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ネナ

「ウチ、イゼに言われてアイナ・ニコルスっていう貴族の調査のためにきたっす。旦那が依頼したんすよね?」

「ああ。表面上いい顔してるけどな。疑いたくはないが、迷惑かけた家の子だ。恨まれてたって不思議はない」

「その辺は聞いてるっす。正直、ウチからはお気の毒に、としか言いようがないっす。で、本題なんすけど、不法侵入の件すよね?」

「そうだ」


 脅しに屈したネナは急におとなしくなり、ミーアトリアが掃除を再開したのを横目にベッドに座って話し出した。

 

「まさかばれるとは思わなかったす。証拠は残さなかったんすけどねぇ。でも、それもこれも旦那の依頼のためだったんすよ? 法を犯したのは、謝るっすけど」


 やっぱりやってやがったか。

 

 アニマル盗賊団。かつてミクア王国で活動していた獣人主体の団体で、主に貴族の館を襲っては金目のものを盗んでいく、はた迷惑なテロ集団だった。ちょうど俺が勇者として活動し始めたころに現れ、俺がその捕縛に協力した集団だ。

 何度かの接触の後、犯行場所を予測したことで無事捕縛。人殺しこそしなかったが重罪として処理され、メンバーのほとんどは今なお牢獄の中だ。


 ただ、ネナだけはその頭の良さを買われて、条件付きで仮釈放されている。


「国に言われて探偵の真似事やってるんだろ? 義賊なんて名乗って盗みをするなんて、盗賊やってた頃と変わらないじゃないか」

「……ん? 何の事っすか?」

「いや、だからアイナの家で盗みを働いたって話だろ?」

「してないっすよ、そんなこと。てかやったらウチ死刑っす」


 ネナの表情に嘘や冗談の色はない。ミーアトリアが目を光らせているし、今更ごまかす必要もないはずだ。

 じゃあ、本当にしてないのか?


「でも、アイナの家には入ったんだろ?」

「はい、調査のために。でも、裏口のカギをちょこっといじって、仕事部屋の資料をちゃちゃっと写しただけっすよ? 盗みなんてしてないっす」

「だとすると、別に犯人がいるのか?」


 今回ネナを真っ先に疑ったのは、ネナとイゼには面識があること、イゼが招集できる人材にネナしか心当たりがなかったこと、そしてネナが請け負ったはずのアイナの調査を結び付けたからだった。

 実家ではないとはいえ貴族の、それも騎士が住む家だ。簡単に侵入して盗みを働けるようなやつ、ネナ以外に心当たりはなかった。だからこそこいつだろうと踏んだし、酒好きだったのを思い出して酒場に行ったのだが。

 犯人じゃ、ないのか?


「まあ、ウチはやってないのでそうなるっすね。……え? じゃあもしかしてウチ、濡れ衣着せられたんすか?」

「……濡れ衣というほど濡れ衣ではなかっただろ。実際不法侵入はしたわけで」

「でもでも、盗人をウチだと勘違いしたんっすもんね?」

「それは……」


 実際勘違いだし、ほんの少しの罪悪感がわいてきた。それを表情に出してしまったのか、ネナはそらした視線を無理やりとらえてきて、口元を丸めて笑ってきた。なんか、子犬みたいな口してる。

 結構あおり性能の高い笑顔だ。


「なんすか旦那。勘違いであれこれされたウチに何か謝ることはないんすか? ねえねえ! 謝ることないんすか⁉」


 くっそいい笑顔をしてやがる。正直今すぐにでも殴ってやりたいが若干乱暴してしまったのも事実。癪だが、非常に癪だが仕方ない。ここは頭のひとつでも下げて穏便に――


 と、思った瞬間。

 ドン、とネナの座っていたベッドが激しく揺れた。それに合わせてネナの背筋が伸び、髪が逆立ち、耳がピンと立った。


「ネナ様? あんまふざけたこと抜かすと雑巾を口に詰めるぞでございます」

「キャッ⁉ と、とんでもないっす! じょ、冗談っす! 冗談っすから! 金ロリのご主人様にそんなことしないっす!」

「あと次金ロリとか呼んだらモップをけつにぶっさしてやるからなでございます」

「ひぃっ⁉ 怖いっす! 旦那、この子怖いっす!」


 ネナは泣きついて来ようとしたが、足を絡ませて地面に顔からぶつかった。


 優秀なはずなんだが、ところどころ抜けてるやつだ。

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