
「それ、脅しになってなくて草ー。こっちもすぐ殺せるんだけど?」
「そいつを殺して困るのはお前だ。俺がこいつを殺しても正当防衛になるが、お前が殺せば殺人の罪に問われる」
「意味不明ー。それどういう理屈ー?」
「それが余所者の定めだ」
緊張感が走る。互いに互いの仲間の命を握っているこの状況。普通に考えればマナのように五部の状況。何の脅しにもなりやしない。だが、男の言う通り騒ぎになって困るのは邪竜教徒のはずだ。
そもそも邪竜教は好かれた宗教じゃない。ただでさえ悪い評判を、これ以上落としたくはないはずだ。
いや、まずいなこれ。
俺は角から飛び出す。あえて気を引くように大きな音を立てる。男が振り返るのを確認する間もなく右手を握り、捻る。そのまま左手に毒を流し込んで脱力させ足を払いそのまま背後に叩き付ける。
男が手放したナイフを拾い上げ、女の手を引いて男から距離を取った。
「え? あなたは?」
「おいお前」
「んー? マナさんのことー?」
マナは小首をかしげて見せた。愛らしく、あざとく見せるその姿に、俺は
舌打ちしそうになる。
こいつ今容赦なくこの場の全員を殺そうとしていた。ナイフを持った手に力が入ってないのをしっかりと確認していた。最初に倒した男の位置も確認してたし、槍を持つ手に力が入っていた。
何なら、俺のほうも一瞬見てた。
「こいつを殺されたくなかったら槍を下ろせ。……悪いな嬢ちゃん、ちょっと我慢してくれ」
「え? え⁉」
手元の女の首にナイフを突きつける。悪気はないが申し訳ないので、一応謝っておく。
「一応言っておくが俺は本気だ」
「ナシュに謝ったのに?」
「それとこれは別だってわかってるはずだ。話をしよう、まだ間に合う」
「ふーん? ……この愚者さんたちはー?」
「放っておけばいい。俺のほうで何とかする。おい、そっちのお前」
この場で唯一まともに動けそうな、マナに槍を突きつけられたやつを見て言う。
「役所に報告しとけ。俺はメイゲル・シュラインだ。この名前を出しておけば、すぐ解決する」
「っ、な、なんなんだよお前ら! あ、頭おかしいんじゃねぇのか⁉」
「いいから、さっさと行かないと本気で殺すぞ、そのマナって女」
「……わ、分かった。もう抵抗しねぇ」
「そうしておけ。……マナと、ナシュであってるか?」
「んー」
「は、はい」
「こっちついてこい」
正直俺もなにがなんだかわからない。けど、このままこいつらを放置するのは絶対だめだ。ここはひとまず、この邪竜教の2人をどうにかしないといけない。
誰にも迷惑をかけそうな場所。ひとまず、いまだボロボロな俺たちのたまり場に向かうことにした。




